フジテレビの現役社員・初瀬礼氏の最新小説『警視庁特命捜査官 水野乃亜 ホークアイ』(双葉文庫)が発売された。昨今注目を集めるAI(人工知能)を1つのテーマとして描いた書き下ろしの長編小説だ。

今回で4作目となる初瀬氏だが、なぜテレビ局員と小説家という“二刀流”の道を進むことになったのか。今作の執筆の裏話なども含め、話を聞いてみた――。

  • 『警視庁特命捜査官 水野乃亜 ホークアイ』著者の初瀬礼氏

    『警視庁特命捜査官 水野乃亜 ホークアイ』著者の初瀬礼氏

■記者時代の人脈生かした描写

この作品は、AIを活用した新たな衆人環視システム「ホークアイ」の導入を目論む警察官僚・佐山の命を受け、叩き上げの刑事・加藤率いる「見当たり捜査」の現場に飛び込んだ刑事・水野乃亜が主人公。「見当たり捜査」とは、容疑者の特徴を頭に入れ、街の中で容疑者を捜し出すという実際の警察で行われている、まさに職人技の手法だ。

水野は、最新テクノロジーと職人集団のせめぎ合いに苦悩する中、チェチェン人の女テロリストが日本に潜入し、都心にある米軍関連施設の襲撃を準備していることが発覚。この計画をめぐり、水野、佐山、加藤の3人の過去と現在が交錯する…。

衆人環視システムは中国で発達し、人権侵害の問題も指摘されているが、一方で「見当たり捜査」の存在を知った初瀬氏は「『働き方改革』が叫ばれる中で、職人たちの仕事をテクノロジーが補う流れができるのではないかと思って、今回のテーマを着想しました」と話す。

物語の舞台は2022年に設定。東京オリンピック後の社会がどのように変わっていくのかを、著者の目線で描いている。その1つが、テロリストによるドローンを使った爆撃。「南米で最近あった事件もヒントになりましたし、フィクションでドローンを使って銃撃を行うという作品もあって、これは兵器という形で使われるようになるなと思ったんです」という。

警察関係者しか客にいない居酒屋での場面や、単眼鏡で行動確認するなど、警視庁担当記者時代の人脈を生かし、刑事ドラマでも見られない知られざるシーンも。さらに、現実に起きた事件をモチーフにした場面も登場させることで、リアルな描写につながっている。

■小説家デビュー作で受賞

そんな初瀬氏が、テレビ局員として働きながら小説を書くことになったきかっけは何か。尋ねてみると、「テレビの生番組は、作品が残らないじゃないですか。それはそれでいいところでもあると思ってたんですけど、10年前に部下がノンフィクションで本を出したのを見て、ものすごくうらやましくなって(笑)」と振り返る。

上司として、その部下の本の編集者と知り合い、「いろんな話をするうちに、『じゃあ書いたらどうですか?』って言われたんです」と思いがけないチャンスが。

「報道時代、記者をしていたので、文章を書くことに抵抗はなかったんですけど、小説ほどの長いものを書くなんて、取材原稿とはお作法が違うし、脚本も書いたことなかったので、1から勉強して書いてみたんです。最初に書いたのはものにならなかったんですけど、それがかなりの文章量になり、自分でもできるかもしれないと思ってあらためて書いたのが、1作目の『血讐』です」と、小説家デビューを果たした。

2013年に発表された『血讐』は、通り魔事件の犯人に死刑判決が下されなかったことで、この事件で殺されたアルバニア人の少女の両親が、現地で古い因習として残る血の復讐(=“血讐”)を宣言するという作品。これが、第1回日本エンタメ小説大賞・優秀賞を受賞し、テレビ局員と小説家という二刀流の道を進むことになった。