2016年9月の運休から約1年9カ月、5月16日にオーストリア航空が日本に帰ってきた。ウィーン=成田線の初便には特別塗装機「Blue Danube Waltz(ブルー・ダニューブ・ワルズ: 美しき青きドナウ)」号を導入するなど、オーストリアのフラッグキャリアが持つ魅力を改めて明示した。今回の再就航における同社、そして、ルフトハンザグループの日本・アジア戦略はどのようなものなのだろうか。

ルフトハンザグループ航空会社 オーストリア&スロバキア地区セールス担当シニアディレクターのシュテファン・リンハルト氏。1996年にウィーン国際空港の旅客サービス・エージェントとしてオーストリア航空に入社。中欧・東欧のエリアマネージャー代理、オーストリアのセールス担当副部長など複数の管理職を歴任した後、2013年にインターナショナル セールス・流通担当ディレクターに就任。2016年から現職で、オーストリア航空・ブリュッセル航空・ルフトハンザドイツ航空。スイスインターナショナルエアラインズの収益と販売コストを司る

今回、ルフトハンザグループ航空会社 オーストリア&スロバキア地区セールス担当シニアディレクターのシュテファン・リンハルト氏と、ルフトハンザグループ 日本・韓国支社長のドナルド・ブンケンブルク氏に、航空会社創業経験もある航空ビジネスアドバイザーの武藤康史氏が戦略に迫った。

再就航の理由は為替の改善だけじゃない

武藤氏: 「オーストリア航空は1989年より、27年にわたってウィーン=成田線を展開していました。2016年9月に運休し、そして今、再就航したわけですが、以前と今とでは日本市場はどう変わったと考えていますか」

リンハルト氏: 「主に3つあります。2016年の時には円とユーロの為替の関係で20~30%程度、チケットの売上げが安くなってしまったという問題がありました。しかも、売上げにおける路線シェアは8割が日本市場をベースにしていたため、なおさらその影響が大きかったです。

もうひとつは、日本の需要が上がってきたという背景があります。あの時は、日本から欧州に行くことにやや抵抗を感じてしまう背景がありましたが、今はその需要が戻ってきています。さらに、オーストリアから日本に行こうという需要も高まっています。搭乗者の国籍は以前、日本が8割でしたが、夏の予約状況ではその割合が7割になり、欧州からの需要が少し増えています」

武藤氏: 「欧州市場からの日本に対する需要が伸びているということですね。特に今、日本政府もインバウンドを伸ばすための施策をしていますが、それが功を奏しているということでしょうか」

リンハルト氏: 「私が担当しているオーストリアの市場でツアーなどを運営している企業に話を聞くと、確かにそのトレンドがあると実感させられます。これまではアジアであればタイが中心でしたが、日本への需要も増えています。ですが、それでも日本からオーストリアへの需要の方が圧倒的に高い傾向があります」

1984年、シカゴ・オヘア国際空港の旅客サービス部門担当としてルフトハンザに入社。米国中西部の地域セールスマネジャーや米国のキー・アカウント担当マネジャーなどのセールス担当職を経験した後、中国東部支社長やアジア太平洋地域のアライアンス、事業開発担当長を務めるなど、国際的ポジションを歴任。ルフトハンザ グループの米国セールス担当マネージング・ディレクターを務めた後、2015年よりルフトハンザ日本支社長に就任

ブンケンブルク氏: 「確かに日本政府による、日本への渡航奨励の結果が出ていると思います。その理由は3つあります。まず、日本に行くのは高いというイメージがありましたが、実際はそれほど高くない、もしくは、お金を出してもそれだけの価値があると思えるようになっています。2つ目は日本に来たことがなかった人も、行ってみたいと具体的に思えるようになっています。3つ目は、よりアクセスしやすくなったことですが、それは路線展開だけではなく、日本に関する情報の英語化による認知向上も含まれています」

武藤氏: 「日本人向け・欧州人向けともに、オーストリア航空の営業戦略として何か変えることはありますか。日本人CAを増やすとか、和食を追加するとか、ということが考えられると思いますが」

リンハルト氏: 「一番大きいのはプレミアムエコノミーの導入です。ルフトハンザでは数年前から投入していたが、オーストリア航空はこのタイミングで搭載を始めました。日本人の旅行者にとってもとても好ましいサービスだと思いますし、今までのエコノミーとビジネスの間にあった、質・価格・乗り心地のギャップを埋めてくれることでしょう。また、機内食はビジネスでは全部で4つの選択肢があり、その内の2食が和食になっています。オーストリア航空ではシェフが搭乗し、機内食はシェフの手で仕上げられます。エコノミーでも、和食と洋食から選べるようになっています。当然、日本人のCAも搭乗させています」

オーストリアのフラッグシップとして

武藤氏: 「オーストリア航空はスイスインターナショナルエアラインズとともに、ルフトハンザグループのメンバーですが、そのグループの中でオーストリア航空が果たす特別な役割はあるのでしょうか」

武藤康史氏。航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がけ、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照

リンハルト氏: 「オーストリア航空も含め、スイスインターナショナルエアラインズも含め、ルフトハンザグループとしての姉妹航空会社の役割はそれぞれあります。グループ内の国・都市を他の航空会社の国・都市をそれぞれ直行便でつなぎます。ウィーンというのはまさにそんな役割を果たしているのですが、ウィーンは文化的にも経済的にも、非常に大きなポイントとなっています。そうしたところをつなぐことは、需要の創生につながっていくと感じています。また、日本人はウィーンが大好きで、世界遺産とか文化的な魅力が大きい都市です。さらに、5年連続で世界でも住みやすい都市としてウィーンは選ばれています」

また、ウィーンはマイス(会議・研修旅行)でのデスティネーションとして、バルセロナに次いで人気があります。それ以外にも、国内にはスキー需要の高いザルツブルクやインスブルックもあるので、他のエリアとも差別化ができています。ホームカントリーがそんなオーストリアであるということが、オーストリア航空の最大の強みと言えるでしょう。機内に流れるワルツや、CAのおもてなし、食事などのサービスを通じて、飛行機に乗ってすぐに感じてもらえるようなオーストリアらしさを大切にしています。

今回の就航によって、ルフトハンザグループとして提供できるサービスが増えるというのも大切なポイントです。ANAとのジョイントベンチャー(JV)を生かしたサービスを提供できます。つまりは、フランクフルト、ミュンヘン、チューリッヒ、ウィーンといった、様々なハブを通して、いつでもどこでも、東回りでも西回りでも、いろいろなことができるという選択肢が提供できるということが強みです」

ブンケンブルク氏: 「私からひとつ追加したいのは、オーストリア航空が果たすもうひとつの重要な役割が、東欧への窓口になるということです。グループを見てみるとその東欧エリアに穴があるという状況でしたが、東欧への玄関口として、ブダペストやプラハ、それから、様々な東欧の都市に対して、乗り継ぎがしやすくなるというメリットが生まれます」

  • 成田=ウィーンの初便には、特別塗装機「Blue Danube Waltz(ブルー・ダニューブ・ワルズ: 美しき青きドナウ)」号が導入された

武藤氏: 「ポイントツーポイントを越えたところで利用が増えるのではという言及がありましたが、もう少し具体的な話をうかがわせてください」

リンハルト氏: 「先ほどの話の通り、日本をベースに売り上げている金額の方が、欧州をベースに売り上げている金額よりも圧倒的に多いという状況は変わりませんが、このところ、欧州の中での需要が増えつつあります。ただし、乗り継ぎ利用とポイントツーポイント利用に関しては、現状、半々で変わっていません。東京=ウィーン利用者が5割、ウィーンや東京を介してどこかに行っている人が5割を占めています」

武藤氏: 「それは、2016年に運休した時とも状況は変わっていないということですよね。ANAとのJVについても、オーストリア航空の場合も自動的に再開されるという認識ですが、それはスイスインターナショナルエアラインズの場合も同様でしょうか」

ブンケンブルク氏: 「その通りです。ルフトハンザがグループとしてJVのパートナーに選んでいるのがANAで、ルフトハンザもスイスインターナショナルエアラインズもともに、ANAと組むことで大きなアドバンテージを得ていると感じています。ANAは日本を拠点をする航空会社で、非常に日本国内での路線も多く、また、世界的にも非常に知名度があります。そのため、日本のANAと組んでいなければ手に入れることができなったことも多いと感じています。

オーストリア航空においても、ありとあらゆるサービスがANAとのパートナーシップに組み込んでいきます。価格体験もそうですし、契約関連もそう。一緒に旅行代理店に対して行っているプロモーションも、一般の人を対象にしたセールスプロモーションも。これらはグループのメンバーであることの大きな強みだと感じています」

  • 日本路線には日本人CAも乗務する

武藤氏: 「ブンケンブルク氏は日本と韓国をご担当されていらっしゃいますが、日本と韓国、日本とアジアを比較した時、市場の違い、国としての違いを感じることはありますか」