『仮面ライダー龍騎』(2002年)は、『仮面ライダークウガ』(2000年)『仮面ライダーアギト』(2001年)に続く「平成仮面ライダー」シリーズの第3弾として、東映・石森プロ・ADK・テレビ朝日が制作した連続テレビシリーズである。

今や「特撮ヒーロー」の代名詞として、子どもから大人まで幅広い年代に認知されている「仮面ライダー」だが、1994年に劇場公開された『仮面ライダーJ』を最後にシリーズは途絶え、それから『クウガ』が作られるまでの6年間、テレビや映画館から新しい仮面ライダーの姿を見ることが叶わない時期が存在していた。

1998年には『仮面ライダー』をはじめ『人造人間キカイダー』『変身忍者嵐』『イナズマン』『秘密戦隊ゴレンジャー』といった東映特撮ヒーローの原作を多数務めてきた"萬画家"石ノ森章太郎氏がこの世を去り、もう二度と新しい仮面ライダーは出現しないのではないか、とも思われていた。そんなとき、石ノ森氏の意思を継いだ石森プロと東映による「仮面ライダー復活」の動きが活発化し、今までの「仮面ライダー」像の払拭と革新を目指した『仮面ライダークウガ』が生み出された。

従来からある「人間を脅かす怪人と戦う変身ヒーロー」という図式を踏襲しながら、登場キャラクターの造形からストーリー展開まで、あらゆる部分にリアリズムを盛り込んだ『クウガ』は、それまでの「特撮ヒーロー」作品の流れを大きく変えた作品として、視聴者に多大なるインパクトを与えた。

続く『アギト』では、『クウガ』のリアル志向を継承しつつ、アギト、ギルス、G3という出自も個性も異なる3人の仮面ライダーを設定し、彼らの三者三様の行動を追いかける「群像ドラマ」が目指された。仮面ライダーが常時3人出てくるといっても、東映の大ヒットシリーズである「スーパー戦隊」と違い、アギトもギルスもG3も共に力を合わせて敵と戦うわけではない。展開に応じて、3人のライダーは時に協力しあったり、時に激しく争ったりする。複雑かつ予測不可能なストーリーと、3人のライダーをとりまく各キャラクターの魅力などによって、『アギト』もまた視聴者からの好評を得た。

そして3作目の『仮面ライダー龍騎』である。この『龍騎』こそ、平成仮面ライダーシリーズのその後の「継続と発展」を決定づけた作品といえるのではないだろうか。

1971年の第1作『仮面ライダー』からテレビを観続けていた熱心な仮面ライダーファンは、スタイルもドラマ展開も過去から大幅な刷新を図った『クウガ』や『アギト』を受け入れつつも、クウガは歴代ライダーでいえば15号、アギトは16号、ギルスは17号、G3は18号……と、仮面ライダーシリーズの持ち味でもあった「作品をまたぐ共通した世界観」を当てはめようとする考え方を、ほんのわずか残していたところがあった。かつて『仮面ライダーBLACK RX』(1988年)で、RXを助けるために歴代の10人ライダー(1号~ZX)がかけつけたような、作品世界をまたいだ展開もあるか?と期待を抱いていたのだ。

しかし『龍騎』ではそういった可能性を最初の段階から否定するかのように、当初から「仮面ライダーが複数登場し、互いに最後の1人になるまで戦い合う」という独自の設定を打ち出し、「これは『龍騎』という独立した作品なんだ」という意志を、視聴者にはっきりと示している。「仮面ライダーとはこういうものだ」といった固定観念を『龍騎』のライダーたちが壊したことにより、後続の仮面ライダーシリーズもまた固定観念に縛られることのない、自由な発想の設定やキャラクターを盛り込みやすくなった。つまり『龍騎』が仮面ライダーの可能性を、それまで以上に広げる役割を果たしたといえるだろう。

『龍騎』に登場する仮面ライダーは、従来のライダーのような「人間の自由を守るため戦うヒーロー」では決してない。鏡の中の世界「ミラーワールド」に棲むモンスターと契約し、それぞれが叶えたい「願い」のために戦う戦士として「仮面ライダー」という名前が与えられたにすぎない。都合13人の仮面ライダーが『龍騎』には登場しているが、その中には凶悪な犯罪者(王蛇)や悪徳刑事(シザース)といった、決してヒーローとは呼べない者も多く存在する。みなそれぞれ「願い」を持っているかどうかが大事なのであって、従来の仮面ライダーのように「人間を守るヒーロー」という部分はあえて切り捨てられているのが『龍騎』ライダーの特徴である。

ライダー同士の戦いを止めたいと考える龍騎、積極的に戦おうとするものの非情になりきれないナイトという2人のライダーを中心にすえながら、さまざまな「願い」あるいは「欲望」を叶えるためにライダーになった者たちがミラーワールドで激しく争うストーリーは、先の読めないスリリングさに満ちている。放送から今年(2018年)で16年を迎えた『龍騎』だが、その卓越したストーリーと、愛すべきキャラクターの魅力は今でもまったく色あせることなく輝きを放ち、多くのファンを魅了している。

須賀貴匡(すが・たかまさ)
1977年生まれ。東京都出身。1999年に俳優デビュー。2002年の『仮面ライダー龍騎』では、偶然カードデッキを手にしたことから仮面ライダーの戦いに巻き込まれたことから、ライダー同士の戦いをやめさせようとする素直で実直な青年・城戸真司を演じ、その繊細な演技で多くのファンを獲得した。以後もNHK大河ドラマ『花燃ゆ』(2015年)をはじめとするテレビドラマや、映画、舞台など幅広いジャンルで活躍を続けている。

松田悟志(まつだ・さとし)
1978年生まれ。大阪府出身。1998年のジュノン・スーパーボーイ・コンテスト出場がきっかけとなって芸能界に入り、1999年に俳優デビュー。2002年『仮面ライダー龍騎』では、意識不明の恋人を蘇生させたいという「願い」を持つ仮面ライダーナイト/秋山蓮を演じ、龍騎/真司と並ぶ重要キャラクターとして高い人気を誇った。NHK連続テレビ小説『てっぱん』(2010年)などのテレビドラマ、映画、舞台ほか、多方面で活躍中。

■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。

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