「東京急行電鉄株式会社」は9月2日から、「東急株式会社」に商号が変更された。鉄軌道事業は会社分割により、新たに東急が100%出資する「東急電鉄株式会社」として、10月1日から事業を実施する予定となっている。
商号変更に合わせ、9月2日に報道関係者および投資家向けの「長期経営構想説明会」が行われ、東急代表取締役社長の高橋和夫氏が今後の経営構想などを説明した。
同社の経営構想については、グループスローガン「美しい時代へ - 東急グループ」をもとに、サステナブル経営、すなわち持続可能な経営のテーマを受けて策定された。沿線内外の各エリアに対し、「交通インフラ」「都市開発」「リテール・生活創造」「ホスピタリティ」の4つの事業戦略を組み合わせることで構想の核を成している。
東急線沿線では沿線人口のピークの予想が2035年であるとし、他地域と比べて優位性があると説明。東急線沿線とその付近では、2022年度開業予定の相鉄・東急直通線をはじめ、これからインフラが整備されていく地域も多い。高橋社長はこれら地域のポテンシャル向上を積極的に事業に取り込み、より沿線価値を向上させる姿勢を示した。
エリアごとの戦略について、まず渋谷では、現在進められている再開発プロジェクトの継続的推進や国際競争力の強化などを掲げた。あわせて田園都市線の渋谷駅改良工事を含むインフラ整備も今後検討していくとのこと。
多摩田園都市(溝の口から中央林間にかけてのエリア)では、鉄道や不動産、生活サービスなど各事業の総合力を一体的に発揮し、街の活性化に取り組む。今後懸念される高齢者人口の増加に合わせ、その先進事例に挑戦すべく施策を打ち出していくと述べた。
各沿線重点エリアでは、地域それぞれの特性に応じた事業機会の獲得と創出をめざしている。とくに多摩川流域では新空港線計画や外環道延伸などによる今後の価値向上、新横浜周辺では東急新横浜線開通によるアクセス向上や来街者増加が期待できる。
その他、東急沿線外の国内において、インバウンドや国内余暇人口増加に伴う交流人口の取り込みを軸に各地のポテンシャルを見極め、ホテル・リゾート事業や空港運営を進めていく。海外においても、進出済みのベトナム、タイ、オーストラリアを中心に、新たな事業の機会を獲得しつつ、各地での都市開発を展開する構想を示した。
事業ごとの戦略は交通インフラから順に説明。鉄道事業では安全性の追求、公益性と収益性の両立を基本に、混雑緩和など快適性の追求やネットワークの拡大を図るなど事業成長に取り組む。
ネットワークの拡大とともに、輸送力増強も視野に入れている。現在、田園都市線では新型車両2020系への置換えが進んでいるが、2020系では1編成ごとの乗客定員数が従来車より50人増加するため、輸送力の増強が見込まれる。近く目黒線にも新型車両3020系が導入され、相鉄・東急直通線の開通後は現行の6両編成から8両編成になる予定。鉄道の輸送力増強は着々と進んでいると見て取れる。
2030年目線として、ワンマン運転あるいは自動運転といった運転の省力化や、人材育成、オペレーションの高度化も構想に含めた。ワンマン運転は現在、池上線・東急多摩川線などで行われているが、今後の波及に向けてさらなる研究が進められている。これらに関して、分社化を契機にスピード感を持って取り組むと高橋社長は説明する。
鉄道以外の交通インフラについては、空港運営とMaaS(利用者の目的や嗜好に最適な移動手段を提示するサービス)を軸に観光事業と組み合わせることで、地方拠点でのビジネスモデル確立をめざす。既存の交通インフラにもMaaSを組み合わせることで、地方だけでなく東急線沿線の移動の活性化につなげていく。
都市開発事業では、東急ならではの強みを生かし、これからの社会課題の解決と事業の成長を国内外で実現させる。また、不動産事業から都市経営への進化として、生活サービス関連事業との総合力を発揮し、ITを活用して次世代型事業に発展させることも盛り込んでいる。
生活サービス関連事業では、生活インフラ、ウェルネス、エンタメの3つの視点から、顧客ニーズの多様化や生活スタイルの変化に応じた消費者・利用者志向の経営をめざす。将来的には、リテールの各店舗にAIやビッグデータなどの新技術を導入することによる生産性の向上や、利用者の新たな生活体験につなげていくとしている。
ホテル・リゾートの観点では、グローバルマーケットや次世代に訴求するブランド向上をめざす。現在、東急が計画している「新宿 TOKYU MIRANO」の再開発においてもホテル出店を推進しているほか、まちづくりと連携して新たな事業領域にも挑戦していくと発表した。
これらを踏まえ、東急は今後の成長が期待されるエリアや都市経営視点での戦略投資領域が存在するとして、事業への投資を継続。数値目標としては、2030年時点で東急EBITDAが3,000億円、親会社株主に帰属する当期純利益が1,000億円と定めた。株主還元については、総還元性向30%を早期に達成した上で、株主還元規模の拡大をめざす。
最後に「未来への挑戦」として、2050年目線で東急ならではのノウハウとリソースを生かし、世界が憧れるまちづくりをめざすこと表明。「City as a Service」構想と題し、各種データをもとにデジタルな都市基盤を整備して、現実の都市基盤へのフィードバックも図る。これにより、ひとりひとりのライフスタイルに合わせたサービスの提供と自律的な地域経済の支援にも挑戦していくという。
高橋社長は説明会の中で、「2050年目線の実現をめざしたい未来に向かって、まずは2030年までの10年を着実に推進し、『City as a Service』にもチャレンジしながら、美しい生活環境を創造し続けます」と決意表明した。