「教会」から「教会を含む集落」に変わった理由

――「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の見所はどこでしょうか。

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は、長崎県と熊本県にある12の構成資産からなる遺産です。これらは、キリスト教が禁じられた時代に、キリシタンたちが日本の伝統的宗教や一般社会とともにありながら、密かに信仰を守り続けてきたことを伝えています。キリスト教徒が迫害された地域は世界で他にもありますが、ここまで厳しい弾圧を受けながらも地域社会や伝統文化などと折り合いをつけて200年以上信仰を守り伝えたのは驚くべきことです。

今回の推薦書の練り直しによって、構成資産が、「教会」から「教会を含む集落」へと変わりました。例えば、以前「黒島天主堂」という教会だけが構成資産だったのに対し、周辺の集落にまで価値が広がって「黒島の集落」となりました。これによって、"潜伏キリシタン"たちがどのような場所で、どのように潜伏しながら信仰を続けていたのかが遺産価値の中心となりはっきりしました。

  • 出津教会堂を含む「外海の出津集落」

    出津教会堂を含む「外海の出津集落」

藩の開拓移民政策に従って、仏教の指導者とともに小さな島へ移住した「久賀島の集落」や、神道の聖地に移住することで神道の信者であることを装った「野崎島の集落跡」、アワビの貝殻の内側の模様を聖母マリアに見立てるといった漁村らしい信仰があった「天草の崎津集落」など、それぞれ異なった環境でキリシタン達が潜伏していたことが分かります。そして何より、"潜伏キリシタン"たちが信徒であることを告げた"信徒発見"の舞台「大浦天主堂」は、この世界遺産だけでなく、長崎を代表する教会として忘れることはできません。

――それらの地を訪れた時、宮澤さんご自身はどんなことを感じましたか。

集落だけ見ると、"潜伏キリシタン"の面影はもちろんありません。しかし、その小さな集落の中で自分の信じるもののために、というよりも、自分自身に嘘をつかないために周囲に対して仮面を被って生活していた人々がいたということは、考えさせられるものがあります。

信仰の自由も、言論の自由もある今の世の中ですが、LGBTの方々など、本当に全ての人が自分の言いたいことが言えているだろうかと、僕は今回の構成資産を巡りながら考えてしまいました。世界遺産を見る時に、いちいち難しく考える必要はありませんが、少し今の世界のことを考えながら見てもらえれば、この遺産が世界遺産に登録される意味があるのだと思います。6月24日からバーレーンのマナーマで開催される、世界遺産委員会での登録が楽しみです。

筆者プロフィール: 宮澤光

世界遺産検定を主催する世界遺産アカデミーの主任研究員。イタリアの小説や映画、音楽、サッカーに惹かれながらも留学はなぜかフランスへ。ヨーロッパから世界各地の文化へと思いを馳せる毎日。世界遺産を「学ぶ」楽しさを伝えようと、世界遺産アカデミーHPにて「研究員ブログ」を連載中。

世界遺産検定とは?

世界遺産の背景にある歴史、文化、自然等の理解を深め、学んだことを社会に還元していくことを目指した検定。有名な観光地のほとんどは世界遺産になっているため、旅の知識としても役立つと幅広い世代に人気。
主催: 世界遺産アカデミー
開催月: 3月・7月・9月・12月(年4回)
開催地: 全国主要都市
受検料: 4級3,000円、3級4,500円、2級5,500円、1級9,700円、マイスター1万9,000円、3・4級併願7,300円、2・3級併願9,500円
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