日本に大きな変化が起きる。旧産業が衰退し、労働時間は圧倒的に削減され、収入格差はさらに広がる。時間や信用が通貨となり、「日本」という単一の枠組みは溶けてコミュニティごとに分化していく。

このように2020年以降の社会を見通すのは、『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(プレジテント社)の著者、山口揚平氏だ。次の時代は、どんな仕事を選ぶべきなのだろうか。山口氏が注目する3つの産業分野を紹介してもらった。

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    高い人気を誇った金融に代わる産業分野とは?

高い利益を期待できるロボティクス

旧産業での「仕事の仕組み」に足を引っ張られず、生き残るためには、どの業界の仕事に就くべきだろうか。事業家・思想家の山口氏は、新時代の日本では「ロボティクス」「医療システム」「コミュニティインフラ」の3分野に注目すべきだと語る。

「先進的なIT技術だけでなく、複雑なすり合わせのスキルが要求されるロボティクス産業は、いわば自動車産業の次世代版です。自動車は内燃機関からEV(電気自動車)へと変わり、モジュール化によってどの国でも作れるようになりつつあります。

しかし、高度なロボットは、工芸的な職人による作り込みがどうしても必要になってきます。さらに企画開発・部品調達・組立・輸送・販売・保険という既存の自動車産業の世界的なバリューチェーン(業務の流れを機能ごとに分割してとらえ、業務効率化や競争力強化を目指す経営手法)を転用することができますから、輸出産業として未来がある分野といえるでしょう」。

オーダーメイドではなく、共通規格の部品を組み合わせて新たな製品をつくるのがモジュール化だ。モジュール化することによって製造コストを大幅に下げることができる。結果、家電やパソコンなどは国際的な差別化が難しい商品となった。そして今、自動車も同じ道をたどりつつある。

しかし、巨大かつ複雑な機構の組み合わせからなるロボティクス産業ならば、高い利益を得ることができるそうだ。

改善効果が期待できる医療システム

輸出産業の要がロボティクスなら、輸入によるコスト削減の鍵が「医療システム」の分野だ。2018年度の日本で医療・介護のために支払われた費用は、約50兆円(※)に達する。 ※厚生労働省『2040年頃の社会保障を取り巻く環境』より

「医療システムの分野には、やるべきことが膨大にあります。たとえば、病院経営のマネジメント効率化、保険制度の刷新、AI診断、未病段階での異常発見、デバイスの埋め込みによる健康管理などです。こうしたシステムは輸入がメインになると思いますが、それでも、50兆円の負担が20兆円に削減できれば、大きな効果を生みます。

日本の医療システムはIT化が遅れています。電子カルテの普及率は3割、受診システムの導入は4割にすぎません。医師が手書きしたカルテを職員が解読し、入力し、計算している現場がほとんど。こうした人件費が医療費のうち実に半分を占めているので、システム導入による大幅な効率増・コスト削減が見込める分野です」。

  • ブルー・マーリン・パートナーズ 代表取締役 山口揚平氏

    ブルー・マーリン・パートナーズ 代表取締役 山口揚平氏

コミュニティインフラの価値

山口氏が最後に挙げたのは、私たちそれぞれが暮らす「コミュニティ」の新たなインフラを作り上げる仕事だ。もちろん、これはただ市役所などに勤める公務員になるという意味ではない。

「これからの地方は、中世イタリア・ドイツの都市国家のような存在へと変わっていくでしょう。その地域を支える財政や法律・教育・福祉の仕事がコミュニティインフラです。独自の通貨や債券を発行したり、『ここはタバコを吸っていい』とか『ここには生活保護が無い』といったオリジナルのルールを制定したり、まったく新しい教育を提供するような仕事が必要になるのです。

霞が関のような中央にいると古いシステムを回すことに消耗させられてしまいます。こうした変化は地方から起こっていくものです。明治維新も地方の外様藩である薩摩・長州が先導したことを思い出してください」。

こうしたコミュニティのアップデートこそが、幸福な暮らしのために不可欠だと山口氏は説明する。

「幸せを生み出すものは、究極的には2つしかありません。1つは、『コミュニティの個人に対する寛容度』です。ピンク色の髪をしていても、あいつはああいう奴でいいよね、と受け入れてもらえることです。そしてもう1つは、『個人のコミュニティに対する参画度』です。幸せとは、モノでもお金でもなく、人と人との『関係』から生まれるものであり、コミュニティはその基盤なのです」。

新産業の中の多様性

山口氏は、吸収力の高い新人のうちに、こうした新分野の仕事に就くことだと言う。あるいは極端な話、就職せずに2022年ごろまで遊んでいたほうがいいかもしれない、ともアドバイスする。

「学歴にとらわれて、旧産業の大手企業に入って人生を台なしにするよりはマシだと思いますよ。輸出産業としてのロボティクスと、輸入産業としての医療システム。そして関係的な幸福を創造するコミュニティインフラに関わるのであれば、働くのは中小企業でもベンチャーでも構いません。

たとえばロボティクス産業の場合、産業用ドローンメーカーや保険や板金工場など、その中からさらに多様な働き方を選んでいってください」。

取材協力:山口揚平(やまぐち・ようへい)

1999年より大手コンサルティング会社でM&Aに従事。カネボウやダイエーなどの企業再生に携わった後、独立・起業。現在はコンサルティング会社をはじめ、複数の事業を運営する傍ら執筆・講演活動を行っている。最新刊に、『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(プレジテント社)がある。