お昼時の飲食店やコンビニはどこも大行列の状態で、ごはんにありつくだけで何十分間待たされることか。ようやくご飯にありついたと思ったら、昼休みの終わりの時間を気にしながら食べて、そそくさと業務に戻るのでは、かえってストレスが溜まってしまいかねません。

そう、都心のオフィス街は、いわゆるランチ難民(※)であふれかえっています。

※この記事で言うランチ難民とは、お店がどこも満員のため、ランチタイムに並ぶ人々を指します

フードトラックが注目される

そこで、注目が集まっているのがフードトラックです。「え? 作り置きの弁当を売る店でしょ?」なんて思い込んでしまう人もいるでしょうが、時代はもっと先へと進んでいます。

キッチンを兼ね備えた自動車で、店舗のレストラン同等の技術を持ったプロのシェフが、その場でできたてのおいしいランチを振る舞ってくれる―そんなフードトラックが増えつつあるのです。料理のラインナップも多彩で、和食、イタリアン、エスニック、多国籍料理など、個性的でお洒落な料理が勢ぞろい。固定店舗を凌ぐクオリティと選択肢を誇っているのです。

独立心旺盛な料理人の登竜門

フードトラックビジネスを展開するMellowの代表取締役、柏谷泰行さん(以下、柏谷さん)によれば、10~15年ほど前からプロのシェフの姿が増えてきたといいます。

柏谷さん:フードトラックといえば、かつてはテキヤさんが、イベントやお祭りの屋台として出店していたのが始まりだといわれています。それが次第に専門的な技術を学んだ料理人が、独立の手段として選択するパターンが増えていったんです。

実際、都心で店舗を出すなら1000万、2000万円単位の準備金が必要で、月に数十万円単位の家賃もかかるだけに、出店には大きなリスクが伴います。しかも、飲食店の固定店舗の廃業率は2年で50%以内といわれ、簡単に店を構えるわけにもいかないと、柏谷さんは言います。

これに対してフードトラックならば200~300万円の投資で済み、基本的には家賃もゼロ。あくまでも自動車ですから、街の状況に合わせて出店場所を変えられるメリットもあります。柏谷さんによれば、店によって変わるものの、1日50~60食を売れば利益を出せるとのこと。

腕はあるけどお金がない、野心ある料理人にとって、プロとしてのキャリアを構築できる新しい場所として機能しているようです。

お洒落なトラックで上質の料理を

現在、六本木や恵比寿、銀座といった都内を中心としたビジネス街のど真ん中で、フードトラックが集結する「TLUNCH」を約70か所展開。約350の登録フードトラックが日替わりで登場することで、毎日、ビジネスパーソンたちの舌を楽しませています。

  • TLUNCHに登録してるフードトラックの内訳(2018年5月現在)

TLUNCHの出店先の多くは、大手不動産会社所有ビルの敷地内。いずれも極めて好立地にあり、かつランチ難民が問題となっているエリアでもあります。

柏谷さん:ランチ難民が多いからと言っても、フードトラックのオーナーが自ら大手企業を相手にアポを取って、出店交渉するのは現実的には難しいでしょう。ならば、その代わりを僕たちが行えばチャンスがあるのではないかと起業しました。

実は路上販売の規制が厳しくなった昨今、フードトラックの店主たちは販売する場所の確保に頭を痛めているそうです。中には駐車場を借りて販売する人もいますが、それでは固定店舗と同じ状態となり、フレキシブルに出店先を変えられるフードトラックのメリットがなくなります。

コンビニ弁当を食べる目が死んでる

TLUNCHではフードトラックからは売り上げの15%をもらう仕組みとなっています。このうちの5%を出店先のビルに収め、10%が同社の利益となるそうです。固定家賃ではない分、トラックも気軽に商売できますし、ビルにも利益が入り、働く人にも食の喜びを提供できる―三方よしのビジネスモデルだけに必ず成功すると柏谷さんは起業しましたが、思わぬ壁に突き当たります。

スペースの貸し手である大手企業が、実績のない同社との取引に難色を示して、しばらくの間はまったく売り上げが上がらずじまいだったそうです。

柏谷さん:よく原因を紐解いてみると、衛生管理の不安や、トラックのデザインが景観にマッチしないといった問題が上がってきました。「なんで屋台をウチに置きたいの?」なんて反応もあり、シェフがしっかりと作っているというところからアピールしていかねばなりませんでした。

衛生に関しては、保健所の指導を守るのはもちろん、店主に定期的な検便や、生産物賠償責任保険の加入を義務付けるなどという徹底した体制を構築。また、景観にふさわしいトラックのデザインのレギュレーションを設け、空間プロデュースも担うといった取り組みも開始して今に至るようです。

実はもともとはIT企業の取締役だった柏谷さん。起業のきっかけの一つが、同僚が席でコンビニ弁当を食べている同僚の目が「死んでいた」からだったそうです。

柏谷さん:不思議ですが、外できちんとランチを食べて席に帰ってくると、いい顔をして午後の仕事に臨んでいるんです。少しでも多くの人に、フードトラックのランチで気分を盛り上げてもらいたいですね。