10月1日、我が編集部に新人が仲間入りした。聞くところによると、どうやら新人の彼は世に言う「パリピ」らしい。先輩としてこれはナメられるわけにはいかない。

  • 「パリピ」で画像検索すると、こんなんがいっぱい出てくるはず

念のため説明しておくと、「パリピ」とは「party people=パーリーピーポー」の略である。出会い頭にshake hands(握手)をかまし、ことあるごとにテキーラで乾杯→間髪入れずライムをかじって無言の変な時間を生み出すというウィークエンドを過ごしている、底抜けにノリの良いポジティブな人たちのことを示す概念だ。この考えすらすでに古いのかもしれないが、そんなのは知ったことではない。とにかくナメられるわけにはいかないのだ。

そこで、「パリピ=テキーラ」という金箔のように薄っぺらい思考から導いた公式をもとに、テキーラについて勉強することでパリピからnuff respect(最上級のリスペクト)を勝ち取る作戦を決行。早速、世界最大級のテキーラバーに足を運び、その道のプロに話を伺った。

テキーラの深淵なる世界へ

訪れたのは、パリピの街・六本木。この地にオープンし、今年で20周年を迎える「AGAVE(アガヴェ)」は、ほぼ全店員が「テキーラ・マエストロ」という資格を持っている、まさにテキーラバーの中のテキーラバーだ。

  • チカーノギャングが現れそうな雰囲気の怪しげな階段を下り、おそるおそる地下へ

店内に足を踏み入れると、そこには映画のワンシーンのような光景が広がる。出迎えてくれたのは、AGAVEを仕切る敏腕マネージャー・佐々木宗彦さん。同氏は、AGAVE創成期から同店のスタッフとして日本におけるテキーラカルチャーの普及に尽力している。

  • 装飾品や家具にも徹底的にこだわった店内は、革命時代の古き良きメキシコをイメージしているという。オレンジの照明が、メキシコの美しい夕日を思い出させる。メキシコ行ったことないけど

  • 日本テキーラ協会公認 テキーラ・マエストロの佐々木さん。パリピのイメージとは程遠い、ナバホ感のあるジュエリー使いがクールなお方でひと安心

佐々木さんの背後に並んでいるのは、もちろんすべてテキーラである。聞くところによると、同店はテキーラ450種、メスカル120種を取り揃えているとのこと。まずは、パリピは知らないであろう「メスカル」とは何かということを含め、テキーラの基礎知識を説明しよう。正直なところ、筆者も全然知らなかったことばかりである。

テキーラは何かと誤解されがちなお酒

実は、日本はテキーラの輸入量で世界第5位をマークしているという。それだけよく飲まれていながらも、テキーラに関する知識をしっかりと持っている人はほとんどいないように感じる。とにかく“度数がキツい”というイメージが先行しがちである。

しかし、規則として、テキーラのアルコール度数は35~55%という範囲が定められているのだ。つまり、標準的なウイスキーとアルコール度数はさほど変わらないということになる。

  • ラベル左下に「アルコール度数40%」の表記が

そんなテキーラの原料となるのは、「アガベ(リュウゼツラン)」という植物だそう。多肉植物の一種で、見た目はアロエに似ている。同じく多肉植物であるサボテンがテキーラの原料だと思っている人も多いかもしれないが、それは大きな誤解だ。

  • アガベのビジュアルはこんな感じ。5~10年ほどの長い時間をかけてじっくりと育てられたものを収穫していく

収穫したアガベは、加熱→搾汁→発酵→蒸留(・熟成)→ろ過・ボトリングといった工程でテキーラに変身する。ちなみに「テキーラ」の名前は、メキシコ・ハリスコ州にある「テキーラ」という村に由来している。アガベを原材料とした蒸留酒のうち、5州(ハリスコ、ナヤリ、タマウリパス、ミチョアカン、グアナファト)で造られたものをテキーラと呼び、シャンパーニュ地方で生産される「シャンパン」のように原産地呼称で統制されているのだ。

  • アガベの葉を切り落とし、ピニャと呼ばれる茎の部分を搾ったものがテキーラの主な原料となる。葉を切り落とした状態がパイナップルに似ており、テキーラのラベルにこれが描かれることなどもあるため、パイナップルが原料だと勘違いしてしまうパターンも

また、テキーラは200種類以上あるアガベの中から、「アガベアスル」という品種を原材料として使用したものと定められている。一方、「メスカル」は、アガベアスルを含む52種類のアガベを原料としたものであり、現在は9つの州(オアハカ、ドゥランゴ、サカテカス、タマウリパス、グアナファト、サン・ルイス・ポトシ、ミチョアカン、ゲレロ、プエブラ)で生産されている。加熱する際に、テキーラは蒸し上げるのに対し、メスカルは焼き蒸しにするため独特なスモーキーさが楽しめるという。

  • メスカルにはサソリやイモムシが入っているものもあり、その印象が強く残りがちだが、決してそれが主流というわけではないとのこと

いいテキーラの選び方とは?

そろそろ「先輩、うんちくはもうよくないスか?」というパリピの声が聞こえてきそうだが、トペ・コンヒーロを喰らわせたい気持ちをグッとこらえ、ここからはいいテキーラの見分け方を紹介しよう。実は、テキーラは「100%」か否かで2つに分類されるのである。それを決定するのは、原料の使用割合だ。

糖分の100%がアガベアスル由来のものは、「100%アガベテキーラ」と名付けられ、「プレミアムテキーラ」という俗称でアメリカのセレブたちにも愛飲されているそうだ。“100%”、“プレミアム”、“アメリカ”、“セレブ”と、パリピの心を鷲掴みにするワードが短いスパンに凝縮されている。

しかし、ジャパニーズパリピがショットでバコバコ飲んでいるテキーラは、だいたいが「100%」ではないという。一般的な「テキーラ」は、糖分の51%以上がアガベアスル由来となっており、残りはサトウキビ由来の糖分などを原料としている。要するに、雑味が出てしまうのだ。

  • 佐々木さんは、初めて「100%」を飲んだときにテキーラのイメージを覆され、この味をもっと多くの人に知ってほしいという想いが芽生えたのだそう

「100%アガベテキーラ」は、生産コストが高く手間もかかるため、値段はその分高くはなる。しかし、副原料を一切使用しないので、アガベ本来の甘みや香りを堪能できるというわけだ。

そして、「100%アガベテキーラ」か否かは、ラベルを見れば判断可能。それらのラベルには必ず「100% de Agave」と記されているのである。ちなみに、同店のテキーラはすべて「100%」とのこと。副原料が入っていないものは、二日酔いになりにくいとも言われている。

  • 蒸留技術の進歩などにともなって品質も向上し、プレミアムテキーラは年々入手しやすくなってきている