『警察庁特命捜査官 水野乃亜 ホークアイ』書影

今回の『警察庁特命捜査官 水野乃亜 ホークアイ』は、テレビ局員ならではの視点での近未来の描写も特徴的だ。

例えば、民放局が運営母体の24時間ニュース動画専門サイト。原稿読みは、人気声優たちの声を元に作った合成音声プログラムを使っているという設定で、「自分がやりたいと思ってプロジェクトに提案したことがあったんですけど、当時の技術では実現できなかったんです。1つ1つの音を作るのが大変で、『だったら読んだほうが早いじゃん』って結論に達して(笑)」と、ここでも自身の経験が生かされている。

また、すでに導入されているが、SNSの膨大な投稿から事件・事故の画像や動画をAIが収集するというサービスを、テレビ局や通信社が契約しているという記述も。 「SFではなく、いろんな技術が発達する中で、近未来はどうなっているんだろうということに関心があって常に考えているので、自分がこうなるだろう・こうなったらいいなというものは、わりかし投影していると思いますね」という。そんな中で、大事件が起きてもテレビ東京は通常編成を崩さないという一節が登場するなど、遊び心も忘れない。

■テレビ局でも直面するテーマ

今作は、警察における最新テクノロジーと職人集団のせめぎ合いが描かれるが、それはテレビ局でも直面するテーマだ。初瀬氏は「今の姿がいつまで続くんだろうというのはありますけど、結局伝えるという作業は、AIだけではできないですよね。事実関係とか一部を担うことはあっても、それだけで番組は成り立たない。やはり、テクノロジーと人間の融合というところで、今より進化したものを生み出すということになるんだろうと思います」と、思いを巡らせる。

そして、あらためて今作については「自分が経験したことや感じたことで、なにか少しでも共感してもらうことがあればということで書いているので、付加価値としてテクノロジーのお話もありますが、まずは人間ドラマを見てほしいです」と強調。

『警察庁特命捜査官 水野乃亜』はシリーズ化を想定しており、続編は「今回の1~2年後が舞台になると思います。彼女はキャリアなので、次はもっと上の立場になって、広い視点で事件や組織を見ることになるでしょう」と構想を語っている。

●初瀬礼
1966年、長野県安曇野市生まれ。上智大学卒業後、フジテレビジョンに入社し、社会部記者、モスクワ特派員、報道・情報番組のディレクター・プロデューサーを歴任。小説家として、13年にサスペンス小説『血讐』で第1回日本エンタメ小説大賞・優秀賞を受賞。同作品でデビューし、パンデミックをテーマとした『シスト』(16年、新潮社)、アフリカと東京を股にかけたサスペンス『呪術』(18年、新潮社)に続き、『警察庁特命捜査官 水野乃亜 ホークアイ』を発表した。