昭和の時代の転車台が残る天竜浜名湖鉄道の天竜二俣駅。1940(昭和15)年に二俣線として開通し、国鉄が民営化される直前の1987(昭和62)年3月、第三セクター鉄道の天竜浜名湖鉄道として再出発した。いまも静岡県西部の地域の足として運行される。

  • 天竜二俣駅の転車台の上で天浜線の気動車が回転

同社の路線は「天浜線」とも呼ばれる。東海道新幹線・東海道本線と接続する掛川駅から遠州森駅・天竜二俣駅・西鹿島駅などを経由し、浜名湖の北岸・西岸を走行して再び東海道本線と合流し、新所原駅に至る路線となっている。

全線にわたって国の登録有形文化財に指定された施設があり、本社のある天竜二俣駅も10施設が指定された。昭和の蒸気機関車の時代から残る天竜二俣駅の転車台や木造扇形車庫が、令和となった現在も使用され続けている。

今年6月まで開催される「静岡デスティネーションキャンペーン」(静岡DC)にて、天竜浜名湖鉄道は「洗って! 回って! 列車でGO! ~国登録有形文化財の転車台乗車体験~」と題した体験型企画を実施している。一般向けには土日祝日に行われ、参加費は1人500円。今回、静岡DC期間中の観光地などを巡るプレスツアーの一環で、特別にこの企画を体験できることになった。

■登録有形文化財のホームで気動車を待つ

天竜二俣駅は駅全体に昭和の、それも高度成長期以前の雰囲気が色濃く残る。ホームも昔の様子をいまに伝えている。ホームの屋根は古いレールと木を組み合わせてつくられ、戦時中から戦後にかけての資材不足だったであろう時代の雰囲気を感じさせる。

ホームは2両分だけかさ上げされている。屋根のない場所に行くと、ホームは土であり、低くなっている。蒸気機関車から気動車へと時代が移り変わり、床面の高さに合わせたホームのかさ上げが必要になった。一方、列車の編成は短くなり、長いホームは必要ではなくなった。

  • 昭和の時代の雰囲気を残す天竜二俣駅

  • 駅舎内にはゆるやかな時間が流れている

  • ツアーと登録有形文化財の紹介

  • 昔ながらのホーム。気動車2両分だけかさ上げされている

  • 国鉄風の駅名標

  • 木でできた駅名標も

  • つくられた時代がわかる木と鉄のホーム屋根

  • 湘南色の気動車がやってきた

  • 普段の天浜線はワンマン運転を行っている

11時20分ころ、「TH2101」と記された気動車がやってくる。オレンジと緑の「湘南色」に塗り分けられた車両で、ラッピング列車「Re+(リ・プラス)」として活躍している。車内はセミクロスシートの座席配置で、クロスシート部分はゆったりとした座り心地になっている。天浜線の利用者を大切にしようとする姿勢がうかがえる。

■車両が洗車機へ、ブラシの回転も間近に

11時25分ころ、車両が動き始め、入換線を行ったり来たりする。ツアーガイドを務めた天竜浜名湖鉄道の加藤雅子さんによれば、「転車台がいまもあるのは他に線路がないからです。車両基地の中を行ったり来たりするために残っています」とのこと。プレスツアーの参加者は鉄道ファンでない人も多かったが、「(車両の)整理整頓のため」に転車台を活用しているとの説明で、ようやく納得している様子だった。

車両はまず、入換線を車両基地側へと進み、いったん駅のそばに戻り、線路を移った。その後、さらに洗車機を通るため、進行方向を再度変えた。

  • ゆったりとした車内設備

  • 車内から見た洗車機のブラシ

  • 通り過ぎた後の洗車機

車両が洗車機に向かってゆっくりと進んでいく。ブラシが回転する中をそろりそろりと進み、窓も含めた車体全体が洗われていくとわかった。洗車の様子を外から見るのとは違い、回転するブラシを車内から眺めると迫力がある。車体がすっきりした後、車両の後方を見ると、洗車機が「ひと仕事終えた」といった佇まいでそこにあった。

■気動車に乗車しながら転車台を体験

プレスツアーの参加者たちを乗せたまま、湘南色の気動車(TH2101)は転車台へと進んだ。転車台に入り、しばらくすると車両が回転を始める。

回り続けるにつれて、自ら動かずとも車両基地の全景を把握できた。ローカル線といえどもこれだけの設備が鉄道運行に必要であり、しかも蒸気機関車の時代は多くの人手も必要だったことを感じさせるものだった。転車台の回転が終わると、車両は扇形車庫の脇にある線路に入り、そこでプレスツアーの参加者たちは車両から降りた。

  • 転車台の回転時に見た外の風景

  • 天竜二俣駅の転車台

  • 天竜二俣駅の木造扇形形庫

  • ここで車両の整備を行う

  • ここにも扇形車庫があったという

  • 鉄道歴史館を見学

この転車台に関して、加藤さんから「開業当初は人力で転車台を動かしていました」と説明があった。後に電気が通り、電動で転車台を動かせるようになったという。現在は転車台の部品も少なくなり、電動で操作する箇所については部品取りのため、JR九州から一部を無償譲渡してもらったそうだ。なお、天竜二俣駅の扇形車庫は現在、4番までしかないが、昔は6番まであったとのことだった。

■天竜二俣駅に蒸気機関車の時代の設備も

その後は天竜二俣駅の鉄道歴史館を見学。館内にはタブレット閉塞機や腕木信号機、出札の設備、昔の駅名標などが展示されていた。

見学を終えると、国の登録有形文化財となっているかつての設備を見学。木造の建物に風呂が備えられており、蒸気機関車の時代は仕事の後、ひと風呂浴びなければならないほどだったという。かつて鉄道の現場が大変な仕事だったことが改めてわかる。

最後に70トンの水を貯められる貯水槽を見学した。高い位置にあるため、一気に機関車に水を供給できるというしくみが説明された。

  • 国鉄二俣線から第三セクター鉄道に移行した

  • 大河ドラマを記念したヘッドマークも

  • 昔の駅の設備

  • 硬券を取り扱うための設備

  • タブレットを扱うための装置

  • タブレットを運ぶためのキャリア

  • 腕木信号機とタブレット

  • かつては多くの駅で貨物を扱っていた

  • 戦時中は空襲にも注意しながら運行していた

  • 昭和時代の運賃表

  • 鉄道で働く人たちが汗と汚れを流した風呂

  • 巨大な給水塔

天竜浜名湖鉄道の体験型企画はこれで終了。同社代表取締役社長の長谷川寛彦氏によると、「昨年は4,500人が参加し、今年のゴールデンウィークは昨年比118%。ほぼ毎日キャンセル待ちの状態」となるほどの盛況ぶりだという。「洗って! 回って! 列車でGO!」は静岡DCの終わる7月1日以降も行う予定とのことである。

今回体験した企画に加え、天竜浜名湖鉄道は「転車台&鉄道歴史館見学ツアー」も毎日行っている。5月25・26日には、天竜二俣駅構内で「天浜線フェスタ 2019」も開催予定だ。歴史的な鉄道設備がいまも残る天浜線、ぜひ一度行ってみてほしい。