YouTubeのキャンペーン「好きなことで生きていく」が世間を賑わせた2014年。その2年前、「好きではないことで生きていく」決心をした一人の女性がいた。当時16歳だった傳谷英里香は、ある日突然、アイドルグループ・ベイビーレイズのメンバーに選出されたことを告げられる。YouTubeにアップされた動画「新アイドルユニットプロジェクト始動#1」には、見届人の菊地亜美から「何でアイドルになろうと思ったの?」と問われ、「なろうと思ってないです」と即答する姿が映し出されている。

  • 元ベイビーレイズJAPANの傳谷英里香 撮影:宮川朋久

「やるならとことん」を信念としていた傳谷は腹を括り、アイドルとして生きることを決意。その上、リーダーを務め、2018年9月の解散までグループのために心血を注ぎ続けた。「誤解を恐れずに言うと、アイドルというものが大の苦手だったんです」と明るく打ち明けられるようになったのは、身をもってその素晴らしさを知ったから。朝ドラ『あまちゃん』の劇中歌「暦の上ではディセンバー」で紅白出場を果たし、日本武道館でのライブも実現。現在まで59万再生を記録している「夜明けBrand New Days」のライブ映像には、パフォーマンスを絶賛する声が解散後も書き込まれている。

アイドルとしての活動を終えた今、傳谷は女優として第2の人生を歩み始めている。自身初の連ドラ『ランウェイ24』(テレビ朝日:7月6日スタート毎週土曜26:30~/ABCテレビ:7月7月スタート毎週日曜23:35~)で演じるCA・浅野あかりは天真爛漫な性格で、数々の困難にもくじけない役どころ。その姿は、どこか傳谷自身とも重なる。

■初ステージ後、流した涙の意味

――今日は、傳谷さんの「困難を乗り越える力」の根源を知りたくて伺いました。

そうなんですね。ありがとうございます。

――今回のドラマでも、客室乗務員として数々の困難に直面するそうですね。連ドラ初出演で緊張……という困難もあったと思います。

普段から緊張しないタイプで。楽しくなっちゃうんですよね(笑)。ワクワクが勝ってしまうというか。もちろん、一番最初のシーンは無意識のうちに緊張だったり、気張っているとは思いますが、メンタル的にはわりと落ち着いていて。何をするにも、周りからは初めてと思われないことが多いです(笑)。

――幼い頃から?

滅相もございません(笑)。大の緊張しいで、人見知りでもあります。人様の前に出るなんて、とんでもない。ピアノを11年ぐらいやっていたのですが、毎年発表会があって、もう大っ嫌い(笑)。出番の前に写真撮られると怒ってたぐらいです。手汗はすごいし、体も震える。そんな子が、今は人様の前に出る仕事をしているので不思議ですね。

――きっと克服するきっかけがあったんですね。

たぶんグループをはじめて、一番最初のステージだったと思います。経験もなかったにも関わらず、1,500人もの方の前に立たせてもらって……。

――YouTubeに動画があったので見ましたよ!

申し訳ないです! あの映像……あー! ごめんなさい。

――なぜ謝るんですか(笑)。事務所の先輩・菊地亜美さんから、突然グループ結成を告げられる最初の動画から、初ライブステージのパフォーマンス、それから約3年後、今でも再生数が伸びているライブ映像を見て驚きました。

みんな別人ですよね(笑)。「夜明けBrand New Days」ですか?

――そうです! とっても感動しました。その6年前の初ライブ直後、傳谷さんは涙を流していましたよね?

自分の固定概念とのギャップに揺さぶられたんだと思います。誤解を恐れずに言うと、アイドルというものが大の苦手だったんです。それを自分の仕事にするという覚悟は、当時16歳の私にとってはすごく大きな決断で。でも、「やるならとことん」というポリシーがあったので、「リーダーになって、グループを引っ張るぐらいの存在になりたい」と。まだ偏見が拭えない中で初めてステージに立った時、人の温かさに触れて「今までの自分って何だったんだろう」と思いました。何よりも、初めて見る私たちをあれだけの人が応援してくださって、「なんて素敵なんだろう」って。マイナスではなく、自分の中ではプラスの涙でした。

――価値観が変わるのは、すごいことですよね。

その日から緊張しなくなりました。ステージに立って見られるということが、一体どういうことなのか。ピアノの発表会で人前に出たことはありましたが、会場はシーン……(笑)。でも、初のステージでは、何をやっても許される空間だったというか。受け入れてもらえる安心感がありました。ファンの方々は器が大きくて、偉大です。いろんなことにチャレンジできる、そう思いました。