社内のゴルフコンペで、部長が「このドライバー、私のマストでね」と言って一振り。300ヤードを超えたから、とにかく凄いことは分かったけど、「マスト」って一体どういう意味? 本稿では、マストの意味と使い方を解説します。

  • マスト、ウォント、ベターの意味と使い方を理解していますか?

マストの意味

マストは、「~しなければならない」という意味の英語【must】からきたカタカナ用語で、「~しなければならない」「必須」「欠かせない」という意味で使用されています。

ビジネスシーンで使われるマスト

ビジネスシーンでは、主に「絶対に必要なこと」「外せない用件」などの意味で用いられることが多く、たとえば、上司から「この仕事マストね」と言って頼まれれば絶対にやらなければなりませんし、「このクライアントの依頼はマストです」と言われたら、その依頼には必ず応えなければなりません。

また、「マスト事項」「マスト項目」という表現もよく用いられ、絶対に外すことのできない事柄を意味します。さらに、交渉の場などで「マストな条件」を提示された場合には、「絶対に外すことのできない条件」あるいは「絶対に譲れない条件」と解釈するのが適切です。

  • 今や、車にアシスト機能はマストです。
  • 主役は部長ですから、部長の出席はマストですよ。
  • 駅に近いことよりも、陽当たりがマスト条件です。
  • 新製品の完成には、B社の素材がマストだ。
  • 今回実施するアンケートですが、Q1~Q3まではマスト項目です。

このように、マストは「絶対に必要である」という強制的なニュアンスを持った表現になります。「なるべくやっておいて」「できれば外さないで」という状況で用いるものではないという点に、注意しましょう。

一般的なビジネスシーン以外で使用されるマスト

船のマスト

船に欠かせない帆のこともマストと呼びます。ただし、前述のマストは【must】、こちらは【mast】になり、船に関連したシーンでは全く別の言葉になりますので、注意しましょう。

マストアイテム

テレビやファッション誌などで頻繁に登場する「マストアイテム」という言葉。ご存知の方も多いのではないでしょうか。

ビジネスシーンにおけるマストは、強制的なニュアンスが強いとお話ししましたが、マストアイテムの場合では、「お勧めアイテム」という柔らかいニュアンスになります。また、「マストアイテム」という用語を用いない場合でも、「マストな○○」「○○はマストですよ」とすすめられた場合には、強制的なマストではありません。

  • 今夏のマストアイテムは、白いシューズです。
  • 紫外線対策に役立つマストアイテムです。
  • このメニューは、マストな一品ですよ。
  • 今年の冬にマストな1着をご紹介します。
  • この釣り竿、大物を釣るのにマストなんだ。

マストとウォントの違い

マストと同じような場面で用いられる用語に「ウォント」というものがあります。ウォントは、英語の【want】からきたカタカナ用語で、「I want ~」という英文からわかるように、「希望する」「欲しい」「望む」という意味になります。

マストとウォントとの違いは、その強制力や重要度にあります。ビジネスでマストと言われれば、必ずしなければならない、欠かせない「義務」になりますが、ウォントはあくまで「要望」であり、「~してもらえたらいいな」「なくてもいいけど、あればなお良い」というニュアンスになります。

例えば、「子どもを送迎するのに自転車はマストだけど、電動アシストはウォントだね」というと、「自転車は絶対に必要だけど、電動アシスト付きならもっといいのに」と解釈することができます。

また、旅行プランの対応で、お客様から「ベッドはマストで。オーシャンビューはウォントで」と言われたら、ベッド(洋室)は外せない条件になりますが、オーシャンビューはあくまでも希望です。そのため、お客様の第1希望は「洋室のオーシャンビュー」、次に「洋室のオーシャンビューではない部屋」ということになります。

このように、義務・必須であるマストを提示された場合には、それを外すことはできません。しかし、要望であるウォントに応えるか否かを選ぶことは可能です。両者の違いをしっかりと覚えて、相手の指示や要望に適切に対応するよう心がけましょう。

ベターについて

「~の方が良い」という表現に「ベター」という言葉があります。英語の【better】からきたカタカナ用語で、「急ぐのであれば、タクシーよりも電車がベターです」「A案よりはB案の方がベターだな」という使い方をします。

ビジネスにおけるマストは義務・必須であるため選択の余地はありませんが、ベターは複数の選択肢から最良のものを選ぶ場面で用いられ、「~の方が良い」「~の方が比較的まし」というニュアンスになります。また、その選択肢の中に、必ずしも最適なマストが含まれているとは限りません。

例えば、野球のドラフト会議です。「うちのチームにとってAの獲得はマストだ」となれば、1位指名はAになります。たとえ多くのチームがAを指名してくると分かっていても、マストである以上、1位指名する以外の選択肢はありません。

さらに「Bはウォントで」となれば、できればBも獲得したいという意味になりますので、Bを2位指名することになるでしょう。しかし、AもBも獲得できなかった場合には、C・D・Eの中から1人を選ばなければなりませんね。そのような状況で「Dがベターだ」と言えるわけです。

ほかにも例を挙げるとすると、都内に出店することが自分にとってのマストであっても、必要な資金が調達できなければ無理です。また、新化粧品のCMにタレントAを起用することがマストだったのに、他社に先を越されてしまった場合には、諦めざるを得ません。

このように、ビジネスでは常に最適なマストを選べる状況にあるとは限りません。そんな時、限られたものの中からいかにベターな選択をするかが重要なのです。もしかしたら、マストを実行することよりも、ベターを選択することの方が難しいことかもしれませんね。

マスト、ウォント、ベターを用いた例文

マスト(絶対に必要なこと・外せない用件)

  • 会長の出席はマストです。
  • 何よりも陽当たりが良いことがマスト条件です。
  • 女子会にはデザートがマストですね。

ウォント(希望する・欲しい・望む)

  • 会長の出席はウォントですね。
  • 陽当たりはマストですが、駅に近いことはウォントです。
  • 食後にデザートはウォントですね。

ベター(~の方が良い・~の方が比較的まし)

  • 専務よりも会長が出席してくれたらベターですね。
  • どちらも陽当たりはまずまずなので、収納が多い方がベターです。
  • ティラミスとチーズケーキなら、ティラミスがベターかな。

今回はマストを中心に、ウォントやベターの使い方についてもお話ししましたが、いかがでしたでしょうか。それぞれに強制力や希望順位に違いがあり、その意味を取り違えてしまうと、上司の指示やお客様からの要望に適切に応えることができなくなってしまいます。

カタカナ用語を多用する必要はありませんが、相手が使用してきた場合に正しく受け答えができるよう、しっかりと覚えておきましょう。