講談師の神田松之丞をご存知だろうか。34歳にして、今もっともチケットが取れないと言われる寄席演芸界の人気者だ。「講釈師、見てきたように嘘をつき」という表現もあるように、まるで物語の現場にいあわせたかのような説得力で、常連はもちろん講談初心者までを巻き込み、物語を展開していく。

ビジネスパーソンなら誰しも、説得力のある話し方・相手を引き込む話し方に憧れがあるはず。そこで同氏に講談とは何かを聞くとともに、その巧みな話術の秘密について伺った。

講談ってなんだ?

講談とは、張り扇で釈台をバンバンと叩いて調子をつけながら、軍記物や政談などの歴史物語を中心に読む伝統芸能のこと。落語と比較されることも多いが、講談協会オフィシャルサイトによると「『落語』が会話によって成り立つ芸であるのに対し、『講談』は話を読む芸」と紹介されている。落語に比べ、情景の描写や、ナレーションのように客観的な視点も多く登場するのが特徴。

  • 講談師・神田松之丞

    講談師・神田松之丞


──講談初心者の人に"講談"とは何かを伝える時、松之丞さんはどのように説明しますか?

「素敵なものを、いかに素敵かと伝えるもの。落語と比較するなら、落語は普通主人公になりえない人物が主人公になる。でも講談では、主人公らしい人物が主人公になる王道のストーリーです。野球で言うと、カーブとかフォークではなく、ストレートを投げるイメージ。講談はノンフィクションで、落語はホームドラマという例え方もよくされます」

──たとえば商談やプレゼンのように、ビジネスシーンにおいても、決められた時間内で自分の考えや・商品の魅力を伝えるという場面があります。この環境は講談と少し似ているなと思ったのですが、講談とプレゼンに共通点はあると思いますか?

僕は会社員をしたことがないのですが、講談が過小評価されている時代に講談を知って「これは宝の山だ!」と思って講談の世界に入ったんです。つまり、世間的には価値がないと言われているものに価値があると、講談を通して10年間言い続けてきた。そして今、ようやくお客さんも「講談って価値があるんじゃないか? 講談面白いんじゃない?」ってなってきた。講談が商品だとしたら、やっていることは基本的に一緒だと思います。

誰もおいていかないための準備

──人前で話をするために、事前にどのような準備をしていますか?

リサーチはすごくしますよ。事前に、この会場・イベントにはどんな年齢層の人がくるのか。初心者が多いのか、常連が多いのか。それによって、どんなネタをかけようか考えます。例えば、年齢層が高い場合、やっぱり死をリアルに感じる年齢ということもあって"死"を嫌がる人もいるんですよね。だから、怪談話はやめて、笑える話にしようとか。でも、実際に現場に出て、相手の反応が悪かった場合は、どれだけ事前に準備していても変更しますよ。

──事前準備が絶対だと思ってはいけないということですね。

そうですね、臨機応変な対応をとれることは大事です。事前のリサーチも大切だけれど、現場でも、お客さんとキャッチボールをするように、こちらの話にどのようなリアクションをするかを観察し、ほとんど無意識にですが、リサーチを続けているんだと思います。

"まくら"は最初のプレゼンタイム

──松之丞さんは前座の時からまくら(本編に入る前の短い話のこと)を大事にしてきたそうですが、まくらの役割・重要性って何でしょうか?

まくらはまずパーソナリティを信じてもらうための「自分(個人)のプレゼン」。聞き手は、話し手がいい人か、それとも悪い人か。面白い話か面白くない話かを無意識に最初の1分くらいで判断しているんです。話し手がどんな人かわからないままに、いきなり話を始めると、それは"よく知らない人の話""全く興味ない人の話"になってしまう。だから、"興味ある人の話"って思われるようにもっていかないといけない。

そこで、まずは「自分は面白いし、悪い人じゃないよ。これからこんな話をするよ」ってことを笑いに変えて、短くプレゼンする。そうすると聞き手も、「この人は、いい人だし面白い人だ。話を聞こう」って姿勢をつくる。まくらがないとウケるもんもウケないって場合もありますからね。

──なるほど。まくらで話し手と聞き手の距離を少し縮めることができるんですね。

また、まくらの中にも種類があって、たとえば話の途中にまくらをいれる"ひきごと"という手法もあります。話の中に小休止をつくるんです。昔、学校や塾の授業でも、先生が50分の授業中に15分くらい自分の学生時代の話をしてくれることありましたよね。先生のプライベートな思い出って、惹きつけられませんでした? それが小休止です。そこで、「みんなついてきてる?」って確認して、また再開する。

他にも、まくらで話のあらすじを先に話してしまうこともあります。たとえば小学生なんかは、なかなかストーリーを追えないんです。だからまくらで、「これからこのお侍さんが馬に乗って階段をあがっていきます。そこで桜をとって殿様にほめられます。そんな話です」って先に言っちゃう。結論を先に言って、過程を楽しんでもらうんです。あらすじを知っているから、聞き方・理解度も変わってくるし、相手によってはそっちの方が有効な場合もあります。

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聞き手の視点を忘れずに

──松之丞さんの講談は、講談初心者の私でもとても聞きやすかったことが印象的でした。初心者と常連が同じ会場にいると、話の理解度に差が出てくることもあると思います。その点で気を付けていることはありますか?

よくやるネタでも、常連のお客さんと初めてのお客さんの両方を満足させるということが1番なので、最大公約数の1番いいところを選ぶようにはしていますね。

でも基本的には、初めてのお客さんを前提に話しています。自分が講談を初めて見たころは、常連のお客さん相手にベテランの講談師がやってるイメージだったんですよね。まるで鍵がいっぱいかかったSNSのような状態で、「とりあえずその鍵をとれよ」って思ったんです。常連さんがわかっていること、事前に共有している知識を初めての人にも共有していかないと、ジャンルも衰退していくと思いますし。

だから、そこを丁寧に、日本語が分かる人なら理解できるくらいにかみ砕いて話す。常連からみると野暮な行為と思われるかもしれないけれど、どんな常連も最初は新規ですから、いい常連を作るにはいい新規を作ることが大事ですよね。

──具体的には?

講談は落語にくらべて固有名詞が多いので、固有名詞がたくさん出てきたときは、お客さんの目線にたって「ここ混乱しますよね? 」とか、1度脱線してでも丁寧に説明するんです。そうすると、「話がわからない私が悪いのかな」と思わせることなく、「この人はちゃんとわかってくれてるんだ」って、もう一度僕に身を任せてくれる。だから、いつも後ろを振り返りながらやっているんです。「ちゃんとついてきてるかな?」「誰も置いてきぼりになってないかな?」って。

もちろん、芸としては置いていく美学も大事。さすがに全部寄り添うと野暮な芸になってしまうので、ここは置いて行っても大丈夫というポイントも見極めて、全部説明せずに考える余白は残します。