6月18日、アクサ生命はCR Weekを開催し「中小企業における治療と仕事の両立」をテーマとしたシンポジウムを行った。これは同社のコーポレート・レスポンシビリティ(企業として社会的責任を果たす取り組み)の推進と浸透を目的としたもので、全世界のアクサグループ社員16万人が同時に取り組んでいる。

就労人口の減少や高齢化が進む中、診療・治療技術の進歩によって入院期間は短期化する傾向にあり、企業では健康経営や働き方改革という考え方が浸透し始めた。このような現状において、大きな課題となっているのが「中小企業における治療と仕事の両立」だ。シンポジウムでは、専門知識を持つゲストスピーカーがこの解決に向けた議論を行った。

桜井氏が語る治療と仕事の両立の現状

シンポジウムは、キャンサー・ソリューションの桜井氏による基調講演から開始された。桜井氏は、自身のがん罹患経験をもとに、治療と仕事の両立について語る。2人に1人は、生涯のうち一度はがんにかかる現代日本。この現状に対応するため、2006年に成立されたのが「がん対策基本法」だ。

  • キャンサー・ソリューション株式会社代表取締役社長 桜井なおみ氏

    キャンサー・ソリューション株式会社代表取締役社長 桜井なおみ氏

法律ができてから対策は加速度的に進み、いまや検診受診率は成立前の2倍、拠点病院数は3倍、死亡率は89.8%から76.5%へ改善したそうだ。桜井氏は「がんになった個人が頑張るのではなく、社会がもっと頑張らないといけない」と語る。

治療が変化する中、いまだ問題を抱えているのが、がんが見つかった後の就業。現在、全体の21%が依頼退職、解雇、廃業し、休職・休業を含めると30%が影響を受けているという。また、定期的な収入があった人の多くが減収しているという現実もある。個人事業主はさらに厳しい状況に置かれており、事業への影響を感じた方も多い。

  • がんに罹患した患者は少なからず仕事に影響を受けており、とくに個人事業主の問題は根強い

    がんに罹患した患者は少なからず仕事に影響を受けており、とくに個人事業主の問題は根強い

そのようながん患者を雇用している企業経営者が知りたいのは、就労上の配慮事項、治療期間の見通し、今後の働き方に関する思いだという。しかし、がんであると診断された労働者が即座に答えるのは難しいもの。結果として中小企業や非正規の労働者は診断から一ヶ月以内、大企業では休暇を使い切った1年後に仕事を辞めるケースが多いそうだ。

  • 働き方を変更した時期は、就労形態によって主に2パターンに分かれるという。病院、地域や企業のさらなる支援が求められている

    働き方を変更した時期は、就労形態によって主に2パターンに分かれるという。病院、地域や企業のさらなる支援が求められている

さらに依頼退職、あるいは解雇される従業員もおり、その割合は10年間まったく改善されていない。がんになっても仕事を続けられる就労環境の整備、社会や雇用者側の正しい理解の浸透が急務となっている。

そのための基礎となる動きが「働き方改革」だ。具体的には、長時間労働の是正、同一労働同一賃金、治療と仕事の両立支援、この3つの実現が必要となる。そして企業が目指すべきものが「健康経営」。従業員の健康管理を経営的視点から考え実践することが、これからの日本の企業には求められる。

治療と仕事の両立を支える医療の必要性

続いて、Medica Studioの坂本氏が「治療と仕事の両立を支える医療」について講演を行った。Medica Studioは、ドクターを中心とした医療専門職の地域教育を行っている非営利機関だ。

  • 一般財団法人Medica Studio代表理事 坂本文武氏

    一般財団法人Medica Studio代表理事 坂本文武氏

「今の医療がこのまま続いては、病人を支えきれない」、坂本氏はまずこのように説明する。日本では労働人口の約3人に1人がなんらかの疾病を抱えながら働いており、治療と仕事の両立が必要となっている。この状況に対応するためにMedica Studioが行っているのが、総合診療医(ジェネラリスト)教育だ。

海外ではすでに、全体の3割が総合診療医である必要性が説かれているという。一方、日本での割合はまだ約3~5%。現在、日本の医療現場は専門分化されてしまっており、パーツを治すための蓄積はあるものの、複合的な問題を抱えた人に対処できなくなっている。

  • 総合診療医(ジェネラリスト)の育成や地域教育に取り組むMedica Studio

    総合診療医(ジェネラリスト)の育成や地域教育に取り組むMedica Studio

「個人だけでなく地域を見た医療を」坂本氏はこう訴える。「SDH」(健康の社会的決定要因)視点では、たとえば経済的な困難や家庭環境、社会的つながりが健康と連動していることがはっきりと示されている。このような病気の根源にアプローチするため、身体だけでなく、社会や生活背景までも踏まえた支援が必要とされる。ここで総合診療医が重要となってくるわけだ。

また、治療と仕事の両立のために今年5月から「両立支援コーディネーター」の研修も始まっている。看護師や医療ソーシャルワーカーを担い手とし、2020年までに2,000人の養成を目指しているが、まだまだ数が足りていない。Medica Studioもこれを支援するため、eラーニングなどを用いて遠隔地の医療従事者も受講できるようなシステムを開発中だという。

  • 病いと折り合いをつけながら働いていくための社会づくりがこれからの日本には求められる

    病いと折り合いをつけながら働いていくための社会づくりがこれからの日本には求められる