2017年12月23日、特急「スーパーあずさ」の新型車両E353系が営業運転を開始した。一方、これまで活躍してきたE351系は2018年3月のダイヤ改正をもって引退予定となっている。引退後のE351系は廃車されるという。
山梨県出身の筆者にとって、「スーパーあずさ」は憧れの列車であると同時になかなか乗れない列車でもあった。停車駅や時間帯の関係でE257系、古くは183・189系で運転された「かいじ」に乗ることが多かった。加えて、松本方面からやって来る「スーパーあずさ」は、スピードこそ速いものの、いつも混雑している印象を持っていた。
しかし、そんな印象を覆すほどに、「スーパーあずさ」の走りはすばらしい。曲線でもスピードを落とすことなく、振り子式の車体を傾斜させつつ果敢に勾配・曲線に挑んでいく。その姿は魅力的だった。E351系は当時のJR東日本最高峰の列車だったといえるだろう。同時に、新型車両E353系も今後の活躍に期待ができる。
往路は惜しまれつつ去るE351系に乗車
先日、E351系・E353系の新旧「スーパーあずさ」に乗車する機会があった。往路は新宿駅から甲府駅まで「スーパーあずさ19号」に乗車。使用車両は引退迫るE351系で、座席は12号車(クハE351-1001)の9A席である。発車前の新宿駅ホームには数人の鉄道ファンらがいて、E351系にカメラを向けていた。
「スーパーあずさ19号」は14時0分に新宿駅を発車。しばらくの間ゆったりと加速していたが、新大久保駅を過ぎたあたりでスピードを出し始める。中野駅通過時にはミュージックホーンが発せられる。ここでもホームでカメラを持った人を見かけた。
中野駅から三鷹駅まで、筆者が大学時代に通学でよく利用した区間である。車窓風景は当時とあまり変わらないものの、新店舗ができるなど街自体には時の移り変わりを感じる。一方で吉祥寺のように、駅や街の姿が大きく変貌したところもある。
高架線を降り、地上ホームに入ると三鷹駅だが、ここも通過していく。三鷹駅から先の区間は2010年に高架化された。さすがにこのあたりは、大学受験のために新宿へ向かったときとは風景が大きく変わっている。
E351系は低重心の振り子式車両であるため、座席もやや低めである。テーブルは肘掛の中から出す小型のタイプ。座席を向かい合わせにしたときも、テーブルでお弁当を食べられるように……といった意図があったのだろう。しかし車内でパソコンを開いて仕事することも珍しくない現代、このタイプのテーブルはどうしても小さく感じてしまう。
トイレはこの時代の車両にしては珍しく、小トイレと個室トイレが設置されていた。他に公衆電話と自動販売機があったと思われる箇所もある。このあたりは、時代の変化によって必要とされなくなったものである。
E351系がデビューした1990年代前半、携帯電話はまだ普及しておらず、電車内に公衆電話ができるだけでも大変なことであった。車内での水分補給に関しても、かつての183系には給水器が備えられ、改造された「グレードアップあずさ」では車内に自動販売機が設置されていた。その流れでこのE351系にも自動販売機が設置されるようになった。
いまでは多くの乗客が駅売店などでペットボトル入りの飲み物を買うようになったため、列車内の自動販売機は必要とされなくなってしまった。E351系の自動販売機が設置されていた箇所も封鎖されている。
グリーン車を見ると、車内の中ほどに仕切りがある。これは喫煙席と禁煙席が分かれていた時代のものだ。全車禁煙になる中で、仕切り自体の存在が意味をなくしてしまった。また、一部車両ではテープで簡易印字された番号が貼られるなど、どうしても老朽化を感じずにはいられなかった。当時としては最先端の車両設備を備えていたE351系も、時代の変化の中で古さが目立つようになってしまった。
「スーパーあずさ19号」は八王子駅に停車し、ここからは制御付自然振子装置を作動させる。高尾駅を過ぎると勾配・曲線の連続。曲線では車体を5度傾斜させ、本則+20km/hのスピードを出せる性能を生かし、スピードを出して走行する。
とくに大月駅から塩山駅までの走りでは、この性能がフルに生かされていた。連続するカーブで車体を傾斜させ、スピードは落とさず、笹子トンネル内では最高速度130km/hを出す。笹子トンネルを抜けた後もトンネルは連続し、地上区間では曲線も多い。
塩山駅付近で甲府盆地に入り、軽快にスピードを出して甲府駅に滑り込む。甲府駅到着は定刻15時23分であった。この後、「スーパーあずさ19号」は松本駅へ向かった。