獺祭はなぜこんなに人気なのか? ――今回は全国に155店舗(2018年12月末時点)を展開しているダイナックで、酒の品揃えから店舗スタッフの酒サービスの教育までを統括している坂口一禎さんにその魅力をうかがった。飲食店の現場では獺祭はどのようなポジションの酒なのだろうか?

  • 日本酒業態も展開しているダイナックの課長代理 坂口一禎さん

酒スペシャリストに聞いた「獺祭」の魅力

ダイナックでは接待に人気の「響」を筆頭に、「季響」や「咲くら」「コトブキ」「虎連坊」など日本酒を種類豊富に揃えた飲食店を多く展開している。坂口さんや各店の店長は、全国各地から選りすぐりの日本酒を独自にセレクトして提供。中には日本酒だけでも40種類近く揃え、"店長の隠し酒"まで用意している店まである。

そんな中でも獺祭は、圧倒的な認知度を誇り、日本酒好きでないお客でも知っている超有名な酒として存在感を発揮しているという。「若者の酒離れが進み、昔ながらの純米酒だと重すぎるというお客様もいらっしゃる中で、白ワインのような華やかな香りで、日本酒業界に革命を起こしたのが獺祭と言えるでしょう」と坂口さん。

  • 坂口さんはSAKE DIPLOMAなど多くの酒の資格を取得している酒スペシャリスト

ちなみに坂口さんご自身は日本酒の専門資格であるSAKE DIPLOMA(JSA認定)や、ワインのソムリエ(JSA認定)、ウイスキーエキスパートと多くの酒の資格を取得している。同社にはこのように複数の酒資格を取得している酒スペシャリストがたくさんいるという。

「獺祭の味の特徴は、フルーティーで洗練された口当たり。すっきりと飲みやすいのがポイントです」(坂口さん)。米を磨いて精米度数を高めているので、大吟醸の部類に入り、「柑橘系の酸味やオレンジをかじったときのような苦味も感じられるのも特徴。大吟醸だけれども意外に甘ったるくなく、後味がだれないのが魅力です」と説明する。坂口さんによると、大吟醸だから最初の一杯だけとなるのではなく、ずっと飲み続けても疲れないというのも魅力の一つなのだとか。

一般的に精米度数の高い大吟醸は値段も高めだ。しかし「獺祭だと高くても注文するお客様が少なくありません」と坂口さん。お客にとって、有名酒のプレミアム感を堪能できる食体験は何ものにも代えがたいのだろう。最近では米国・ニューヨークにも進出しており、グローバルな蔵元としても知られているので期待を寄せるお客も多く、老若男女に支持されているという。

「獺祭」と料理のマッチング

獺祭は透明感のあるキレイな味わい。だから同じように繊細な旨味の料理と相性が良いという。例えば「季響」(東京・大手町)では現在、ハモのコース(税別7,000円)と獺祭をペアリングで楽しむことができる。「獺祭の酸味・苦味に、ハモの梅肉やスダチが同調して、洗練された旨味を堪能できます」と坂口さん。

  • 東京・大手町の「季響」では夏場はハモのコースを獺祭と一緒に味わえる。9月7日まで

「虎連坊」大手町店では「おまかせ酒肴5種盛り合わせ」(税別1,250円)がおすすめ。ウニ醤油・イチジクのクリームチーズ・イカ墨造り・鶏ささみ梅水晶などの盛り合わせで、酸味・苦味・甘味……といろいろな味が一度に盛り込まれているので、獺祭とどれが一番合うか、人それぞれ自分好みのペアリングを探しながら楽しめる。

  • 「咲くら」の「鰻と黒毛和牛の柳川」

「咲くら」新宿東口店では「鰻と黒毛和牛の柳川」(税別1,100円※9月からは鰻をハモに変更)。先に獺祭を注文しておき、10度くらいに温度が上がってきたところで、柳川と一緒に味わうのが特におすすめなのだそう。

「キンキンに冷えているのもいいですが、少し温度が上がると日本酒の味が広がり、より柳川鍋の出汁に合います」と坂口さん。さらに「獺祭はなめらかなテクスチャーなので、茶碗蒸しなど同じようななめらかな舌触りのものとも合います。柳川のような卵料理とも合うというわけです」と教えてくれた。

  • 「季響」では獺祭をワイングラスで味わってもらう

味だけでなく、テクスチャーでもペアリングを考える。そして酒器にもこだわる。「季響では大吟醸や吟醸酒はワイングラスでの提供を推奨しています。純米酒や本醸造などは南部鉄器やすずなどの酒器で提供しています」と坂口さん。酒器一つで味の印象は全く異なるという。このような同社のこだわりは、毎月・第3金曜日に「響 赤坂店」で行われる"酒蔵の会"でも詳しい説明を聞きながら料理と一緒にペアリング体験ができるという。

ちなみにダイナックの店でいま獺祭が味わえるのは、前述の「季響」・「虎連坊 大手町店」・「咲くら 新宿東口店」の3店舗。気になった方はぜひ夏を涼みに出かけてみてはいかが?