神戸新交通は26日、六甲ライナー(六甲アインランド線)にデビューする新型車両3000形の試乗会を行った。六甲ライナーはJR神戸線(東海道本線)と接続する住吉駅、阪神本線と接続する魚崎駅から、六甲アイランドの南端に位置するマリンパーク駅までを結ぶ全長4.5kmの新交通システムを採用した路線だ。

  • 既存車両1000形と並んだ六甲ライナー新型車両3000形

神戸新交通は六甲ライナーの後継車両として、8月31日から新型車両3000形をデビューさせる。これに先立ち、一般向けに新型車両の試乗会が行われることになった。3000形の車体はシャープな船舶のシルエットをモチーフとしており、前面が傾斜している。カラーリングは神戸にある最古のガス塔にちなみ、緑青(ろくしょう)を基調としている。

3000形を見ると、誰もが神戸らしいモダンな車両と感じるのではないだろうか。また、車体の緑青は六甲ライナーの背後に広がる青々とした六甲山系も連想させる。船舶のシルエットをモチーフとした前面デザインと相まって、神戸の文化、自然をうまく反映させた車両といえるだろう。

  • 3000形の前面はシャープな船舶のシルエットをモチーフとしている

  • マリンパーク方先頭車の車内

  • 中間車の車内。ドア付近に設置された取っ手が目立つ

3000形の内装は住環境のように心地良い空間をめざして設計された。そのため、床面は昭和レトロを再現した車両でよく使われている濃い木目調ではなく、フローリングのような色彩となっている。そのため、車内というより住居にいるような印象だった。フローリングのような木目調のせいだろうか、車内で思わず靴を脱いでしまう子の姿もあった。

ドア付近にはループ状の取っ手が取り付けられた。神戸新交通の関係者によると、混雑時に車内の奥に詰められない場合を想定して設置したとのこと。車体が狭い新交通システムらしいアイデアといえるだろう。

  • 3000形の運転台。通常時、六甲ライナーは無人運転を行う

  • 六甲島検査場の風景

今回の試乗会では、集合場所となった六甲島検車場から3000形が出発し、JR神戸線と接続する住吉駅まで往復した。3000形は新交通システムでよく感じられる無駄な前後運動が少ない。加速・減速ともに至ってスムーズだ。六甲ライナーの従来車両1000形と比べて、下から突き上げるようなゴツゴツとした振動も大きく改善されているように感じた。

六甲ライナーで使用される車両の特徴的な設備として「瞬間曇りガラス」が挙げられる。各編成の西側の窓に設置されており、住宅地に入ると即座に曇るようになっている。沿線住民のプライバシーを考慮して設置されたもので、新型車両3000形も瞬間曇りガラスを採用。南魚崎駅付近から大きな窓が一瞬にして曇った。六甲島検査場を出てから約30分で住吉駅に到着。ここで折り返し、六甲島検査場に向かって走り始めた。

3000形は8月31日にデビューする新型車両だが、新車特有の独特のにおいがまったく感じられなかった。車内にはにおいを取り除くプラズマクラスターイオン発生装置が取り付けられている。神戸新交通の関係者によると、新車特有のにおいがしないのも、このプラズマクラスターイオン発生装置の働きではないかとのことだった。

  • 車いすスペースは各車両に設置された

いずれにせよ、3000形は細かな配慮が行き届いた車両といえる。この新型車両を通じて、未来の新交通システムの姿を垣間見たような気がした。

新型車両が六甲ライナーの長所を再認識させる機会に

ところで、六甲ライナーは関西の方々にとってもなじみの薄い路線かもしれない。六甲ライナーは神戸市東灘区の人工島である六甲アイランドの基幹交通として、1990(平成2)年に開業した。以来、利用者は順調に増加している。

これだけ書くと、六甲ライナーは純粋な六甲アイランドの生活路線に思われそうだが、じつは六甲ライナーの沿線は観光資源にも恵まれている。

たとえば、南魚崎駅は日本随一の酒蔵で知られる「灘五郷」の最寄り駅として知られる。「灘五郷」では出来立ての日本酒の試飲を楽しむことができ、週末を中心に多くのインバウンド客が訪れる。六甲アイランド内のアイランドセンター駅周辺には、日本でも珍しいファッションに焦点を当てた神戸市立ファッション美術館がある。終点のマリンパーク駅で下車すると、ウォーターパーク「デカパトス」があり、夏場は家族連れで大いににぎわう。

これだけの観光資源に恵まれているにもかかわらず、六甲ライナーの車内は観光客が少ないように感じられる。3000形は「乗りたい」と思わせる魅力的な新車だけに、これを契機に観光客の利用増加につなげたいところだ。新型車両3000形のデビューにより、六甲ライナーの長所を利用客に再認識させる絶好の機会となるのではないか。