事業拡大はLCCの方がやや有利

新規路線展開という点では、ハイブリッドよりもLCCの方が事業拡大の容易性が大きいと思われる。比較的有利なのが、アジア各国に同族ブランドをすでに展開しているジェットスター・ジャパンとエアアジア・ジャパンだ。

  • エアアジア・ジャパンは、2月5日に累計搭乗者数が5万人を突破した

    エアアジア・ジャパンは、2月5日に累計搭乗者数が5万人を突破した

両グループとも各国地元企業とのジョイントベンチャー(JV)によって、すでに5~6カ国に展開している。そのため、ジャパンとしてのアジア展開においても、ハンドリング、当局折衝、整備支援、販売などの体制を早期に整えることが可能であり、トライアル的な事業進出もできる。

現に、2月末に行われたグループ決算発表の中でエアアジアのトニー・フェルナンデスグループCEOは、エアアジア・ジャパンの今後の展開についても言及しており、日本の国内線や中部=台北線には触れずに、「2018年下期以降、中国とベトナム路線の開設を目指す」と述べている。

すでに海外同士の競争が激化している路線を避ける趣旨が強いと思われるが、中国JVはエアアジアが当面の最重要戦略と位置付ける事業であり、ベトナムはジェットスター・パシフィックの拠点である。これらをエアアジアが日本からの次の仕向地として言明したことは、非常に興味深い。

エアアジアジャパンの事業戦略を、当初の中部ハブの日本発需要に依存する「アウトバウンド型」から、中国本土を含めたインバウンドとの「バランス型」にシフトさせていく意味があると考えられ、中部=新千歳線に続く「次の一手」がどう具体化されるかに注目したい。

他方、シンガポールでのCAPA(Centre for Aviation)のカンファレンスに参加していたジェットスターグループCEOのギャレス・エバンズ氏は、「今後、ジャパンの運営を国際線にシフトしていくのか」という質問に対しては明言を避けた。日本へのインバウンドはアジア各国ジェットスターが担えることから、当面はもう少し日本国内の路線拡大に目を向けているということだろうか。

ピーチの今後は国内新路線の開拓がキー

これに対し、機材や路線の方針が定まらない春秋航空日本はなかなか先が読めない。あくまで、日本は本国の事業の補完的役割しかないというのが現状だろう。

一方、ピーチ・アビエーションはバンコク=沖縄線もタイ側でのパブリシティが奏功し、国際線も動向詳細が今ひとつ見えない上海線以外は、順調に動いているとみられる。とはいえ、競争激化している香港・台湾線のこれ以上の拡大は難しいと考えられるため、新千歳や仙台の拠点化による国内新路線の開拓がどのように進められるのかが、大きなポイントになってくる。

  • ピーチ・アビエーションは2017年9月に仙台空港を第3拠点化、2018年度に新千歳空港を第4拠点化を計画している

    ピーチ・アビエーションは2017年9月に仙台空港を第3拠点化、2018年度に新千歳空港を第4拠点化を計画している

勝ち組のピーチとしても、また、事業拡大が踊り場にあるバニラエアにしても、今後の成長戦略を描くには就航先の選択肢が狭まってきており、保有機材数が増大する中での日本LCCの事業拡大はこれから難しい局面に入っていくと言えよう。

ハイブリッド各社の羽田以外での戦い方

成田・関空を拠点とするLCC各社と比べ、日本のハイブリッド勢の国際線進出はより複雑で困難な環境に直面しているが、今後どのような事業戦略を描くべきなのだろうか。

そもそも日本のハイブリッド各社は、羽田と地方都市を結ぶ路線を経営の基盤としている。スカイマーク、エアドゥ、スターフライヤー、ソラシドエア皆然りで、唯一、フジドリームエアラインズ(FDA)だけが名古屋小牧空港を拠点とする。

他方、羽田空港の国内線発着枠は2020年の増枠でもほとんど増える見込みがなく、乗務員の稼働を考えると新路線となると地方拠点都市からの運航にならざるを得ない。北海道・中部・福岡・宮崎などの地方民力の限界を考えると、持続性のある国内地方路線の新たな定期便を構築・維持できるかには困難も多いだろう。新千歳や福岡空港には、スロット制約もある。

拠点空港での需要拡大の多くを依存することになるインバウンド国際線旅客の日本嗜好を考えると、初見の旅客、リピーター旅客ともに、北陸・瀬戸内なども含めますます日本への行き先が多様化・マニア化している一方、ハイブリッド各社の拠点都市の知名度はまだ低い。

中国・香港・タイなどの発地側市場でどれだけ魅力を発信できるかがポイントとなるが、地方自治体の現地パブリシティの取り組みはまだ進んでいない。スーパーブロガーやYouTuberを活用した本格的SNS展開を行うには、結構継続的なコストも大きいことなどもあって、各地の地元産品や観光地などを紹介するパンフレットをばらまく程度にとどまっているのが現状である。

「インバウンド便」「FSC連携」という選択

そんな中でハイブリッド各社が国際新路線を開拓していくには、未知の事業リスクを軽減するためにいろいろな工夫が求められるだろう。

ひとつは、「インバウンド便に徹する」という選択だ。今後新路線としての成長性が大きいのは言うまでもなく中国本土で、沿岸部から内陸部にはまだ市場規模が大きく、日本向け需要が潜在している都市がたくさんある。他方、これらの都市の日本での知名度は低く、日本人旅客が定常的に乗るような定期路線としての安定性はない。ならば、まず中国側需要の摘み取りに徹し、受け皿となる地元地方空港を活性化させる役割を担いつつ、日本人の行き先としての適性を見極めていくという国際進出も十分にあり得るのではないか。

中国には、多くの旅行会社との契約をもとにチャーター便を丸ごと買い取り、ミニグループで座席を埋める「アレンジャー」がおり、エアラインとしての事業リスクを抑えながら新規路線のマーケティングを行うことも可能だ。なお、中国内地点からのスケジュールチャーターは3カ月間までという縛りがある。

ハイブリッド各社の意識として中国本土への進出には、昨年来の軍事面から韓国旅行に制約がかかるなどの現実から、カントリーリスクを感じていることは事実だ。しかし、そもそも新規国際線展開はトライアルと割り切ればよく、一発で最適解の路線を引き当てようなどと必要以上に身構えることもないのではないか。逆に、中国本土での知名度の確立は「早い者勝ち」でもあるのだ。

  • スターフライヤーはANAとコードシェアを貼って国際線を展開するということも可能だ

    スターフライヤーはANAとコードシェアを貼って国際線を展開するということも可能だ

その他にも日本側需要の活用という視点からは、「フルサービスキャリア(FSC)との部分的コードシェア」という方法もあり得る。例えば、SFJが福岡=大連または瀋陽線を開設し、ANAが30%程度の座席をハードブロックで買い取ってコードを貼るというやり方だ。

ANAにとっても自分自身が地方からの新路線を丸ごと開設するリスクを減じつつ、相手都市や福岡でのANAの知名度を上げることができる。同様の手法はJALとFDAでも可能でありまだまだ各所でいろいろな事業形態が考えられるのではないだろうか。

これに加えて、「新路線開設支援として、地方自治体が座席の一部を買い取り地元旅行会社に販売させる」などの対策も、自治体の販売実行能力は別としても、地元エアラインの路線拡大、外国エアラインの新規誘致策の一環として検討する価値があると思われる。

これまで見てきたように、LCCもハイブリッドも「今後の路線展開はまず台湾・香港」という時代は終わりつつある。3月初頭に行われたCAPAグローバルLCCカンファレンスにおいては、「長距離LCC」「FSC子会社戦略」「アンシラリーとIT」などがキーワードとして語られた。そして、6~7時間の航続が可能な狭胴機も出現する。このような変化の波を日本の各社はどのように受け止め、戦略を構築していくのだろうか。この1年の中堅各社の動向に注目したいものである。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。