ゴールデンウィーク直前の4月27日、箱根の芦ノ湖に水陸両用バス「NINJABUS WATER SPIDER」(伊豆箱根鉄道、伊豆箱根バス)が就航した。WATER SPIDERとは、忍者が水面を歩くための道具「水蜘蛛(みずぐも)」を英語に直訳した造語だ。

  • 「NINJABUS WATER SPIDER」が芦ノ湖に入水する瞬間、豪快に水しぶきが上がる

    「NINJABUS WATER SPIDER」が芦ノ湖に入水する瞬間、豪快に水しぶきが上がる

今後、箱根営業所(元箱根)と箱根園案内所(箱根園)の2カ所から1日各3便計6便を運行し、芦ノ湖周辺の陸路と芦ノ湖上の水路を1周約45分(陸上30分、湖上15分)かけて周遊する。美しい箱根の景色や湖上遊覧が楽しめるだけでなく、芦ノ湖へは豪快に水しぶきを上げながらダイナミックに入水するなど、アトラクションに近いスリルも体験できる。

"くノ一"と一緒に「いざ出陣!」

NINJABUS WATER SPIDERに使用されている車両は、いすゞのトラックに船を架装した特注車であり、車両への投資額は約1億円に上る。このほか、陸路と水路をつなぐスロープ等も整備している。

  • 「NINJABUS WATER SPIDER」は最大46人乗り

    「NINJABUS WATER SPIDER」は最大46人乗り

4月27日は営業開始に先立ち、テープカットセレモニーのほか、箱根町内の4つの保育園と幼稚園から招待された子どもたち79人の試乗会が行われた。筆者もまた、営業運航開始第一号に試乗させていただいたので、その様子をレポートしたい。今回のコースは箱根園を出発し、陸路で元箱根に向かった後、再び箱根園に戻り、最後に芦ノ湖上を周遊するコースだ。

車両前方のドアから下ろされた飛行機のような搭乗タラップから乗り込むと、まず気がつくのは窓ガラスがなく、透明のビニールシートが下ろせるようになっていることだ。また、座席は通常の観光バスのようなシートではなく、忍者のアイコンがデザインされた、赤と黒のスタイリッシュなシートが横4列に並んでいる。ちなみに、座席下には救命胴衣が格納されている。

  • "くノ一"の衣装をまとったガイド

    "くノ一"の衣装をまとったガイド

"くノ一"(女忍者)の衣装をまとったガイドの「いざ出陣!」の声とともに出発すると、車体のベースがトラックであるためサスペンションが固めに設定されており、かなり揺れる。観光バスではなく、遊園地のアトラクションに近い乗り心地だ。

"くノ一ガイド"と音声ガイドによる、忍者の歴史や掟(おきて)、箱根の景観などについての話に耳を傾けているうちに、右手の車窓に芦ノ湖が見えてくる。一般的な大型バスよりも車高が高く、窓が広いために箱根の雄大な自然や景色が存分に楽しめるのが、このNINJABUS WATER SPIDERのウリだ。

  • バス車内では、"くノ一"ガイドによる忍者や箱根についての説明を聞くことができる

    バス車内では、"くノ一"ガイドによる忍者や箱根についての説明を聞くことができる

やがて、バスは箱根ならではの急なヘアピンカーブに差し掛かるが、ここは運転手の腕の見せ所となる。観光バスと異なり、運転席も高い位置にあるため、慣れないと運転が難しいのだという。

芦ノ湖へ豪快にダイブ!

陸路の旅を終えて箱根園に戻ると、いよいよ芦ノ湖へのダイブとなるが、その前にここで、バスの運転手と船長が交代する。大型二種免許と船舶免許の両方を持っている乗務員が社内にまだいないため、交代が必要なのだ。

"くノ一ガイド"の合図とともに乗客が「3、2、1」とカウントダウンすると、バスは勢いを付けて芦ノ湖へと突き進み、大きな水しぶきを上げながら湖面にダイブする。ここからは船用エンジンが始動し、スクリューで推進する。

  • 芦ノ湖に入水する瞬間。大きな水しぶきを上がる

    芦ノ湖に入水する瞬間。大きな水しぶきを上がる

船になると、筆者が座った後方の座席はエンジン音が大きく、ガイドの声が聞こえづらくなるのが難点だ。広報担当に確認したところ、この点については把握しており、今後改善したいという。

営業運航開始第一便の"くノ一ガイド"を務めた熊谷幸美さんは、伊豆箱根バスの観光バスガイドであり、社内募集で"くノ一ガイド"に応募した。「観光バスとアトラクションのガイドは、全く違う。お客さまとの一体感をより大切にしていきたい」と話す。

  • 芦ノ湖湖上を「NINJABUS WATER SPIDER」でゆらゆら

    芦ノ湖湖上を「NINJABUS WATER SPIDER」でゆらゆら

"風魔忍者"ゆかりの地を世界の人々に

4月27日に行われたセレモニーでは、はじめに伊豆箱根鉄道の伍堂文康社長から挨拶があり、「忍者は、国内はもとより海外のお客さまからの人気も高い。小田原・箱根は実在した"風魔忍者"ゆかりの地。水陸両用バスで、水陸を自由に行き来できる忍術【水蜘蛛】を追体験してほしい」とコンセプトを説明した。

続いて挨拶に立った山口昇士(のぶお)箱根町長は、「箱根を訪れる外国人観光客数は順調に伸びており、外国の皆さんにも水陸両用バスで、箱根の素晴らしい景観を楽しんでもらえるものと確信している。ラグビーワールドカップ、2020年東京五輪に向け、官民一体となって国際観光地・箱根を盛り上げていく。その一翼を水陸両用バスが担ってくれることを期待している」と話した。

また、セレモニーの後に取材に応じた、運行を担当する伊豆箱根バスの新宅広樹代表は、「社内での構想開始から5年。途中、大涌谷の噴火があり検討を中断した時期があったが、関係各位の努力のおかげで、ようやく営業開始にたどり着けた。今後、要望が高まれば増便も検討したい」と意気込みを語った。

  • 4月27日の行われたセレモニーにて。左から新宅伊豆箱根バス代表、伍堂伊豆箱根鉄道社長、山口箱根町長、井上プリンスホテル湘南・箱根・伊豆地区統括総支配人

    4月27日の行われたセレモニーにて。左から新宅伊豆箱根バス代表、伍堂伊豆箱根鉄道社長、山口箱根町長、井上プリンスホテル湘南・箱根・伊豆地区統括総支配人

NINJABUS WATER SPIDERが発着する元箱根や箱根園周辺には、歴史ある箱根神社をはじめ、足湯が楽しめるベーカリーや、絶景日帰り温泉、水族館、ロープウェーなど、様々な観光スポットがある。以前紹介した、「箱根芦ノ湖周遊コースの新定番! 足湯しながら絶品パン、夜は満天の星と共に」の記事も参考にしながら、箱根の旅を楽しんでいただきたい。

●information
NINJABUS WATER SPIDER
発着場所: 元箱根(伊豆箱根バス箱根営業所) 箱根園(伊豆箱根バス箱根園案内所)から、1日各3便計6便(9月30日~2月末日は5便)
周遊時間: 約45分(陸上30分、湖上15分)
料金: 大人2,800円/こども(3歳~小学生)1,400円/幼児500円(座席なし)
定員: 最大46人(旅客43人)
予約方法: WEB(30日前から2日前)または電話(一週間前から)。空席があれば当日乗車も可

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

慶應義塾大学卒。IT企業に勤務し、政府系システムの開発等に携わった後、コラムニストに転身し、メディアへ旅行・観光、地域経済の動向などに関する記事を寄稿している。現在、大磯町観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員、温泉ソムリエ、オールアバウト公式国内旅行ガイド。テレビ、ラジオにも多数出演。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。