2017年7月、自身のライブ中に声帯から出血し、以降半年間個人名義でのアーティスト活動を休止していた声優の牧野由依。彼女は、あらためて自らの「声」と向き合い、「声」をコンセプトにしたミニアルバム『WILL』を制作した。

牧野由依(まきのゆい)。1986年1月19日生まれ。三重県出身。アミューズ所属。主な出演は『アイドルマスター シンデレラガールズ』佐久間まゆ役、『プリパラ』黒須あろま役、『ツバサ・クロニクル』サクラ役、『N・H・Kにようこそ!』中原岬役など
撮影:西田航(WATAROCK)

今回は、3月21日発売の復帰作となる『WILL』はもちろん、当時の彼女の心境から、休止中に見えてきたもの、歌うことへの真摯な想い、そして初冠番組についてなど、余す所なく聞くことができた。

▼「どうしよう」よりは「やってやる」

――今回発売されるミニアルバムのタイトルは『WILL』。「困難を乗り越える強さ、内面からあふれる静かなエネルギー、強い意志」という想いが込められているとのことですが、アルバムについてを聞く前に、昨年開催された2daysライブからのお話をしなければいけないなと。

じゃんじゃんしゃべりますのでよろしくおねがいします!

――ありがとうございます。牧野さんは2daysライブ「Yui Makino Live『Reset&Happiness』」(2017年7月15・16日開催)の2日目に、疲労の蓄積により、声帯から出血。ベストな状態ではないなか、最後までステージに立ち続けました。当時の様子から振り返って、お聞きしたいと思います。

そうですね。当時は、ありがたいことに3月くらいからずっとスケジュールが詰まっている状態が続いていたんです。それこそ7月のライブだったり、別作品のライブイベントツアーがあったりで、絶対に喉を壊せる状態ではなかったんです。

――いつも以上にケアをしていて。

春から夏にかけての時期は、冷房で体調を崩して夏風邪を引く方も増えてくるじゃないですか。そうしたら、マスクをしたり、手洗いうがいをしたりしても防げなかったりするので、なるべく電車ではなく車で移動をして、人がたくさんいる場所は避けるようにしていたんです。でも、どこかしらでかかっちゃったんでしょうね。

――はじめて症状の自覚があったのは?

ちょうどその時期にピアノのレコーディングがあって、練習中に腱鞘炎になってしまったんです。そこで痛み止めを飲んでいたんですけど、どうやらそのあたりから喉の炎症が起きていたらしく……。

――痛み止めを飲んでいたから。

そうなんです。炎症に気付けなかった。そこから抗生剤を飲むなどの処置はしたんですけど、疲労は蓄積されていたんですね。ライブ本番になって、1日目はいい感じに声が出て、パフォーマンスも、課題はありつつだけど納得できる感じで終えることができたんですよ。でも、次の日の朝になったら、声がおかしいぞ、と。本番直前までできる限りのケアをしたんですけど、だんだんと声が出づらくなり、本番15分くらい前には高音が出なくなっていました。

――スタッフにはすぐ相談されて。

はい。焦りながらマネージャーやバンマスに相談しました。予定していた弾き語りも厳しいのでカットしようと。でも、「もしいけると思ったら合図をちょうだい」みたいな話をしていて。そうやってステージに上がったんですけど、出ていけばなんとかなるだろうと思ったら、やっぱり違和感しかなくて。

――当日のMCでも隠さずにおっしゃっていて。

そうですね、異常しかなかったので(笑)。隠し通すのも難しいので、話さざるを得ないなと。でも、私にも意地があるので、ステージに立ったからにはなんとかパフォーマンスは崩さないようにしようと思いました。たとえばCDだと音だけを楽しみますけど、ライブは視覚や嗅覚、空気感といった、いろいろな感覚に訴えかけてくるじゃないですか。声以外の面では、200点のパフォーマンスをしようと。なので、「どうしよう」よりは「やってやる」という気持ちでしたね。

▼あえての声

――そうやってライブを乗り越え、休止期間を経て、『WILL』の制作に入っていったわけですね。

はい。アルバム制作のための、初打ち合わせのタイミングが、9月の末ころだったんです。つまり、まだ喉の調子は良くなくて、会話ができるようになったくらいのときですね。アルバムも秋くらいに出す予定だったんですけど、状況を見て遅らせていただきました。そして、もともとのコンセプトとは違ったものを作ろうという話になりまして、「声」にスポットライトを当てたミニアルバムを作ろうという話になっていきました。

――そういった経緯があったわけですね。そこでタイトルの『WILL』の話に戻るわけです。

やっぱり当時は喉を痛めてしまっただけではなく、「もしかしたら、もう歌えなくなっちゃうかも」と思った瞬間もあったんです。「歌う」ということやアーティストとしての活動に対しての考え方がガラッと変わった時期でもありました。でも、歌が好きだということや、これからも歌っていきたいという気持ちはより一層強くなったので、そういったことを、シンプルにひとことで表すタイトルを付けたくて、『WILL』になりました。

――ここであえての「声」というところが牧野さんらしいなと。

あえて声を使うというハードルを高めに設定しました。このアルバムを制作するために、がんばって喉を治していこうという目標みたいなものですね。