去る11月24日、東京大学駒場祭にて「白熱ヤンキー教室」なるイベントが開催された。当日は「非大卒の若者の現状と今後の可能性」を考えるパネルディスカッションなどが行われ、少年院法務教官やラッパーらが登壇。熱量溢れる会場の模様をお届けしよう。

  • 左から、パネルディスカッションの司会を務めた成田航平氏、少年院法務教官・安部顕氏、ラッパーの晋平太氏、ハッシャダイの創設メンバー・勝山恵一氏

ハッシャダイとは?

同イベントは、非大卒の若者向けに就業・自立支援を行うハッシャダイがNPO法人Bizjapanとタッグを組んで実現したもの。

ハッシャダイは、学歴や地方格差の影響で自分の可能性に気付けていない若者たちに「東京での食・職・住」を無償で提供する「ヤンキーインターン」などの活動を行い、「選択格差」のない社会の実現を目指している。

同社はさまざまな人材育成プログラムや就業支援サービスを展開しており、過去には6カ月間の研修を行い営業力を身に付ける「ヤンキービジネス」コース、3カ月間でITリテラシーの基礎からプログラミングまで幅広く学ぶ「ヤンキーハッカー」コース、リゾート地で働く機会を提供する「リゾートインターン」などの取り組みも実施してきた。

ハッシャダイの創業メンバーでもある勝山氏は、自身の過去を振り返り、ハッシャダイでの取り組みについてこう語る。

勝山氏(以下、敬称略):僕自身が中卒で、かつては警察沙汰を起こしたり非行を繰り返していたりといった時期もありました。僕がヤンキーインターンのロールモデルになった人物でもあります。そういった経緯もあり、今はハッシャダイでの活動を通じて、若者たちに「Choose your life」つまり「自分の人生を自分で選択すること」の大切さを伝えるべく、全国の高校や児童養護施設、少年院などで講演を行っています。

  • 勝山恵一 1995年生まれ、京都府出身。株式会社ハッシャダイの創業メンバー。高校を中退し、その後は非行を繰り返していたが、自信の経験を踏まえ非大卒の若者の選択格差を解消するため「ヤンキーインターン」の立ち上げに携わる。現在は、これまでの経験を活かし、全国の高校や少年院などでキャリア教育の授業を行っている

そして、これまで実施してきたさまざまな取り組みを踏まえて開催された今回のパネルディスカッション。司会を務めるのは、ハッシャダイにて複数事業の立ち上げも行ったという現役東大生の成田航平氏だ。

  • 成田航平 1996年生まれ。東京大学法学部4年。非大卒支援を行うハッシャダイにて複数事業を立ち上げ、自身としてもエストニアにて「Gate10 projects OÜ」を共同創業者として起業、地域での教育プログラムの開発、アパレルブランド「Raipons」のデザインを行う。またダボス会議によるglobal shapers yokohama hubのメンバーとしても活動している

それぞれの立場から見える格差

ディスカッションの場では、現代の非大卒若年層の学歴格差・経済格差・機会格差について、若者のリアルな声に触れている立場ならではの意見が飛び交った。現在、少年院にて法務教官として非行少年の更生に携わる安部氏は、今も「学歴社会」の存在を色濃く感じるという。

安部氏(以下、敬称略):少年院を卒業した若者たちに対して、偏見というものがあるのは実際に感じます。学歴も1年間の空白ができてしまったりするので、やはり就職で苦労はしていますよね。どこの大学を出たかっていうのはあまり関係なくなってきているとは思うんですけど、大学を出たか否かというのはけっこう大きくて。日本にどれだけの数の会社があるのかはわからないですけど、おそらく大学に行っていないがために書類さえ受け取ってもらえないという企業のほうがはるかに多いんじゃないですか。そこは苦しい現実だなと思いますね。

  • 安部顕 1985年生まれ、大阪府出身。2011年、震災ボランティアなどに参加しながら受験した法務教官採用試験をパス。2012年4月より、茨城県の水府学院(第1種少年院)にて法務教官として非行少年の更生に携わっている

このような現状に対し、今回登壇したメンバーは多彩なアプローチで格差をはじめとする問題に向き合っている。ラッパーの晋平太氏もその1人だ。

ハッシャダイでは、2018年9月から晋平太氏を講師に招いたワークショップ「ヤンキーラッパー」コースも開催。ラップで自己紹介・自己表現に挑戦することで、自己肯定感・論理的思考力・語彙力を高めるといった試みを行っている。

晋平太氏(以下、敬称略):僕は今、縁があって学習支援教室でラップを教えたりしているんですけど、そこには環境的に恵まれていない子たちも多いんですよね。ただ、僕らみたいにラップをやっている人間にもそういう人は多くて。ラップって、歌詞を書くうえで自分の内面を見つめることが必要になるんですよ。いわゆる自己内省ってやつですね。そして、自分の弱みをさらけ出して、強みとして捉えなおすことができるのもラップならではのポイントだと思うんです。

  • 晋平太 1983年東京都生まれ、埼玉県狭山市育ち。フリースタイル(即興)のMCバトルを得意とし、数多くの大会で優勝した実績を持つラッパー。MCバトルをメインとした番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)では、史上初の完全制覇を達成。現在は、学習支援教室でのラップ講座や企業向けワークショップなど、ラップの新たな可能性を開拓中

今回のイベントでは、同ワークショップの効果調査結果が発表される場面も。実際に歌詞を書いてラップするという過程は、参加者の自己肯定感の向上に寄与したとの結果が得られたという(ローゼンバーグ自尊感情尺度で数値化)。

各々の取り組みを含めた自己紹介から始まり、話題は「就職」へと移っていく。

安部:自分の想いとか背負ってきたものを言葉にするのって、すごく大事なことだと思うんです。でも、自分の人生に不満や疑問を持っていない人たちって、自分の人生と向き合う時間は少ないんじゃないかなと思うんですよ。

成田氏(以下、敬称略):自己内省っていうと、僕は「就職」っていう言葉を思い出すんですよね。就職活動をするときって、「自己分析」とか「自己内省」ってすごく言われるので。ラップにおける自己内省は、これらとどういうところが違うんでしょうか。

晋平太:就職活動に直面したときに、慌てて自己分析する人はいろんなツールを使いますよね。アンケートに答えるとか。そして、誰かの指標に合わせて自分の強みを教えてもらう。「あなたの強みはこれです」みたいな。ラップをやる人は自分でそこにたどり着くんで、思い入れが全然違う気がします。他にも、履歴書って「〇〇で受賞しました」とか、素敵なことしか書かないじゃないですか。でもラップでは、自分の弱点とか、うちはこんなに貧乏だったとか、履歴書には書けないネガティブな部分も主張できるんです。それが強みになったり、覚えてもらうポイントになったりする。そこがラップのいいところでもあると思います。

勝山:多くの大学生が就職活動をしている中で、皆その会社に入ることがゴールになっているのではないかというのもすごく感じるんですよね。だから、会社に入るためにはどうすればいいかをとにかく考える。けど本来はそうではなくて、会社っていうのは何かを成し遂げたいビジョンとか想いがあって入社を志望するもので、自分の想いと会社の想いがマッチすることによってその会社に属することになるわけじゃないですか。その会社のビジョンを達成したいからこそ、自分の過去の経験をもとに「僕は御社でこういうことができるんですよ」っていうのを面接で伝えるべきだと思うんです。そう考えると、ラップの「自分の経験をもとに相手に対して自己主張をする」という部分は素晴らしいなと思いますね。

  • 当日は、ラップ実践講座が非大卒の若者の自尊感情に好影響を及ぼしたという実例も示された

国立青少年教育振興機構の調査によれば、日本の青少年は諸外国に比べ自己肯定感が低いというデータも出ているとのこと。中でも、非大卒の層においてその傾向は特に強く出ることが予想される。ハッシャダイの新たな試みは、そんな若者たちの現状について改めて考えを巡らせる機会をもたらしていると言えるだろう。

また、自己肯定感の低さに加え、非大卒の若者には「選択肢の少なさ」という問題が大きくのしかかっている。パネリストらは、その部分を解消するには「移動」がカギになると話す。