今夏のワールドカップ・ロシア大会で演じた活躍をきっかけとして、9年前に生まれた枕詞「(大迫)半端ないって」が、突如としてホットワードと化した日本代表FW大迫勇也(ベルダー・ブレーメン)。9月に船出した森保一監督に率いられる新生日本代表でも代役の効かない存在感を放つ一方で、師走の風物詩でもある「ユーキャン新語・流行語大賞」に「(大迫)半端ないって」がノミネートされた。年間大賞を受賞すればサッカー界では4例目。ピッチの内外で再びスポットライトを浴びつつある、28歳の万能型ストライカーの現在地を追った。
■「半端ないって」に対して抱いてきた心境の変化
何かに導かれたようなタイミングのよさだった。森保ジャパンが臨む年内最後の国際親善試合、ベネズエラ及びキルギス両代表と対峙するキリンチャレンジカップ2018への招集メンバーが発表された今月7日。フォワードの絶対的な柱として、大迫勇也(ベルダー・ブレーメン)は10月に続いて招集された。
そして、時をほぼ同じくして、師走の到来を告げるイベントとしてすっかり定着した「ユーキャン新語・流行語大賞」のノミネート語も発表された。2018年の話題を集めた30の言葉の中に、サッカー界からは大迫本人を象徴する枕詞として市民権を得た「(大迫)半端ないって」が堂々と名前を連ねた。
ベネズエラ戦を翌日に控えた15日に、試合会場の大分スポーツ公園総合競技場内の取材エリアで初めてメディアに対応した大迫に、再び「(大迫)半端ないって」が注目されている胸中を直撃した。極度の恥ずかしがり屋で、なおかつ口下手のイメージが定着して久しい大迫の表情がちょっとだけ緩んだ。
「僕が発信している言葉ではないので、何とも言い難いんですけど」
サッカー界に限れば、実に9年も前から有名な言葉だった。大迫を擁する鹿児島城西(鹿児島県)が準優勝した、第87回全国高校サッカー選手権大会。2009年1月5日の準々決勝で2‐6のスコアで大敗を喫した滝川第二(兵庫県)のキャプテン、中西隆裕さんが号泣しながら叫んだ映像にある。
「大迫、半端ないって! あいつ、半端ないって!」
この映像が動画投稿サイトにアップされ、偶然にも閲覧した一部のファンの間でひっそりと語り継がれてきた。一気に全国区の知名度を得たきっかけは、大迫のヘディング弾で強敵コロンビア代表を撃破する金星をあげた、6月19日のワールドカップ・ロシア大会のグループリーグ初戦だった。
キックオフ前の芳しくない下馬評を覆した感動と、試合会場のモルドヴィア・アリーナのスタンドに躍った「大迫半端ないって」の横断幕が何度もテレビ画面に映った相乗効果で瞬く間に沸騰。ネット上の話題を独占し、テレビのワイドショーがいっせいに取り上げたことで老若男女の間に広まった。
こうした経緯もあり、大迫本人も「何とも言い難い」とまず断りを入れた。ただ、以前に抱いていた嫌悪感が消え去り、ポジティブな思いで向き合えるようになったからこそ、こんな言葉を紡いでいる。
「サッカーに興味のない人たちも含めて、一般の人たちがサッカーの話題に触れられると思うし、すごくうれしいことではあるんじゃないですか。ただ、僕の本業はサッカーなので、しっかりと集中して臨みたいと思います」
■森保監督をして「代役がいない」と言わしめる存在
もちろん、本業のサッカーでも代役の効かない存在感を、西野ジャパンに続いて森保ジャパンでも放っている。新たに船出した9月こそヨーロッパでプレーするロシア大会組を招集しなかった森保監督は、パナマ、ウルグアイ両代表に連勝した10月から、満を持して大迫らを復帰させた。
1-1で引き分け、連勝が「3」で止まったベネズエラ戦後には、大迫に関して「非常にいい選手ですし、彼に代わる選手がいないという現状はあります」と言及した。コーチとして西野ジャパンを支え、決勝トーナメントへ進出した快進撃を間近で見てきたからこそ、大迫がチームに与える影響力も熟知している。
相手を背後に背負いながら最前線でボールを収める術。プレッシャーを巧みに受け流しながらボールをキープする術。周囲の状況を的確に把握しながら、味方のために時間を作り出す術。そして、自ら課題に挙げていた、ゴール前の密集地帯に入り込んでいく回数も増え、放たれる迫力も凄味を増してきた。
特にドリブルを駆使した個の突破に長け、初めてトリオを組んだとは思えないハーモニーを奏でる若手三銃士との相性は抜群だった。左から24歳の中島翔哉(ポルティモネンセSC)、23歳の南野拓実(ザルツブルク)、20歳の堂安律(FCフローニンゲン)との関係を、28歳の大迫はこんな言葉で表現したことがある。
「縦に行く選手が多いので、僕のところでしっかりと落ち着かせないとチームとしても苦しくなる。まだまだですけど、今は難しい局面でも勢いよく、前へガンガン行ってもらうのが一番なので。これを続けていきながら、経験のある選手たちがしっかりコントロールできればいいかなと」
2度のワールドカップ優勝を誇る古豪で、FIFAランキングで5位(当時)につけていた強敵ウルグアイを埼玉スタジアムに迎えた、10月16日のキリンチャレンジカップ2018。若手三銃士とのコンビネーションから、大迫のゴールが生まれている。1-1で迎えた前半36分だった。
右サイドで堂安が粘ってボールをキープし、ゴール前の中島へパス。森保ジャパンで「10番」を託されるドリブラーは右へスライドしながら、隙を見つけて強引にシュートを放つ。これはウルグアイのキーパーに防がれたが、展開を予測していたかのように、こぼれ球に反応した大迫が押し込んだ。
コロンビア戦以来となるA代表通算10ゴール目に、大迫は自信をみなぎらせながら前を見すえている。視線の先には、目標として掲げる万能型ストライカー像がある。
「そこ(ポストプレー)はワールドカップでできる、と自分でも大きな手応えをつかんだので、さらにそこからの展開というものを大事にしていきたい」