NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(毎週日曜20:00~)で、「前畑、頑張れ!」の実況放送で知られるNHKのスポーツアナウンサー・河西三省役を演じているトータス松本。実は、ロサンゼルスオリンピックでは、実況放送が封じられ、あたかもその場にいたような臨場感溢れる“実感放送”が強いられた。トータス松本にインタビューし、その制作秘話を聞いた。

第31回(8月18日放送)で描かれたロスオリンピックでは、日本水泳チームによるメダルラッシュとなった。なんと日本男子水泳チームは、合計12個のメダルを獲得。女性選手では、上白石萌歌演じる前畑秀子が、200m平泳ぎで日本の女子水泳初の銀メダルを手にした。その際の大興奮した河西による実感放送は、実に胸アツだった。

  • トータス松本

    『いだてん~東京オリムピック噺~』で河西三省役を演じるトータス松本

――実際に、日本水泳チームの泳ぎを目にしていかがでしたか?

ロスオリンピックの練習用プールで、初めて水泳の日本選手団と一緒になりましたが、みなさん一丸となって、競い合うように水泳の腕を磨いていました。同じNHKアナウンサー・松内則三役のノゾエ(征爾)くんと2人でメモ帳を手にすると、 本当にその世界にいるような不思議な感覚を味わいました。

外国人選手役の俳優も野次馬的に金網の向こうで見ていたりしましたし、水泳選手たちとアナウンサーとの距離感は、演出されるまでもなく自然にありました。もちろん演出してもらって、さらにその雰囲気が強くなった気がします。

――斎藤工さん、大東駿介さんたち日本の水泳チームは、日焼けして体も鍛え上げ、まさにアスリートそのものでした。彼らを見た印象はいかがですか?

引き締まった体には役者魂を見ました。特に大東くんの体は異常にすごくて、筋骨粒々でした。しかも太陽に当たって、筋肉がものすごくいい感じに陰影がついていてかっこいいんです。当時の男子は女子スクール水着みたいなのを着ているんですが、それをちゃんと着こなしていました。彼らは真剣にアスリートとして練習していて、なかには練習をやりすぎて鼻血を出している人もいたくらいです。

――前畑秀子役の上白石萌歌さんも、見違えるような印象を受けました。

神秘的で、遠くを見ているような目をしていました。前畑秀子さんは写真でしか見たことがなかったのですが、上白石さんを見て、ほんまに金メダルを取れそうな気がしました。気迫というか、佇まいがものすごくエネルギッシュで、血走っているようでした。

  • トータス松本

――実際に、実感放送や実況放送をしてみていかがでしたか?

今残っている当時の音声を聞いたら、割と淡々としているように思えますが、心の中は忙しかったと思います。アナウンサーとしての口調はキープしなきゃダメだし、ちゃんと見ているものを伝えなければいけないという気持ちもあったから。ベルリンオリンピックの前畑さんの場合は大接戦で、ひとかきだけリードしてずっといく感じだったので、気が気じゃなかったはず。でも、あれだけの興奮を抑制して、ちゃんと冷静にやれたこと自体に驚きますし、よくやったなとも思います。

――現存の残っている放送の音源を参考にされたのですか?

多少は参考にしましたが、それをモノマネのようにできるようになった時、果たしてそれでOKかどうかが、自分のなかではいまいち疑問でした。自分の仕事になぞらえて考えると、人の歌をカバーする時、何回も聴き込みますが、その人のように歌えるようになったとしても、それは単なるモノマネにしかならないので。やはりせっかくいただいた役なので、自分の個性みたいなものを盛り込んだほうがいいと思い、途中から聴くのをやめました。

――前畑選手の銀メダル獲得のシーンには胸が熱くなりました。『いだてん』で描かれる女子スポーツの黎明期について、トータス松本さんはどんなふうに感じますか?

僕たちの仕事でいえば、いまでこそ女子と男子が混ざっているバンドっていっぱいいますが、自分が若いころはそんなにいなかったんです。バンドのなかで紅一点の女の人がボーカルを務めるというケースはあったけど、女性がベースを弾いたり、ドラムを叩いたりすることはあまりなかったですね。やはり最初にやりはじめた誰かがいて、それがどんどんスタンダードになっていった。そういうエネルギーみたいなものをリアルに感じます。

――2020年に東京オリンピック&パラリンピックが開催されますが、トータス松本さんはどんなふうに楽しみたいですか?

僕は職業柄、オリンピックについては、やっぱり開会式や閉会式で歌いたいという思いがあります(笑)。だから、選手を応援する意味でも、ねぎらう意味でも、自分の仕事で参加できたら、最高の思い出になるやろなと思ったりもします。でも、水泳はやっぱり観たいですね!

  • トータス松本
■プロフィール
トータス松本(とーたす・まつもと)1966年12月28日生まれ、兵庫県出身のアーティスト・俳優。1992年にロックバンド・ウルフルズのボーカリストとしてデビュー。ソロ活動も行い、ドラマ、CM、映画にも出演する一方で、執筆活動も行う。NHK大河ドラマは『龍馬伝』(10)に続いて2度目の出演となる。そのほかのドラマは『家族のうた』(12)、『スニッファー 嗅覚捜査官』(16)などに出演。

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