6月30日に放送されるNHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(毎週日曜20:00~)の第25回で、中村勘九郎から主演をバトンタッチする阿部サダヲ。彼が演じる田畑政治は日本水泳の礎を築いた立役者で、1964年の東京オリンピックの招致活動におけるキーマンだ。

  • 阿部サダヲ

    田畑政治役の阿部サダヲ

朝日新聞政治部の記者となった田畑は、オリンピックでもっと水泳を盛り上げようと「大日本水泳競技連盟(水連)」を発足させる。続いて陸上チームも負けじと、河野一郎(桐谷健太)たちが『全日本陸上競技連盟』を発足するが、アムステルダムオリンピックにかかる費用のめどが立たない。そこで田畑は大蔵大臣の高橋是清(萩原健一)に直談判し、オリンピック予算の6万円を手に入れる。

マシンガントークでかなりキャラ立ちした田畑役で、フルスロットルの演技を見せる阿部が実に愉快。また、『いだてん』が遺作となった高橋是清役の萩原健一さんが見せる、いぶし銀俳優ならではの圧倒的な存在感にもうなる回となる。阿部を直撃し、これまでの撮影秘話と、最初で最後の共演となった萩原健一さんとのエピソードを聞いた。

――いよいよ第25回から、金栗四三に変わって田畑政治が物語を牽引していくことになります。前半戦とはまた違う見どころがあれば聞かせてください。

やはりオリンピック選手が増えたという点でしょうか。金栗さんが初めてオリンピックに参加した時はたった2人だったし、次の大会もそんなに多くは参加しておらず、メダルもまだ獲ってなかったのですが、ロスオリンピックでは、ものすごく獲ることになります。その時のお祭り具合を見て、選手が楽しんでいる姿がとてもいいなと思います。他の国の選手たちとも和気あいあいとしているシーンがあり、それはオリンピックならではのものかなと。

――演じる田畑政治は、かなりせっかちな性格だと思いますが、実際に史実でもそうだったのでしょうか?

実際に歩くのが速かったり、字も殴り書きみたいな感じで、自分で書いた字すら読めないこともあったらしいです。また、料亭で食事をしたあと、自分の靴じゃない他人の靴で帰ってしまったこともあったらしく、ちょっとせっかちの度を越している人だなと(苦笑)。でも、それはいつも頭のなかで、オリンピックなど別のことを考えたりしていたからだと思うので、そこを参考に演じています。

  • 阿部サダヲ

――台詞もかなり早口で言っていますよね。

嘉納治五郎(役所広司)さんの「彼は口が“いだてん”だな」という台詞があるので、そこを意識して演じています。史実を聞くと、何を言っているのかわからない人だったらしいのですが、ギリギリ聞き取れるくらいのラインまでいけるといいかなと思って頑張っています。

ただ、録音部の人からも「何を言ってるのかわからないです」と言われることもあるので、難しいところですが、なるべく口が“いだてん”に見えるよう、考えるより先に口が出るような感じを出したいと思っています。

――演じてきたなかで、特に苦労された点があれば教えてください。

動きを一連で撮ることが多いのですが、タバコを吸うのに手早く火をつけて、それを逆に吸ってしまい「熱っ」と言うのがなかなか難しくて。当時、両切りタバコでマッチなんですが、NHKだと小道具さんが時代考証を綿密にされていて、片側しかヤスリがついてない当時のマッチを用意してくれるので、どっち側につけるのかわからなくなっちゃう。すごく難しいけど、その一連の動きに挑戦してやっているのが楽しいです。ある種、アスリートがやる競技みたいな気持ちでやっている時もあります。

――高橋是清役の萩原健一さんの重厚な佇まいと眼光がすごそうです。共演してみていかがでしたか?

あの存在感は本当にすごいです。最初のリハーサルで初めてお会いしたのですが、「あ!ショーケンだ!」と興奮しました。大河などをやってないとなかなか会えない俳優さんだと思っていましたが、その時もまさかもう会えなくなるとは、全く思ってなかったです。僕はご病気だったことも知らなかったので。

  • 阿部サダヲ

    田畑政治役の阿部サダヲ(奥)と高橋是清役の萩原健一

――現場での萩原さんの印象についても聞かせてください。

ものすごく熱心な方で、台本にいっぱい書きこみをされていたんです。宮藤さんの台本は、ト書きがそんなに書かれてないんですが、動きについても、なぜこっちに動くのか?とか、そういう意味付けまで考えてらっしゃる方でした。

結局、お金を出してもらったあと、田畑はもう1回高橋さんを尋ねることになるんです。田畑がオランダ土産の木靴を渡すんですが、そのときにショーケンさんがアドリブで、僕を木靴でゴンと殴ってくれたんです。ものすごく痛かったのですが、迫力があるシーンになってよかったです。また、僕が「最後にショーケンさんに殴られた俳優」ということで、箔がついてうれしかったです。

――高橋是清大臣のおかげで、若い選手たちがオリンピックへ行けたわけですが、萩原さんご自身も俳優としてすばらしい足跡を残された方でもありますね。

そう思います。ショーケンさんを目指している俳優はいっぱいいますし、そのシーンのことを、俳優のみなさんもすごく聞きたがるし、「いいなあ」と羨ましがられることも多いです。元々歌手だし、役者をやってからも自由な演技をされている印象があったので、役者はこうじゃなければいけないというルールがないところは、僕自身も憧れていました。だから、共演できてうれしかったです。

――今後、田畑の人生はどうなっていくのでしょうか?

今回の大河は、役者の人数がすごく多いのですが、出会う人によって成長していくところは、田畑にも当てはまると思います。治五郎さんを見て「こういうやり方があるんだ」と知ったし、緒方さん(リリー・フランキー)という編集局長の方もかわいがってくれるし。薬師丸ひろ子さん演じるマリーの占いで「30歳までしか生きられない」と言われるけど、そこからどんどん生きる喜びを感じていき、忙しすぎて気づいたら30歳を超えていたと。結婚もしますし、奥さんの言葉を聞いてまた変わったりもしますし、相当成長していくと思います。

■プロフィール
阿部サダヲ(あべ・さだを)
1970年4月23日生まれ、千葉県出身の俳優、歌手。大人計画所属。大人計画の俳優らとバンド「グループ魂」を結成し、ボーカルの「破壊」としても活動。2007年、『舞妓Haaaan!!!』で映画初主演し、第31回日本アカデミー賞主演男優賞優秀賞を受賞。2010年のNHKドラマ『離婚同居』で連続ドラマ初主演。映画の近作は『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(18)。

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