都会はとにかく家賃が高く、若い世代の家計を圧迫しています。喜多條忠作詞の『神田川』にある「……赤い手ぬぐいマフラーにして、二人で行った横町の風呂屋……3畳一間の小さな下宿……」にあるような時代と違って、考えられないほど贅沢になっていることも、家計を圧迫する要因でしょう。
新卒の年から月収の3割を10年間支出すると、700万円を優に超えそうです。考えれば勿体ない限りで、家賃はできるだけ低く抑えたいところですが、それぞれ暮らしにこだわりがあり、簡単ではありません。家賃の目安をどのように考えたらよいのでしょうか。
昔のエンゲル係数は今どうなっている?
昔は月収に対する食費の割合を示すエンゲル係数が貧困度の目安とされました。エンゲル係数が5割を超えると、相当家計は苦しいとされて、社会問題となっていた時代があります。
内閣府の統計局では毎月家計調査の統計を発表しています。2018年の大都市の単身世帯のエンゲル係数は25.6%となっています。家計調査は月間統計、年間統計、都市別、世帯数別など細かくデータ化されていますので、より実態に近いデータが把握できます。
但し、住居費については、親元に同居のケースや持ち家のケースも含めた平均値なので、実態はわかりにくくなっています。それでも明らかに食費よりも高額なのは歴然です。
今や都市部では住居費が昔のエンゲル係数にとってかわった感があるようです。
大卒初任給と住居費の割合は?
新規大卒の初任給は、厚生労働省の「2018年(平成30年)賃金構造基本統計調査(初任給)」の結果によると、過去最高の20万6,700円だそうです。それに対して家賃相場はどれくらいでしょうか。3割とすると6万2,010円となります。
都内でも、十分に探せる範囲だと思います。上記エンゲル係数の数値と同等とすると、20万6,700円×25.6%=約5万3,000円となります。えり好みしなければ可能な範囲でしょう。
人それぞれに価値観に違いはあります。ステータスを感じさせるエリアにこだわる方もいれば、激務なので都心や駅近であれば何でもよいと考える方もいるでしょう。広さや設備にこだわる人も多そうです。
特に女性は防犯上の配慮も必要ですので、2階以上限定、オートロック、駅に近い、駅から大通りのみでアパートまで到着する、繁華街等の犯罪の多いところは避ける……など、数々の配慮が必要なので、どうしても家賃は多少高めの設定になりがちです。
私が新卒の年に親から独立した時の家賃の割合は38%を超えていました。間借りでしたのでオートロックではありませんが、23区内で上記の条件に見合った物件を借りました。6畳に出窓スタイルのキッチンがついているだけの、トイレ共同、風呂なしの物件でしたが、当時としてはかなり贅沢の部類でした。当時も3割程度が家賃の主流だったと思います。
生活設計次第で、家賃比率が決定される
私が独立したころは激務でした。建築の設計はいつの頃も激務ですが、当時は高度成長期で、特に忙しかったのです。また若かったので、仕事もめいっぱい頑張りたかったし、いろいろ経験したいことや、いろいろ楽しみたいことも多かったのです。親元からの通勤は1.5時間以上もあり、夜は人通りの少ない道を15分近く歩く必要がありました。しかも都心発の終電が極めて早い時間だったのです。友人や同僚との飲み会も、一人早めに切り上げて帰宅しなければなりませんでした。
住居費がほとんどゼロな状態から38%になるのですから、相当しっかりした人生設計が必要です。
アパートを借りるエリアも慎重に吟味しました。結局若い間に仕事もいろいろな経験も存分にできるように、時間を選んだのです。当時、ファイナンシャルプランナーという言葉は全く知りませんでしたが、『お金を貯められる人と、貯められない人の違いは?FPに聞いてみた』でも述べたように、入社時に上司から言われた「デザイナーになりたかったら、まずは自分自身の人生をデザインせよ」と教えられた通り、実践したのです。
その代わり他の出費は、かなりシビアに取り組みました。激務でも倒れないように睡眠と栄養は重要です。病気にならないように最低限の食費で健康を維持できるようにカロリー計算もしてたくらいです。
月収の3割は、まずは妥当なラインだと思いますが、「将来を考えて家賃は極力抑える」、「スキルアップのために時間を優先」、「安全を優先」など、その人の人生設計に応じて、住まいへの投資度合いは違ってきます。10年間の投資金額を考えれば、安全面等の問題さえなければ、できるだけ低く抑えるのが賢明でしょう。
単身者をベースに述べてきましたが、結婚して子供が生まれた後などは、家庭ごとに収入も諸事情も大きく異なってきますので、一概に何%が適当かは難しいところです。家族が増えれば当然ワンルームとはいかず家賃も高くなります。やがてマイホームを取得した方が得策となる時期が来るからこそ、持ち家比率が高くなるのだと思います。いつまで家賃を支払って、いつマイホームを手に入れるかも生活設計次第です。
■著者プロフィール: 佐藤章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。