• 授賞式で流れた『おっさんずラブ』の紹介映像

惜しくも受賞は逃したが、海外の目利きにも『おっさんずラブ』は好評だった。審査員のひとりで、世界中の番組をリサーチし、熟知するウィット社の代表、ヴァージニア・ムスラー氏も以下のように絶賛している。

「世界各国の新作ドラマを拝見してますが、こんなに美しくかつコメディタッチにボーイズラブを描く作品はこれまで観たことがありません。ボーイズラブと言っても、普遍的でユニバーサルな恋愛心理が描かれているので、幅広い層の方も楽しめます。私は黒澤部長(黒澤武蔵=吉田鋼太郎)に感情移入してしまい、応援しながら、とても楽しんで視聴できました」

放送後も人気は衰えず、DVDや配信、書籍、リアルイベントなど多面的に展開され、成功している『おっさんずラブ』は、すでに海外でも人気を得ている。北米はじめ、台湾、香港、韓国、タイのアジア各国や、国際線の機内上映で放送・配信も広がり、中でもアジアの現地ファンの間で牧派(牧凌太=林遣都)と部長派に分かれて議論が白熱するほど。

香港で開設されている『おっさんずラブ』専用Facebook上では、ファンの間で「もし香港でリメイクされたら、この俳優に演じてほしい」といった話題で盛り上がることもあるという。また、台湾や韓国からは「部長とのハッピーエンドになるストーリーに変えたリメイクを作ってほしい」という声も届く。「はるたん(春田創一=田中圭)が使っているビジネスバッグはどのメーカーか?」といった問い合わせも多いとのことだ。

  • 「MIPCOM」の会場

リメイクで日本のドラマに可能性

日本の連ドラは平均話数が10話ほどで、海外でレギュラー放送されている話数と比べると圧倒的に少ない。「より複雑な人物相関図で構成された30話以上のドラマがほしい」と話す海外バイヤーもいる。だが、リメイクといった形で現地版が実現することで、ジャパニーズドラマの可能性は広がる。

また、配信全盛の今は、話数の少なさが問題にならずに日本版のまま幅広い地域で海外配信されている作品も増えている。ちなみに『おっさんずラブ』の海外タイトルは、「おっさん」という言葉を生かして『Ossan’s Love』。海外にも『おっさんずラブ』熱が広がっていくことで、「Kawaii=かわいい」のような世界共通語になり得ることを期待してもいいのではないか。そんな可能性を秘めるドラマのエッセンスや、キャラクターのアイデアそのものに価値を感じる海外バイヤーも少なくはない。

■長谷川朋子(はせがわ・ともこ)
テレビ業界ジャーナリスト。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者。仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴約10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。