認知症を患うと介護が必要となる可能性が高まる

認知症を患うと介護が必要となる可能性が高まる

認知症と言えば、「記憶がなくなる」に代表されるように、認知機能に何らかの障害が出現することは広く知られている。ただ、一般的に加齢に伴って物忘れも増えていくため、記憶力の低下が疾患によるものなのか、寄る年波によるものなのかの判断は難しい。また、記憶の欠落以外の症状も出現するため、注意深く日ごろから高齢者らの様子をチェックしておく必要がある。

それでは、認知症を発症すると具体的にどのような症状が出るのだろうか。高島平中央総合病院脳神経外科部長の福島崇夫医師に認知症の予防法と併せてうかがった。

認知症と脳萎縮の関係性

ヒトは生物である以上、その細胞に寿命があることは自然の摂理として当然と言える。もちろん、脳細胞にもその法則は当てはまる。一般的に我々の脳は20歳前後をピークとし、そこからは一日に10万個もの神経細胞が死滅していると考えられている。

「脳の神経細胞が脱落してしまうことにより、電気信号を伴った脳の神経細胞同士のネットワークの働きがうまくいかなくなります。そうなると私たちの動きも以前に比べゆっくりとした感じになり、以前はできていたことができなくなったり、少し考えないと行動できなくなったりします」

このとき、脳自体は全体的にまんべんなく萎縮していくイメージだ。その萎縮に伴いさまざまな行動が緩慢になるのは生理的なことで、生活に支障が出るケースも少ない。一方、認知症では脳が萎縮すること自体は一緒だが、最もポピュラーなアルツハイマー型認知症は側頭葉にある海馬の萎縮がほかの場所よりも激しいため、物忘れがひどくなる。海馬は記憶を司る場所であり、この部分に細胞の死滅が集中することが認知機能に多大な影響を及ぼすと考えられている。

認知症のタイプ

認知症を患った際は、「記憶障害」「見当識障害」「遂行機能障害(マネジメント力の減衰)」「注意力の欠如」などが主だった症状として出現すると福島医師は話す。

「約束を忘れたり、物の置き場所がわからなくなったり、話したことを忘れて同じ話を繰り返したりします。仕事や家事をする能力がなくなってきたり、相手の表情を見ていろいろと察する力が失われてきたりします。また、さまざまな作業が雑になるということも起こりえます。この際、『雑になっている』という状態に関して『これはおかしい』といった認識がなくなっているので、だいぶ症状が進行した状況と考えられます。また、上記のような認知機能障害に加えて『アパシー』(無関心)による自発性の低下やうつ状態を呈することもあります」

この症状はアルツハイマー型認知症によくみられるものだが、認知症も脳の萎縮する場所によって「レビー小体型認知症」や「脳血管性認知症」などのさまざまなタイプがある。

レビー小体型認知症はアルツハイマー型に次いで多い認知症とされており、レビー小体という異常なたんぱく質が蓄積し、神経細胞が死滅してしまう。このタイプははっきりとした脳萎縮が確認されないケースも多く、幻視や妄想、睡眠障害(日中の過度の眠気)やパーキンソン病(手足の震え・歩行障害など)といった症状が出る。

脳血管性認知症は、脳梗塞脳出血などによって脳の血液循環が悪くなり、脳の一部が壊死してしまうタイプの認知症。運動麻痺や感覚麻痺、失語などの言語障害、意欲低下といった多岐にわたる症状が出現する。

「認知症=記憶力の衰退」とのイメージを強く想起しがちだが、勝手な思い込みは表面上に現れている認知症のその他の症状から目を逸らさせてしまう。「普段と違う」と自覚したり、家族や友人にそのような兆候が確認できたりした場合は、早めに医療機関を受診するのが賢明だろう。

認知症予防のポイント

このようにさまざまな種類がある認知症は、実はちょっとした工夫で予防することができる。その一つが「運動」だ。福島医師によると、運動療法は認知症を抑制するというデータがあるため、運動自体にもある程度の予防効果が見込めるという。また、「余暇の使い方」も重要なポイントになる。

「いろいろな人と積極的にコミュニケーションを取ったり、趣味でストレス発散したりすることが認知症発症の抑制につながるというデータも多いです」と福島医師は話す。そのほかには読書や囲碁、将棋などで常に頭を使ったり、定期的に新たな人やモノといった"刺激"に触れたりすることも脳の活性化につながり、認知症の予防になると考えられている。

近年は、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる「健康寿命」と「平均寿命」が乖離していることが問題視されている。厚生労働省の「簡易生命表」によると男性は約9年、女性は約12年もこの2つの寿命に差があるが、高齢者を要介護・要支援に至らしめるものの一つに認知症があるのは間違いない。

60歳で定年退職を迎えた後も充実したシニアライフを過ごすため、今のうちからさまざまなモノに触れ、多くのコミュニティーに属しておくといいだろう。

※写真と本文は関係ありません

取材協力: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。