いざ、実飲!

ここまで長々と語ったが、パリピは言葉よりも行動派だ。そんな気がする。ということで、佐々木さんに初心者向けの銘柄を提案していただき、プレミアムテキーラのすごさを実際に味わってみることに。

  • 比較的スタンダードな味わいとしてオススメしてくれたのは、「Orendain(オレンダイン)」という銘柄のもの(税込1,200円~)

一般的にはあまり浸透していないが、テキーラにも「熟成」という概念は存在している。テキーラといえば無色透明なイメージを持っている人も多いかもしれないが、熟成期間によって色や風味も変わってくるというのだ。2カ月~1年未満の「REPOSADO(レポサド)」、1年以上の「AÑEJO(アニェホ)」など、熟成期間によって分類がなされており、熟成段階が進むにつれて黄色みを帯びてくるテキーラは、ものによってコニャックやウイスキーにも近い風合いが楽しめるとのこと。手始めに、クリアでシャープな味わいの「BLANCO(ブランコ)」をテイスティング。

  • テキーラを真ん中に据え、左右には2種類のチェイサーが登場。テキーラ(白)、ライムやレモンジュース(緑)、サングリータ(赤)で、メキシコの国旗を表した「バンデーラ」という飲み方が本場メキシコ流だという。AGAVEでは、ライムジュースの代わりに「ベルディータ」なるチェイサーを提案している

出てきたのは、丸いグラスの底に残り少ない夢が揺れている、石原裕次郎さながらのブランデーグラスっぽい器。これはスニフターと呼ばれるグラスで、メキシコではテキーラ用としても展開されているものだという。テキーラ本来の立ち上がる香りが楽しめるだけでなく、舌の甘みを感じる部分にテキーラがストンと落ちてくるように設計されているというから驚きだ。

そして何より衝撃的だったのは、テキーラの温度。これがまさかの常温なのだ。しかも、ライムや塩も見当たらない。アクロバティックなルチャ・リブレかと思いきやバッチバチのストロングスタイルである。

「常温でテキーラを飲んでる人なんて、酒飲みでもけっこう最終段階のやつだろそれ……」という心の声を押し殺し、飲んでみるとさらに驚き。まろやかで後味もスッキリしており、たしかにこれを一気に飲むのはもったいなく感じる。ライムやら塩やらも全然必要だとは思わない。はっきり言って、目を閉じて飲んだらテキーラだとはまったくわからない。ビバ メヒコ。

  • チェイサーも同じく丸いグラスでいただく

続いて、チェイサーへ手を伸ばす。赤いチェイサーは「サングリータ」といい、ベースのトマトジュースにオレンジやライム、ハラペーニョ、塩コショウ、ウスターソースなどが入っているという。立体的な味わいは、もはやスープ感覚。これだけでつまみにもなりそうだ。本場でも一般的で、お店ごとにオリジナルの調合があるのだとか。

一方、黄緑色の「ベルディータ」は、パイナップルジュースをベースに、ミント、ライム、コリアンダー、ハラペーニョなどを配合。スッキリとした甘みに程よい酸味、そしてほんのりスパイシーなフレイヴァーがクセになる。テキーラと交互に飲むと、お互いの味を引き立てる無限ループへ突入。

  • BGMのトラディショナルなマリアッチやボレロに耳を傾け店内を見渡すと、気になるボトルがちらほら

同店ではもちろん、飲みにくいようであればカクテルにしてもらうことも可能だ。中には、お湯割りでテキーラを頼む人もいるらしい。しかし、この常温スタイルはパリピに限らず全酒飲みにオススメしたい。キンキンに冷やした場合でもゆっくりと飲み進め、キレのある締まった味わいから、温度変化とともに風味がフワーっと開いていくような感覚を楽しむのもまたオツである。

テキーラにもさまざまな種類があることは先に述べた通りなので、その中から自分好みの銘柄を探してみるのも面白いだろう。また、テキーラは他のお酒に比べてボトルのデザインが特徴的であるため、ジャケ買いならぬジャケ飲みから入るのもいいかもしれない。

  • 民芸品として有名なタラベラ焼きのボトルをはじめ、個性的なルックスがズラリ。銀細工なども盛んなメキシコには、独自のクラフトマンスピリッツが根付いているようだ

取材も終わりに近づいてきたころ、佐々木さんから「テキーラを手の平に数滴垂らして、揉み込んでみてください」と謎の提案が。言われるままにモミモミし、アルコールが少し飛んだぐらいのところで手元に鼻を近づけてみる。すると、原材料のアガベを感じられるようなネイチャーな香りが筆者の鼻腔をくすぐった。

  • 少し時間が経つと、繊維質な植物っぽい香りも顔を出してくる。脳内は一瞬にしてメキシコのアガベ畑へ、そしてテキーラ村の蒸留所へとトリップ

「たまにこの香りを嗅ぎたい衝動に駆られるんですよね」
そう佐々木さんはつぶやき、笑顔を見せる。たしかに、なにか落ち着くような、クセになる芳香だ。最終的にはこの香りをつまみに飲めそうな気さえしてきた。

テキーラは、原材料を収穫するまでに5~10年ほどの歳月を要している。5年以上経過しないと、作物そのものの糖度が上がってこないからである。ここが他のお酒とは大きく異なる部分だと言えるかもしれない。テキーラは、その長年にわたって培われた大地のパワーを凝縮している液体だということを知れば、罰ゲームとして一気飲みしている場合ではないことがパリピにも理解してもらえるだろう。

  • AGAVE20周年を記念し「オレンダイン」とのコラボレーションも実現。オリジナルのボトルがクールだ。ここにも、同店と佐々木さんが歩んできた20年の歴史が凝縮されている

佐々木さんは続けて「メキシコの文化は、すごく歌と密接なんですよね。例えばラテンなノリだと、パーティの場では踊ろうってなるんですけど、メキシコの場合は踊って歌おう、となるんです。地域ごとに昔から根付いていて、老若男女に親しまれているような歌もいっぱいありますしね。日本で言うと、若者が三波春夫を聴いて、『いいなぁ』って言いながらお酒を飲んで歌を口ずさんでるような、そんな光景がメキシコにはあるんです」と、現地のグッドバイブスを伝えてくれた。

ナメられないためにという動機でテキーラのなんたるかを学びに来たものの、本来お酒はピースなものであるべきだということに気付かされた今回の取材。知識をひけらかしてマウントを取ったところで、そこからは何も生まれない。テキーラを育んだ大地のように広い心を持ち、ショットで一気に飲むスタイルにも理解を示していこうではないか。次の週末には、早速パリピの新人を飲みに誘ってみよう。プレミアムテキーラの味を知った上で、それでも彼がショットで飲むスタイルを貫くのであれば、それはそれでリスペクトっす。

●information
「AGAVE(アガヴェ)」
住所:東京都港区六本木7-18-11 DMビルB1F
営業時間:
月~木
18:30 - 翌2:00 (L.O 1:30)
金・土
18:30 - 翌4:00 (L.O 3:30)
定休日:日曜・祝日の月曜

  • AGAVE外観