3月某日、グローバル人事塾が経営層や人事責任者向けの勉強会を大阪で開催。会場の50名ほどの参加者に向け、転職サイト「リクナビNEXT」の藤井薫編集長(以下、藤井さん)、「doda」の大浦征也編集長(以下、大浦さん)の2人による熱~いトークバトルが繰り広げられました。

  • 様々な企業の人事担当者50名が参加

前回は「未来の採用手法」についてトークを展開し、求人広告の価値や役割について2人の編集長が考えを紹介しました。今回は「転職マーケットの未来」がテーマとなります。

転職マーケットの未来像

藤井さん「2020年の採用手法を考えた時、AIによる進化は避けて通れません。例えば、知性の代表の1つである大型旅客機のパイロットの操縦も、数分を除いて、ほぼ完全自動飛行が実現されています。AIは用途を限定した単調な反復処理が得意なのです。

そしてAIは、人事・採用の世界にも急速に浸透していくでしょう。今はマシンラーニングを使って、人間では見過ごしていた求職者と企業のマッチングを行っていますが、今後は、書類スクリーニングだけでなく、面接・配属・活躍の最適マッチングへと、さらに適応範囲を広げてゆくでしょう。

『あの面接官が見過ごしていた人材が採用成功できた』『あの部長の勘と経験とは異なる配属先で、彼は活躍した』。こうした属人性を排したHRテクノロジーがますます広がります。しかし一方で、AIでは適応できない人間ならではのGAIというものも、転職マーケットの未来像を語るうえで欠かせないものだと思っているのです。

GAIの意味は、相手が心から望む本来の目標を掲げることを手助けし(Goal Setting)、新たな挑戦への不安を解消する説明責任や結果責任を引き受け(Accountability)、言葉に表さない不安や希望の本音を洞察する力(Insight)のことです。

こうしたGAIを持つ人材業界のエージェントや求人広告の提案営業のプロフェッショナルが、求職者、求人企業責任者に提供する納得解に、AIの最適解は及ばないのです。人の魂や心の奥底にある不安や希望、そして、人生の新たな挑戦に伴走する安心感や選択時の納得感というのはAIには代替できるものではないのです。

つまり、『あの編集長に口説かれないとこの仕事はできない!』とか、『この人だから意志決定できた』という属人性もまた必要だと思うんです。したがって、未来の転職マーケットは、ハイテクとハイタッチが組み合わさった手法がどんどん出てくると思います」。

  • リクナビNEXT編集長の藤井薫さん(左)、doda編集長大浦征也さん

かなり専門的な話ですが、どうやら、今後の転職市場では浪花節とテクノロジーが融合していくようです。

藤井さん「2020年の採用手法を考えた時、もう1つ、注目したいことがあります。それは、よい会社の定義が変わることなのではないでしょうか。個人の職業寿命と企業寿命が逆転し、個人が1つの企業で生涯まで雇用を保障されることが難しくなっている中では、個人は複数の企業でも生涯活躍できる力を身に付けたいと思っています。ある意味、『終身雇用』ではなく『終身信頼』の時代です。

そうした中では、良い会社の定義は、辞めた後も活躍できるとか、辞めた後も気軽に戻ってこられるような敷居が低い会社。もしくは入社前から社員とつながっていて、『いつでも手伝いに来ていいよ!』という半分社員? といえるような仲間意識で、つながり続けている会社でしょう。

つまり、"会社の壁が高く、入りづらく、辞めにくい"から"壁が低く、つながりやすく、関係が切れにくい"ことに変わるのだと思います。複業やアルムナイ(退職社員)ネットワークが充実している会社は、その先駆的存在でしょう。これが当たり前になると、(働き手に)どこまでの束縛感で、何年先までつながっていくか? という採用時の距離感や時間軸がもっと緩やかになると思うんですね。

『今入らなくてもいいから5年後一緒になろう』とか、『退職後も都度都度手伝ってください』など会社への所属から、会社との紐帯に採用手法が、今後もっと増えていくんじゃないかなと思います」。

求職者との新たな紐帯関係を前提とした採用手法が大事だと語る藤井さん。大浦さんはどう考えてるのでしょうか?

「必然性・合理性」と「非合理性・偶然性」

大浦さん「藤井さんの仰る通り、パラレルワーカーや複業、兼業、マッチングなど今後まさにそうした関係になっていくと思うんです。複業や兼業している間にジョインしていたってこともありますし」。

おっと大浦さん。藤井さんと同じ意見のまま終わるんでしょうか?

  • 持論を語る大浦さん

大浦さん「ただ2020年の転職像で2つ言いたくて。1つは『必然性、合理性』、もう1つが『偶然性、非合理性』。相反する2つのメディアを求人手法は担っていくんじゃないかと思います」。

さすが大浦さん。最後まで持論を展開するようです。

大浦さん「ゲール=シャプレーアルゴリズム(GSアルゴリズム)という経済学的にパートナーを探す手法があります。以前から注目してますが、なかなか流行ってくれません(苦笑)。だって、おかしいと思いませんか? 転職したい人がたくさんいて、採用したい企業も数多くあるのに、うまくマッチングしない。おかしいんですよ。

そういった思いを持ってる人同士を、マッチングするモデルがGSアルゴリズムなんです。恋人が欲しい人が絶対に付き合える合コンがあるといったら行きますよね?」。

たしかに「必ず成果がある合コン」ならみんな参加しますよね! 大浦さんによると、これが採用に適合されるようです。

妥協がない合理性

大浦さん「今後は、『1番目に行けないから妥協して5番目』ではなくて、『1番行きたかったところじゃないけど2番目に行ける』。2020年の採用は合理性が見られて、コストがかからずマッチングされる。そんな未来像が待っているんじゃないかと。

一方で『人は非合理の方が面白い』と考える人もいます。例えば人生のパートナーがいるとして、その人はあなたの運命の人ですか? 運命の人だと思ってる人の方がそりゃ幸せですよね。だから、『運命だと錯覚して』生きる方がハッピーじゃないですか。つまり、ある会社と運命的に遭遇し、担当者に口説かれて入社した方が幸福なんです。

人はときに、間違いを『間違いだったと思わないよう』に生きているじゃないですか。ここでは演出されるプロセスが大事なんじゃないかと思います。こういったことも今後、世の中に価値があるサービスになってくるんじゃないかと思います」。

やはり最後は大浦さんも人の核の部分をついてきました。つまり採用プロセスにおいての幸福な体験があると、転職した人はその感動を維持して働くことができるのはないか? と考えているようです。

というわけでお二人による熱~い夜が、あっという間に終了です。イベント終了後は、別室で懇親会が開かれ、編集長と参加者が親交を深めたそうです。個人的には全合コンにゲールシャクプレーアルゴリズムをぜひ採用してほしいですね……。