――制作の裏側までお話いただきありがとうございました。そんな制作状況のなかで作っていった「ペンギン・ハイウェイ」。そもそもなぜこの作品を映画化したいと思われたのでしょうか?

鳥が好きで、以前も鳥がたくさん出てくる短編アニメーション作品『陽なたのアオシグレ』を制作しましたが、唯一飛ばない鳥・ペンギンは描いていなかった。そういう背景があるなかでこの原作と出会い惹かれていき、これを映画にしたいと思うようになったんです。

――では、原作を忠実に描いている?

原作を尊重しつつも映画ならではの解釈に変えている部分もあります。例えばオープニング。ペンギンが町の中を歩いているところをただカメラが追っているという表現は完全にオリジナルです。また後半でペンギンが走り回るシーンも独自のものですね。そういう映画なりのアイデアが入っているので、原作を知らなくても楽しめるものにはなっていると思います。

――原作では難しい用語が多々出てきますがこの点は?

用語については原作の森見登美彦先生が「わからない部分も大切にしたい」とおっしゃっていましたし、僕自身もそこは重要だと感じていましたので、ある程度分かりやすくしているところもあれば分からないままの表現にしているところもあります。説明をつけるとつまらなくなると思い、あえて絵だけで勝負したシーンもあります。そこは映画の見どころでもあると思うので、どこを変えて、どこが変わっていないのかは劇場でチェックしていただければと思います!

――それ以外の見どころについてもぜひ監督の口から語っていただければと思います。

ひとつは主人公であるアオヤマ君の変化が挙げられると思います。今回自分は重点的に表情をチェックしていたので、作品全体を通した変化や線一本分の差レベルの描き分けに挑戦しています。本当にほんのちょっとのことで変わりますから。キャラデザイン、作画監督ともにみんなで苦労してますよ。アオヤマ君は感情の起伏が少なめの中で頑張ってます。あとは細かいところで言うと、ラストのほうではアオヤマ君の髪の毛が若干伸びていたり……そういう細部までこだわっているのでぜひ注目していただきたいですね。

――アオヤマ君は声優に北香那さんが起用されています。北さんはアニメーション映画への声の出演は初となると思うのですが、彼女を起用した理由は?

まずシンプルにオーディションでの北さんのお芝居が上手だったのと、また少年の純真なまっすぐさも表現できていたことです。選ぶときの意見としてはもうちょっとひねくれていても、とか、マニアックな変態性も欲しいという意見もありましたが、純粋にまっすぐ突き進む少年像をいちばんに求めていたので、彼女を起用しました。

――お芝居の面でいえばお姉さん役の蒼井優さんの演技も絶妙です。語尾だけで変化をつけるなどはさすがの演技力だと感じました。

そうですね。演者としても女性としても惹かれる方だと感じたので、今回お姉さん役を演じていただけて本当によかった、バッチリだったなと感じています。

――作り終えたいまは率直にどのようなお気持ちですか?

よく分からないというのが正直なところです。というのも、規模感がでかくて自分の目に見えないところ、手に届かないところもあったので、実感を咀嚼するのにも時間を要するのかなと……。ただ、一生大切にしたいと思える作品にはできたと思っています。あとは蓋を開けてお客さんに見ていただかないとわからないですね(笑)。

――ここまでお話いただきありがとうございました。最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

子供が見たらわけがわからないシーンや言葉などがあるかもしれませんが、わけがわからなくても見てもらいたいというのが僕の気持ちです。そのわけのわからなさからくる未知感や怖さなど、酸いも甘いも描きたかった。そういう作品も必要だと。ぜひお子さんにも見ていただきたいです。また、少年時代を謳歌したお父さん世代にもいろいろと感じる部分がある作品に仕上がっていると思うので、親子で劇場に足を運んでみてください。

また、本作は原作を尊重しつつも自分の作品にできたかなと感じています。原作者の森見先生からは先ほどの「わからない部分も大切にしたい」ということと、実際の要望としては「アオヤマ君は天才少年」ということのみで、あとはほとんどお任せいただいておりました。その点は本当にありがたかったです。自分が大切にしたいと思える作品に仕上がったので、ぜひ皆さんに見ていただけると嬉しいです。感想もお待ちしております!

プロフィール
石田祐康(いしだ・ひろやす)
1988年、愛知県知多郡美浜町に生まれる。愛知県立旭丘高等学校美術科に入学。在学中にアニメーションの制作をはじめ、2年生の時に処女作「愛のあいさつ-Greeting of love」を発表。京都精華大学マンガ学部アニメーション科に進学し、2009年に発表した自主制作作品「フミコの告白」は、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞、2010年オタワ国際アニメーションフェスティバル特別賞、第9回 東京アニメアワード学生部門優秀賞など数々の賞を受賞。2011年に同大学の卒業制作として発表した「rain town」も第15回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞などを受賞。2013年、劇場デビュー作品となる「陽なたのアオシグレ」は、第17回文化庁メディア芸術祭にてアニメーション部門の審査員特別推薦作品に選出された。2014年にはフジテレビ系ノイタミナの10thスペシャルアニメーション「ポレットのイス」を制作。