NHKの連続テレビ小説『なつぞら』(毎週月~土曜8:00~)で、おでん屋「風車」の女将・岸川亜矢美役を好演している山口智子。山口の朝ドラ出演は、女優デビュー当時ヒロインを務めた『純ちゃんの応援歌』(88)以来、31年ぶりとなり、同作で将来の伴侶となる唐沢寿明と出会えたことも含め、「人生の本当の始まりだった」と感慨深い表情を見せる。そんな山口が、久しぶりに入った朝ドラの現場の感想から、ヒロインを務めた広瀬すずの印象まで、たっぷりと話してくれた。

亜矢美は、なつの兄・咲太郎(岡田将生)の育ての親でもあり、なつが下宿するようになってからは、この兄妹の親代わりのように2人を気にかけ、彼女らしい朗らかな愛を注いでいる。

  • 『なつぞら』

    『なつぞら』岸川亜矢美役の山口智子(左)と奥原なつ役の広瀬すず

――約30年ぶりに戻ってきた朝ドラの現場はいかがですか?

30年! 本当にびっくりですよねえ(笑)。周りから言われて初めてその歳月を実感しています。NHKに帰ってくると、おかあさんのお腹に帰ってきたような安心感がありますが、ほっとする気持ちと同時に、ビシッとしなきゃいけないという、背筋が伸びるような緊張感もあります。

今、撮影現場では、若々しいエネルギーに溢れた出演者やスタッフに囲まれていますが、若さのキラキラ感だけではなく、本気で根性を見せてぶつかってくる気迫と豊かな才能が素晴らしいです。改めてものすごい刺激をいただける毎日です。

――『なつぞら』に出演して、周りからも反響はありましたか?

ちょっと疎遠になっていた友だちや親戚から、「朝ドラ見てるよ」と久しぶりに連絡があったりして、人間関係での絆を深めることにも役立たせていただいてます(笑)。みなさん、毎朝ごらんになってくださっていて、「今日はカスタネットがよかったよ」などと、細部をよく見ていてくださる声をいただけてうれしいです。

――ヒロイン・なつ役の広瀬すずさんの印象を聞かせてください。

広瀬さんとは初めてご一緒させていただきますが、テレビを通して見ていた現代の女の子という一面に加えて、今回、時代を超越した普遍的な大きな魅力を感じています。北海道編では、当時の純朴な少女として大自然の中で生き生きと輝いていましたよね。こんなに吊りズボンが似合う現代の少女がいるんだなと(笑)。

また、本当に頼もしくて、「どこからでも来い」という揺るぎない存在感と力に溢れていて憧れます。堂々としていながらも、とてもナチュラルで余計な力が抜けていて、風のようにさわやか。どうやったらあんな素敵な子が育つのだろうと、つい親御さんと同世代の目線で、ほのぼのと見てしまいます。

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――実際に広瀬さんの演技を間近で見てみていかがでしたか?

ヒロインとしてのすずちゃんの毎日は、とてつもない集中力を要するシーンの連続ですが、全てにきちんと対峙して取り組み、スイスイと乗り越えていくすずちゃんは驚異的です。それでいて、たまに撮影の合間に、同世代の夕見子ちゃん(福地桃子)とふたりで変顔をしてふざけあったり、少女のようなあどけない無邪気な一面もあって、不思議な生命体を見るような気持ちで、感動しながら眺めています(笑)。

すずちゃんを見ていると、かつて自分が同じ立場にいたということが、まったく信じられません。演技も何も知らない素人だった私が、どうやって次から次へと降りかかる難題を乗り切っていたのか、自分でまったく思い出せない。それが「若さ」の力というものだったのか、「朝ドラ」が生み出す魔法なのか? 確かに、何か奇跡のようなものが起きていたのかもしれません。

――朝ドラといえば小道具や美術なども丁寧に作り込まれていますが、それらは役作りにも影響していますか?

当時の小道具や衣装に触発されて、イメージがどんどん膨らみます。1950~60年にかけては、人々が戦争の荒廃や苦しみを乗り越えて進んで行こうとするパワーに溢れていた時代でもあります。当時の写真や映画などを見てみると、世界の文化を旺盛に取り入れて、新しい日本を作ろうとするバイタリティに溢れています。女性たちのファッションが、とてもオシャレで面白い! 亜矢美も、人生の勝負服として旺盛にお洒落を楽しんでいます。

――改めて、朝ドラの現場を踏んでみて感じた魅力についても聞かせてください。

『純ちゃんの応援歌』は、私にとってすべての始まりでもありました。このドラマに出会っていなかったら、私は普通にお見合いして結婚し、旅館を継いで女将になっていたかもしれません。おかげさまで、朝ドラで出会った唐沢寿明さんと結婚させていただき、人生のすべてのきっかけをいただいたと思っています。演技も何も知らないド素人の私を受け止めてくださった朝ドラに、感謝しても、しても、しきれないくらい感謝しています。

30年でどれだけ自分が成長できたのか、まだまだ自信はありませんが、ちょっとでもみなさんのお役に立ち、朝ドラに恩返しをさせていただきたい気持ちです。もちろん今までどの作品も本気で取り組んできましたが、今回はさらに本気で気を引き締めて、しっかりと向き合っていきたいです。

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■プロフィール
山口智子(やまぐち・ともこ)
1964年10月20日生まれ、栃木県出身。1988年にNHKの連続テレビ小説『純ちゃんの応援歌』で主演デビュー。ドラマ『ダブル・キッチン』(93)、『王様のレストラン』(95)、『ロングバケーション』(96)、『ゴーイング マイ ホーム」、声優としては2008年映画『崖の上のポニョ』(08)に出演。

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