最低限の荷物と設備だけでも十分

バスにはその時々によってメンバーが加わる場合があるが、基本的に「ON THE TRIP」のメインメンバーである成瀬氏と志賀氏のふたりが過ごす空間となる。成瀬氏は営業を含めた事業全般を、志賀氏はコンテンツの制作を担っている。各自の仕事にあわせ、お互いそれぞれのリズムで共同生活をしているが、帰ってきたら「おつかれっす」「うっす」と言い合い、軽く打ち合わせをし、一緒の時間に就寝することを習慣にしているようだ。

  • 入口には玄関マット。ここで靴を脱ぐ

    入口には玄関マット。ここで靴を抜ぐ

左右に設けられたベット兼収納エリアは各自の空間となるが、それ以外はシェア空間となる。さらに、各自収納ボックスがあるとは言え、限られた空間ゆえに多くの所有物は維持できない。志賀氏はバスライフを始める前、シェアハウス暮らしだったこともあり、特に違和感や戸惑いはなく、いい意味でお互いの距離感を保てていると話す。

また、学生時代の半年間にわたるバックパッカー生活から始まり、シェアハウスからシェアハウスへと引越しも多かったため、自然と所有物が厳選されていったという。実際に収納ボックスを見せてもらったが、中にはバッグや少しの衣類、そして、常備薬がある程度。冬でもサンダルなのは、「靴下を持ちたくないから」という理由からだ。

  • 志賀氏の収納ボックスの中。本当に必要最低限の物しか所有していない

    志賀氏の収納ボックスの中。本当に必要最低限の物しか所有していない

その一方で、本はたくさん持っている。本と言っても、全部PDF化した上でipadに入れているというもので、今のこの生活の中で大活躍している存在だとか。「どこでも読みたい時に読めるし、資料としていつでもどこでも検索できる。またひとつ、荷物が少なくなったなぁと感じるところ」と話す。

寝室やキッチンはあるものの、バス内には洗濯機やトイレは設置していない。そのため、バス移動の際には駐車できる空間の確保の次に、トイレやコインランドリー、スーパーを探す必要がある。そんな"開拓"も、旅をしながら生きる・働くことの醍醐味だろう。

  • コンロは「キャンピングカー申請」の必須項目。あまり料理はしないようだが、こんな環境下で作って食べる料理はきっとおいしいはず

    コンロは「キャンピングカー申請」の必須項目。あまり料理はしないようだが、こんな環境下で作って食べる料理はきっとおいしいはず

ちなみに、駐車エリアはその都度、取材先から提供してもらっている。バスライフ初の冬越えとなった2017年冬は奈良で迎えたようだが、寝袋に身を包んでもなかなか暖がとれず、駐車場を提供してくれたお寺の住職さんがストーブを貸してくれたという。奈良の次の目的地が沖縄だったのは、「暖かいところに行きたい」という思いもあってのことだ。

時には富士山を見上げながら

目的地への移動はもちろん、バスを運転して行く訳だが、沖縄までの道には海がある。そのため、奈良から大阪の大阪南港に向かい、そこからバスだけ船旅へ。マイクロバスほどの大きさになると、送料に片道20万円もかかることが判明し、バスを置いていくことも考えたようだが、「バスで行くことに意味がある」ということで、バスは沖縄の地を踏むことになった。

取材時の5月は道の駅富士吉田の駐車場が"ベース"となった。見上げれば富士山という絶景かつ、すぐ側には持ち帰り無料の富士山天然水も湧いている。日の光で目を覚まし、時には星空を眺めながら眠るという、自然の中で生きることを実感する毎日だという。

  • 取材時の"ベース"は道の駅富士吉田。富士山もばっちりだ

    取材時の"ベース"は道の駅富士吉田。富士山もばっちりだ

強いて言うならでの悩みとしては、インターネット環境の確保だ。現在はポケットWi-Fiを使っているが、彼らの行く先ではほとんど電波が入らない。仕方なくスマホのテザリングを使っているが、1カ月で30GBを使い果たすこともあるそうだ。バスそのものにWi-Fi機器を設置してみてはと提案したところ、「どうやってやるんだろう。旅先でそれをやっているバス仲間に出会えたらやり方を聞いてみたいな」と志賀氏。

現在、バスは「ON THE TRIP」のハウス兼オフィスとなっているが、バスホテルとしてここぞという絶景ポイントなどに設置し、誰でも泊まれて「ON THE TRIP」の旅を追体験できるようなプロジェクトも構想している。今後、このバスがどんな旅を生み出してくれるのかにも期待したい。