▼アーティスト目線とプロデューサー目線

――アルバムのジャケットについても今回はチャレンジしていますね。「素の牧野由依」を出すために、通常盤はノーメイクで。

ジャケットについての打ち合わせも、最初の段階から入らせていただいています。打ち合わせで話していたときに事務所の偉い人が「さらけ出すという意味ならすっぴんになったら」と言っていましたよ、みたいな会話があって、私も真に受けちゃって。

――きっかけはそこだったんですね。

その場に居た女性のカメラマンさんの方が、「ナチュラルに撮影するんだったら、こういう構図がいいんじゃない」とその場でラフを描いてくださって。前回のシングル「Reset」の通常盤のジャケットやポスターは化粧品広告っぽい感じでつくっていたので、今回は雑誌というイメージですね。通常盤では素を表現しているので、初回限定盤ではフルメイクをして意志の強さを感じ取ってもらいたいと思っています。

――Twitterで新しいプロフィール画像としてジャケット写真を公開していましたけど話題になっていましたね。かなり大胆というか。

声優としても活動させていただいていることを考えると、CDでここまで攻めたジャケット写真ってなかなかないですよね。こんなに露出して恥ずかしいかもしれないけど、作品として良ければそれが一番じゃないかと思うんです。私はそこに関してはネジがぶっ飛んでいるみたいで(笑)。牧野由依というアーティストをどうやって表現するか、まったく別の人間として考えることがあるんです。だから目標を高く設定して、自分がつくる段階になったら「ひいー」ってなるんです(笑)。

――アーティスト牧野由依とは別にプロデューサー牧野由依がいるんですね。

「ライブでこんなことやらせたら面白いじゃん」って。その相手は私なので、毎回「ふざけんなよー」って思いますね(笑)。

――常にチャレンジし続けている。

昨年7月の2daysライブのときも、冒頭のイントロダクションでダンサーさんたちと踊って、そのあとに弾き語りをするという、通常であればいやがることをやっていました。

――未来の自分への期待というか、信頼感があるんですね。

追い込まれるのが好きなんだと思います。お尻を叩かれないと走れないんですよね。でも、こういう発信していく仕事は、待っているだけだとすぐ終わってしまうので、自分から叩いていかないといけないですから。

――ここからは楽曲についてお聞きしていきます。まず、1トラック目の「Reset―ACappella Version―」。こちらは新録したア・カペラバージョンとのことですが。

ボイスパーカッションなど、全部声でつくっている楽曲です。ボーカルは40トラック以上録って、レコーディングは30時間を超えましたね。ミニアルバムというサイズ感だからこそ、チャレンジできたのかもしれないです。アルバムって全曲とおしてひとつの作品として聞こえないといけないので、フルアルバムだったら置きどころが難しかったと思います。

――1曲目から「声」だけの楽曲を置くという、牧野さんの決意が伝わってくる始まりになったなと。

レコーディングはめちゃくちゃ大変でしたけど、自分の見せたくない姿を見せて心配させてしまったファンの方々に、「また歌えるようになりました」と伝えたかったんです。心配ってかけるのは簡単ですけど、安心してもらうのは難しいんですよね。一番安心が伝わる方法はなんだろうと考えたときに、アカペラで届けることだと思ったんです。レコーディング風景の動画もつくって、視覚的にも観てもらおうと。


▼過酷なレコーディング作業

――以前までのレコーディングのときとは環境も状況も違いますけど、今回感じられたことは?

ほんとうはすごく素敵なことをお答えしたいんですけど、「やってもやっても終わらない」、ただこれだけです(笑)。自分で言うのも変ですけど、自分の声を重ねたときの響き方が大好きなんです。でも、これはプロデューサー的な視点からの考えなんですけど。

――アーティスト牧野由依としては、いつ終わるのかと(笑)。

そうなんです。トラックを重ねるたびに、自分がどこを歌っているのかがわからなくなってくるんです。なので、途中から「ほかのトラックは返さなくて大丈夫です」って、なんのハーモニーも聞こえないまま、ずっと「ウー」って言っていました。レコーディング開始から4時間を超えたあたりで、「ウーラーリアー」ってコーラスをしているたびに、だんだん面白くなってきちゃいましたね。

――ハイになっちゃって。

しかもレコーディングしているスタジオが、空調を止めないと音が入っちゃうという環境だったんですよ。なので、一畳くらいの密閉された空間で空調を付けずに二酸化炭素を吐き続けていると……酸欠になりますよね。だんだん眠くなっていって、チェック中に気を失うということもありました。

――過酷……。日にちでいうとどのくらいですか?

3日間ですね。なのでYouTubeの動画を観ていただけるとわかるんですけど、服装も3パターンなんですよ。

――それって、ゴキブリ体操(椅子の上に仰向けになって手足をバタバタ)をやっていたときですか?

そうですそうです! 手足の方に血が溜まってきちゃって。でも、声を紡ぐってこういうことなんだなってわかった気がしますね。

――続いては「song for you」。

岡本真夜さんに提供いただいた楽曲なんですけど、喉を壊してしまったという状況を知ってくださった上で書いていただいています。なので、ふつうに聴くとエールをもらっているような楽曲なんですけど、私個人として見たときに、真夜さんからいただいたメッセージなんだなと。そのメッセージを声の力に変えて、聴いてくださるみなさんへのエールに変えられたらいいなと思っています。

――歌詞を見て、牧野さん自身を思い返してしまいました。今回、既存曲はなにかしらのリミックスやバージョンを変えていますけど、3曲目の「ウイークエンド・ランデヴー」だけはそのままなんですよね。

この曲はアルバムバージョンのアレンジを加えず、原曲のままという私の希望でそのまま入れています。その次の「What A Beautiful World―Studio Live Version―」は弾き語りなんですけど、これは2ndライブのリベンジですね。ピアノと歌を同時に一本撮りしています。「Colors of Happiness―Rainbow Mix―」もEDMでリミックスしています。今回のアルバムはアコースティックとEDMの融合みたいなものをつくりたかったんですよ。