フジテレビは、日曜日のゴールデンタイムに、『でんじろうのTHE実験』(今冬スタート、毎週日曜20:00~)、『アオハル(青春)TV』(1月スタート、毎週日曜21:00~)という2つの新レギュラーバラエティ番組を編成することを発表した。日本テレビがトップを走り、テレビ朝日が猛追をかける時間帯で、あえて勝負に出ることにしたのだ。

視聴率の苦戦が続く中、最激戦区で反転攻勢をかける狙いは何か。同局の齋藤翼編成部長に、話を聞いた――。


■あえて“総合バラエティ”に

『でんじろうのTHE実験』の米村でんじろう氏(上段左)とオードリー(上段右)、『アオハル(青春)TV』のヒロミ(下段) (C)フジテレビ

『でんじろうのTHE実験』の米村でんじろう氏(上段左)とオードリー(上段右)、『アオハル(青春)TV』のヒロミ(下段) (C)フジテレビ

――激戦区である日曜のゴールデンタイムに、再びレギュラー番組を投入することを発表されましたが、まずはこの狙いについて教えてください。

おかげさまでドラマは最近良い評価をいただくようになったのですが、月曜日から木曜日まで好調に推移したとしても、金・土・日の週末が弱いので、ここに注力して改編作業を進めてきました。10月改編では、金曜19時に『坂上どうぶつ王国』、土曜19時に『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』、20時に『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』という新番組を立ち上げましたが、そのときに1月には日曜日のゴールデン帯を改編することも決めていました。当然、他局さんが非常に強い時間帯なので、正直悩みました。もしかすると今までの『ニチファミ!』単発枠のままのほうが視聴率は良いのではないか、これをベースに実績を積み上げていくほうが失敗しないのではという考え方もあったんですが、それをずっと続けていくのでは今の(民放視聴率)4位の中で何も生まれないと考え、気持ちを切り替えて勝負に出てみようということです。

――守りよりも攻めに出るということですね。

いつまでも守っているのではなく、どこかで攻めに転じないといけないという思いはありました。新番組を立ち上げるときに、世帯視聴率を取りに行こうとすると、今のテレビ視聴環境を意識して3層(50歳以上)、4層(65歳以上)の方向けに医療モノや健康モノに思い切りシフトしていくという考えもありました。しかし、あえてその層だけには絞り込まずに、3層・4層の方も若い方も家族そろって見られる番組をと、総合バラエティに舵を切りました。

――家族そろってという狙いが分かりやすいのは、『でんじろうのTHE実験』(今冬スタート、毎週日曜20:00~)ですね。

この前、番組審議会で『坂上どうぶつ王国』を審議していただきました。その際、審議委員の毛利衛さんが、神社に池を再生する企画について、すごく勇気が出ることを言ってくださったんですよ。「バラエティ番組で池を再生することを通じて、生物のあり方とか環境づくりを自然と勉強できるようなことがあれば、それは素晴らしいことだ」と褒めていただいたんですね。今回の『でんじろうのTHE実験』は、世界の興味深い実験や身近な科学を、分かりやすく解説していく番組なのですが、こちらもバラエティという切り口で科学の面白さを多くの人に感じ取っていただける番組になればと思っています。

■ヒロミやプロデューサー陣が若いDを応援

齋藤 翼
1968年生まれ、東京都出身。東京藝術大学卒業後、93年にフジテレビジョン入社。以来営業局に所属し、17年6月に編成局編成部推進担当部長、18年5月から編成部長(現任)。

――『アオハル(青春)TV』(1月スタート、毎週日曜21:00~)は、「何かに一生懸命な人≒アオハル(青春)な人」を発掘していくというフジテレビ伝統の総合バラエティですよね。

2018年に単発で2回放送した番組です。1回目は4月だったんですが、『とんねるずのみなさんのおかげでした』や『めちゃ×2イケてるッ!』を見て育ってきた僕には、こういう番組と同じようにものすごく輝いているように感じられましたし、ワクワクしながら見ることができました。ベテランの制作者や編成マンからは「総合バラエティ」というジャンルを視聴率に結びつけるのはなかなか難しい、それを今うちがやるべきなのかという意見もあったのですが、今の時代に合ったフジテレビの看板番組を作っていかなければならないという強い思いで決断しました。それから、自分が目指す日曜ゴールデンの方向性と制作現場の思いが合っているのかを確認するため、総合演出の萩原(通称:マイアミ啓太)とじっくり話し合い、考えていることが同じだと分かったので、日曜21時でやってみようということになったんです。

――思い入れのある番組なんですね。

どんな番組でも、社内で「どうなんだ?」という声があると、自分が直接作っているわけではないんですけど、まるで我が子を非難されているかのように思うんです(笑)。でも、MCのヒロミさんやプロデューサーの面々が、マイアミ啓太という若いディレクターを、すごく応援していて、それがヒロミさんも含めて1つのチームのようになってるんです。第2弾放送の際の打ち上げに顔を出したんですが、そこでも若手を応援していこうという話で盛り上がったんですよね。YouTuberやTikTokに見られるようなネット動画的な感性、そういう部分ですごくいい感覚を持っていると感じたので、ぜひ日曜ゴールデンという場で、若い力で思い切り腕をふるってもらいたいと思います。

――それにしても、これまで『人生のパイセンTV』を含め、深夜帯の番組を担当してきたマイアミDの『アオハル(青春)TV』で日曜のゴールデンタイムとは、攻めに行ってるなという印象を受けました。

攻めようというおこがましい感覚ではありませんし、多くの人に受け入れてもらえるのだろうか?という不安もあります。ただ、逃げてばかりではなく、今、視聴率が低迷し、われわれの常識が通じていない以上、勇気を持って、時にはわれわれの常識が非常識だくらいに思い、この番組を編成することを決断しました。

――齋藤さんは長く営業畑におられて、社内でもより視聴者に近い目線から、これまでの常識にとらわれない編成というのも意識されているのでしょうか?

そんなふうに後々思われたらうれしいと思いますが(笑)。ただ、もしかしたら、不調の原因はこちらからの一方的な目線で番組を作ってきて、そのツケが回ってきた結果なのではないかという気もしているんです。やっぱり、局のイメージは番組が作りますから、より多くの人に受け入れられる姿勢を1つ1つの番組から感じ取ってもらえるような雰囲気にしなければならないと思います。番組を立ち上げるときは常に意識していることですね。

■番組の持つ“可能性”から決断

マイアミ啓太氏(左)と千葉悠矢氏

――マイアミさんは30代前半で、10月にスタートした『99人の壁』の千葉悠矢さんも20代と、ゴールデンで若い演出の起用が続くことになりますが、そのあたりも意識しているんですか?

誰でもいいから若い人にやらせてみようということではないのですが、やはり今の若い人の感覚を、われわれのような年代が理解しないといけないなと思っています。今はいろいろなメディアがあるわけですから、最先端の面白いものを知っている感性を、バラエティの制作に取り入れることが必要だと思っています。「若いからまだまだ」とか「理解できない」とか言うのではなく、こちらからその感性を理解する・勉強する必要があると思っています。

――『アオハル(青春)TV』も『99人の壁』も正直、視聴率としての結果が出ていなかった中でレギュラー化となりましたが、“若手の起用”という意識も判断の背景にあったのでしょうか?

もちろん、単発で10%以上とっている番組がたくさんあったら判断は楽ですが、そこは、やはり番組の持っている可能性を感じられるかだと思います。MCを佐藤二朗さんにやっていただくと考えた千葉の感性もそうですが、番組を見てこれは面白いんじゃないか、可能性を秘めているのではないか?というところで決断していくことを心がけています。

――日曜のゴールデン帯は、これまで『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界の果てまでイッテQ!』『行列のできる法律相談所』という日本テレビさんの独壇場だったところ、10月から『ナニコレ珍百景』『ポツンと一軒家』を編成したテレビ朝日さんが追い上げてきている状況で、少し構図が変わってきたように思います。このタイミングで、再度勝負を仕掛けるにあたっての目標は、どのように定めていますか?

新しくゼロから始めるので、最初は正直苦戦すると思いますし、結果は後からついてくれば良いと考えています。視聴率だけにこだわって番組を作っていくと、方向性や表現するものが変わってきてしまうので、目標値についてはあえて制作と話はしていないんです。もちろん、走り始めてから方向性を修正した方が良いということになるかもしれませんが、それからでも支持していただけるようアジャストできる番組であるとは思っています。早いうちに1位を目指すのだ…なんてことを言うのは、今の段階ではありません(笑)