コミュニティ依存を脱するために

成田:勝山さんは、ご自身がヤンキーインターンのロールモデルだと冒頭で述べていただきました。その後ヤンキーインターンでは300人ほどの卒業生を輩出しているわけですが、やりがいを感じる部分などを教えていただけますか。

勝山:中卒や高卒の子たちの選択格差や機会格差っていうのは本当にあると思うんですよ。学歴っていう部分でもそうなんですけど、地方にいくとそれはさらに顕著で。さらに、検索エンジンがあるのに検索の方法がわからないっていう子たちもたくさんいるんです。そういった子に対して機会を提供できているのは、とても良いことだと思っているんですよね。ヤンキーインターンの生徒たちに関しては、卒業した後に就職することが絶対ではなくて、選択肢を増やしてもらうことが目的なんですよ。だから、ヤンキーインターンを終えて「やっぱりもう1回前職に戻るわ!」っていう子もいるんです。選択肢がしっかりとある中で、自分の人生を自分で選択してくれる若者が増えていくのを見るとやっぱり僕もすごく嬉しくなりますね。

成田:リゾート地で働く機会をつくる「リゾートインターン」などもその一環ということですよね。これらのインターンにはどのような可能性を感じますか?

勝山:比較的簡単に若者たちを移動させられるのが一番のポイントだと思います。ちなみに安部さん、少年院の仮出所の方の再犯率って何%ぐらいでしたっけ?

安部:データの取り方もいろいろあるのであまり信ぴょう性のある数字ではないかもしれないんですけど、だいたい20%弱、5人に1人くらいの割合ですね。

勝山:僕の周りにも少年院出身者ってたくさんいるんですよ。それで、僕の実体験でもあるんですけど、少年院出身者って、出所してから2,3日はめっちゃ真面目なんですよね。でも1,2週間経つと、また同じ地元の仲間とつるんで、同じような価値観を持って、同じような言語を使う環境に戻ってしまう。その友達がいることで、また罪を犯してしまうというケースはけっこうあると思うんです。これは「コミュニティ依存」なんですよ。

安部晋平太そうですね。

勝山:そのコミュニティの中での価値観が当たり前だと思ってしまうと、何が正しいのか判断できなくなるんです。それはコミュニティから出てみないとわからない。僕は、コミュニティ依存している若者に移動してもらうことってすごく重要だなと思ってるんです。晋平太さんも移動体験をされていますよね?

晋平太:僕は全国をラップしながら旅していたので、コミュニティ依存や移動の重要性についてもすごくわかる気がしています。街ごとにしきたりや風習、ルールがあって、そこを飛び出る勇気っていうのも必要なことですけど、良しとはされない場合もあるじゃないですか。後ろ指をさされたり、一定数のそこに存在しているヤツらからすれば裏切りものになったりする可能性もあるし……。

  • 自身の移動体験について語る晋平太氏

晋平太:でも、そこを飛び出していろんな人間と触れ合うだけでも、それは大きな移動になりますよ。隣の街でバイトしてみるとか。僕自身、今ここで話をさせてもらっていることもそれに当てはまりますよね。ラッパーが本来いるフィールド、クラブやストリートって呼ばれるようなところからしたらだいぶ移動したなって思います。

安部:偶然にも僕は晋平太さんと地元が近いんですけど、全く同じ感想を持ったことがあるんですよね。地元を出て、東京で新しいコミュニティができた後に地元のやつらとの同窓会とかがあると、こいつら高校のときから話していることが何も変わってないなって。あまりにも閉鎖的で。僕はすごく地元が好きですけど、この人たちとずっと一緒にいたら世界が狭くなってしまうなって思ったんです。少年院でもそういう話はよくしますね。彼らは外に出てから友達がいなくなるということをすごく恐れているので、コミュニティを抜け出す覚悟を持てるかどうかは大事なことです。

勝山:抜け出した後に挫折してしまう人もいるかもしれませんし、上京した後に地元に戻るのはプライドが許さないっていう人もいると思うんですよ。そういう人のために、相談しに来てもらえるような環境もつくれたらいいなと思ってます。

自分の幸せって?

パネルディスカッションのラストには、会場に集まったオーディエンスから寄せられた質問にパネリストらが回答する時間も設けられた。

成田:こんな質問が来ています。「移動することで新しい価値観と出会うというのは、とても大切なことだと思います。一方で、閉鎖的な環境に住む人はそもそも外のことを知らないので、ある種、幸せの基準みたいなものが低いという可能性も考えられます。知らない世界を知れば知るほど幸せの基準が高くなって、幸せが遠ざかってしまうようにも感じるんですが、どう思いますか?」

勝山:選択肢が増えることで、逆に迷ってしまうこともあると思います。ただ、いろいろな価値観を知ること、こういう生き方もあるんだなって知ることが重要だと思うんですよね。移動してみたうえで、やっぱり俺はこれがいいんだっていう決断をすればいいだけの話であって。それらの決断を1人でするのは難しいので、ハッシャダイの社員がメンターをやっているわけです。

安部:実際に移動してみて、自分が気付いていなかった価値観が見えてくる場合もありますよね。例えば「食」。新潟の人が東京に出てきて、レストランで食べたお米がおいしくないと感じる場合もあるでしょう。それは、移動しなければ気付けなかった価値の高さだと思うんです。幸せの尺度は一つじゃないから。何かに対して「天井ってもっと高かったんだな」と感じる経験もあるかもしれないけど、別の面で地元の良さに気付けるっていうパターンもあるんじゃないかなって少し思いました。

  • 多種多様なバックボーンを持つ4人によるパネルディスカッションは、非常に濃密な時間となった

晋平太:物事に差をつけない人になったほうがいいんじゃないかとも思いますけどね。アラブの石油王にだってランキングはあるでしょ? 「俺3番目なんだよね。1番は絶対にいるんだよね」っていう。それは終わりのないループなんで、そこからは抜け出したほうがいいと思うんですよね。

勝山:多分、「自己肯定感」っていうのもそこにつながってくる気がしません? だからやっぱり、僕は一生内省だなって思うんです。自分は何がやりたいんだろうとか、自分の強みって何なんだろうとか。そこは年を経るごとに変わっていくとも思うんですよね。そこが明確であれば、自分の幸せ度っていうのもわかってくるんじゃないかなと思いますよね。

晋平太:自分が何をしていると楽しくて、何をしていると充実感が得られるのか、みんな知ってる? ってことだと思うんですよね。それを探しにいくことがすごく大切なことなんじゃないのかなと思いました。


働き方の多様化が進む日本において、主役はもはや大卒だけではないのかもしれない。そんな中、ハッシャダイは「移動」によって環境を変えることの重要性を、さまざまな角度から今日も発信し続けている。同社のように、非大卒の若者の可能性拡大に理解を示す大人が増えていけば、日本の未来も大きく変わるのではないだろうか。

※本パネルディスカッションにおける安部氏の発言はすべて個人の見解であり、国・行政を代弁するものではありません。

(画像提供:ハッシャダイ)