LCCはパイを広げる存在

ブンケンブルク氏: 「そのような事業の可能性もあると思います。LCCですので、おそらくツアーグループとか旅行者が行くようなところに飛ばすと思います。そうした展開が、収益性を高めるための戦略としてあるのは確かでしょう。確かに、デスティネーションによってはうまくいくかもしれません」

  • ルフトハンザグループには、LCCのユーロウィングスがある

ブンケンブルク氏: 「ただ、そもそもLCCが大陸内でしか就航しなかったのには理由があります。それが今では徐々に大陸を越えてきていますが、ウィーン=ロンドン線を150席で飛ばすのと、そうではなく300席の機材を大陸間で飛ばすのは全然違ってきます。ポイントツーポイントの大きなポテンシャルが必要ですし、ネットワークの複雑さが出てきてしまうとLCCとしての良さがなくなってしまうところもあるので、その辺りとのバランスが大切になるでしょう」

武藤氏: 「例えば、JALが全く新しい路線に自社便を就航させるということもあるでしょう。それで、JAL本体とLCCとでカニバリゼーションが発生するということも考えられると思います。そのあたりの競合・協業について、北米・欧州の航空会社としてどのように考えていますか」

リンハルト氏: 「正確には分かりませんが、一般論では、私たちとしては、LCCはもはや"必要なもの"だと思えるようになりました。欧州にしても北米にしてもアジアにしても、競争環境を考える時はLCCを含めて考えています。特に平均価格に関して、カニバリゼーションが発生することを考えています。

こうしたことを言うと本当かと言われることもありますが、LCCが出始めるということは、全体としての需要が増えるということでもあります。高すぎてとてもじゃないけれど飛行機に乗れないと言っていた人が、安くなったからこそ飛んでみようかという気になってきます。そうした層も含め、パイが大きくなっていると感じています。航空会社やそのグループ会社が考えないといけないのは、それぞれにどうやってこの状況に対応するかということです。

自分たちのパッセンジャーポートフォーリオをどうやって考えていくのか、自分たちの中でやるのであれば、自分たちがネットワークキャリアなのかそれともLCCなのか、存在意義がどうなっていくのかというのが疑問になってきます。グループ内でルフトハンザがユーロウィングスをもっているように、LCCをもっているのであればまた違う課題が生まれてきますが、それぞれにどうやるかを考えるべきです」

武藤氏: 「最後に、オーストリア航空から日本のカスタマーへコメントをお願いします」

リンハルト氏: 「オーストリアの国旗を掲げた航空会社として、その国にみなさんをお迎えするために、ぜひ利用していただきたいです。搭乗した時からオーストリアに到着した気分が味わえ、オーストリアのホスピタリティーや食事、それ以外のサービスにおいても、この金額で間違いなく満足していただけることです。我々は数多くの人たちを迎えられることを期待しています」

―対談を終えて(武藤氏)―

今回の対談はオーストリア航空の日本再就航をテーマとして行われたが、話の中心は親会社であるルフトハンザとしての事業方針が軸となった。事業としての分かり易さを考えると、全てをルフトハンザ便として運航しても良さそうなものだが、やはり、ナショナルフラッグキャリアとしての尊厳を維持することが相手国への配慮として必要な中で、顧客の性格の違い(カルチャー重視、アクティビティ重視でオーストリア航空とスイスインターナショナルエアラインズを使い分ける等)や国情によって、きめ細かい路線戦略を実行しようとしている、ルフトハンザのしたたかさを再認識させられた機会でもあった。

また、日欧間のマーケットはすでに成熟しきっているのではという印象を持っていたが、ルフトハンザの認識として、欧州から見た日本市場の認知度が着実に上がっていると考えていることはやや意外だった。同時に、今後のアジアからのインバウンド需要が一段落する可能性を考えると、日本の航空業界にとっては心強い事実として受け止めて良いと思うし、このほど表明されたJALの長距離LCCの将来を占う上でも、確かなプラス要素となると感じた。

一方で、2017年から運休している成田への配慮がうかがわれた。ルフトハンザとしては路線再開の意思はない一方で、オーストリア航空とスイスインターナショナルエアラインズ路線を維持していることで、成田国際空港(NAA)への役割は果たしているとの自負心からだろうか。

日本をアジアとの中継地として活用する米国エアラインと違い、欧州からは日本以遠の需要はないため、欧州からのフィーダーさえあれば、ビジネス上は羽田があれば全く問題はないのが欧州エアラインの特徴である。それだけに、オーストリア航空とスイスインターナショナルエアラインズともに、いずれは羽田へのシフトを志向するのではないかと思われる。しかし、羽田枠の争奪は非常にデリケートな問題であり、日本側パートナーのANAの権益確保に配慮した慎重な言い回しが感じられた。

今後の拡大性を見ると日本より中国路線の方が大きいのが現実だが、アライアンスパートナーとしてのANAの重要性を相互に感じ、信頼し合う関係は両社の貴重な財産だと言える。