グローバル展開は流行のSUVで

一方、中国、米国、欧州などの市場では、「グローバルEV」と呼ぶ車両を販売する予定だ。先般の上海モーターショーでトヨタは、中国に投入するEVとして「C-HR」/「IZOA」をすでに発表済み。ほかに、クレイモデルではあるが、複数の車種を説明会場に展示していた。そのほとんどが、いま流行のSUVやクロスオーバー車の造形を有していた。

  • トヨタEV普及説明会のスライド

    「グローバルEV」のクレイモデル。手前の4つはSUVあるいはクロスオーバー車に見える

日本の燃費規制と違い、中国のNEV(New Energy Vehicle、新エネルギー車)規制や米国のZEV(Zero Emission Vehicle、排出ガスを出さないクルマ)規制、欧州のCO2排出量規制などは、それを達成できない自動車メーカーに対し、クレジットなどの反則金を課す規制だ。中国と米国では、すでにEV導入を強制する規制が施行されており、欧州のCO2規制は2年後の2021年から始まる。トヨタのグローバルEV販売は、規制による反則金の支払いを回避するため、これらの市場から始まるものと解釈できる。

日本には、EVに対する優遇税制などの奨励策はあっても反則金はない。また、無理にEVを導入しようとしても、集合住宅では充電設備導入に関する管理組合の合意形成が必要なので、戸建て住宅以外では設置が遅々として進まない現状もある。ただ、充電設備については、この先10年の間に設置が進む可能性がある。トヨタとしては、静観して状況の好転を待つ構えのようだ。

EVは売った後が大事

100万台の台数目標を達成できたとしても、EVは販売したら終わりというような商品ではない。たくさん売れば売るほど、EVの中古車や事故車なども増えるので、その対応が必要になる。ことにリチウムイオンバッテリーは、EVで使い終わった後も70%ほどの容量を残している。それをそのまま廃棄したり、分解してリサイクルしたりするのはもったいないし、資源の無駄になる。そのあたりを考慮して、トヨタでも当然、中古リチウムイオンバッテリーの査定、中古EVの販売、そして、中古リチウムイオンバッテリーの再利用を計画の中に入れている。

  • トヨタEV普及説明会のスライド

    EVを事業化するには販売後にも目を向ける必要がある

しかし、中古リチウムイオンバッテリーの再利用に関しては、市場でのEVの使われ方により質の程度がさまざまであるため、それを見極め、分類するための高度な技術が必要だ。

日産は初代リーフの発売前に、EVで使用した後のリチウムイオンバッテリーを再利用するための会社「フォーアールエナジー」を設立し、事業化を進めてきた。そして、リーフ発売から約10年後の昨年にようやく、短時間で中古リチウムイオンバッテリーの優劣を判別する技術を完成させた。EVのバッテリーパックを分解して分類し、再利用のために商品化する道を歩み始めたのである。

以上のように、EVを総合的に事業化する仕組みは一朝一夕で構築できるものではない。したがって、EVを作れるかどうか以上に、EVをいかにして売り、いかにして再利用するかといったような部分には、EVを作るよりも多くの労力を要することになる。これまでもトヨタは「EVを作れる」といってきたが、「作れる」ことと「売れる」ことの違いを、世間は指摘してきたのである。

EVを売るため、これまで日産や三菱自動車工業が歩んできた10年に及ぶ道のりを考えると、EVを普及させようとするトヨタのチャレンジが、一筋縄ではいかないことが分かる。

今回の説明会に登壇した寺師副社長をはじめとする面々は、熱意にあふれながらも時折、非常に厳しい表情を見せていた。ことが簡単には運ばないということを、当事者であればあるほど身に染みて実感しているからだろう。