現在放送されている広瀬すず主演のNHK連続テレビ小説『なつぞら』(毎週月~土曜8:00~)を手掛ける脚本家・大森寿美男氏。朝ドラを手掛けるのは、『てるてる家族』(03~04)に続いて2度目となったが、『なつぞら』は記念すべき100作目ということで、かなりプレッシャーを感じながら執筆したと言う。脱稿した大森氏を直撃し、『なつぞら』の制作秘話を聞いた。

大森寿美男氏

『なつぞら』の脚本を手掛けた大森寿美男氏

――脱稿した今の心境から聞かせてください。

終わったという開放感はまだないです。すごく達成感が味わえるかと思っていたけど、このドラマがこれから先もみなさんにどう受け止められるかと、まだまだ不安です。最後まで満足していただければ、そこでやっと責任が果たせる感じです。まあ、書き終えたので、最低限のことはできたかなと思いますが、まだビクビクしています。

――どういう点が不安ですか?

アニメ部分がどういう仕上げになるのか、全く想像がつかないところもありますし、自己満足だけで終わっちゃいけない企画だと思っているので。関わっている人たちの数が多いから、どこまでみなさんがこの作品に満足していただけるか、というところです。なによりも広瀬すずさんに最後まで全力で駆け抜けてほしいです。それを見届けないと、僕の責任も果たされない気がします。

――『てるてる家族』の時と比べて、プレッシャーの大きさは違いましたか?

全然違いました。100作目ということで、どうしても注目されるし、広瀬さんをはじめ、みんなに成功してもらいたいという気持ちが強かったので。もちろん自分の力で、成功に導くぞ! という意欲はあるけど、そんなに自分のことを信用しているわけでもなかったので。

自分はどこを目指せばいいのか? と、悩んだところもありましたし、『てるてる家族』とは、書くスピードが全く違いました。もちろん年をとったせいかもしれないですが、書き上げる速度、期間は、前回の倍近くかかりました。『てるてる家族』のペースで書いていたら、きっとオンエア前に書き終わっていたと思います。

  • なつぞら

――『てるてる家族』の時代とは違い、ネット媒体やSNSなどでダイレクトに感想がアップされますが、そういう反響には目を通しますか?

『てるてる家族』のころは2ちゃんねるくらいでしたね。今は恐くて見られないです。ようやく書き終わったので、勇気を出してチラチラ見たりはしますが、いわゆるエゴサーチ的なことはしないです。Twitterも自分がフォローしている人の書き込みは見ますが、「#なつぞら」とかで検索はしないです。

――たとえば、できあがった映像を観たり、ドラマの反響を聞いて、脚本に手を入れたりすることはあるのですか?

映像を観ている時点で、脚本はかなりその先まで書いちゃっています。特にアニメーション編に入ってからは、ほぼ終わり近くまで書き進めているので、そこで修正するということはないです。

――主演の広瀬さんとは直接話されたりしましたか?

ほとんどしゃべってないです。僕はあまり現場に行ったりしなくて、ほとんどお任せしています。ただ、広瀬さんについては、難しい役を本当に自然体で、かつ強い表現でやってくださっているなとは思います。どこかなつと重なる部分を感じますね。

――それはどういう部分ですか?

なつは根本的にすごく孤独な人で、人に依存できない性格だと思っています。もちろん人との関わりをすごく大事にするけど、踏み込んで「自分のためにこうしてほしい」と言えるようなタイプじゃない。そういうところが、なつと広瀬さんとは共通しているような気がします。

常に人に頼らず、自分の力だけで乗り切ろうとするタイプだと、僕は勝手に思っています。だから、周りの俳優さんたちも、広瀬さんに協力し、支えたいという気持ちになるし、現場の雰囲気も良くなっていく。そのへんは全く不安感がなく、広瀬さんの表現が、なつにとっての正解なんだろうなと僕は思っています。

  • なつぞら

――なつは東京へ出てからどんどん成長し、結婚もして強くなっていきますね。

なつが北海道へ初めて連れてこられた時は、自分がどう生きるべきなのかわからず、どこか自分を抑え込んでいたと思います。でも、東京へ出てからは、少しずつ本来の自分を開放できるようになっていって、健気さがたくましさに変わっていったのではないかと。なつの強い部分が出始め、もどかしさが奔放さに見えるようになっていった。人と関わることでなつが変化していくところは、僕も常に意識して書いていきました。

――これから先の見どころについても聞かせてください。

今度はなつが結婚し、自分で新しい家族を作っていくなかで、どういう心理状態が生まれていくのかに注目していただきたい。環境の変化とともに雰囲気が変わっていくので、またぜんぜん違う広瀬さんの表情が見えると思います。

■プロフィール
大森寿美男(おおもり・すみお)
1967年8月3日生まれ、神奈川県出身の脚本家、演出家、映画監督。ドラマ『泥棒家族』(00/日本テレビ)、『トトの世界~最後の野生児~』(01/NHK-BS2)で、当時史上最年少で第19回向田邦子賞を受賞。主なドラマの執筆作はNHK連続テレビ小説『てるてる家族』(03~04)、NHK大河ドラマ『風林火山』(07)、『悪夢ちゃん』(12/日本テレビ)、『64(ロクヨン)』(15/NHK)、『精霊の守り人』(16~18/NHK)など。2009年に『風が強く吹いている』で映画監督としてもデビューし、第31回ヨコハマ映画祭および第19回日本映画批評家大賞で新人監督賞を受賞。

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