「鍋」はコンビニ対策にも効果的

「牛すき鍋膳」の発表会に登壇した吉野家の河村社長によると、吉野家で全メニューに占めるテイクアウトの割合は25~30%だが、「牛すき鍋膳」に絞ると、その割合は1割ほどになるという。半調理とはいえ、店舗内で提供までに使う時間はそれなりに必要だ。他の商品と比較しても、回転率は下がることになる。しかし、テイクアウトは店舗の座席を占有しないので、回転率という視点から見ると、「鍋」においてはテイクアウトの方がありがたいという結果となる。

テイクアウト比率が極端に低い「牛すき鍋膳」

回転率だけではなく、コンビニ対策においても持ち帰り「牛すき鍋膳」の存在は大きい。コンビニで出来たてアツアツの商品は、フライヤー関連の商品である揚げ物が中心だ。おかずなどの総菜類はチルドでショウケースに並ぶ。その点、「牛すき鍋膳」はコンビニが持ちえない商品価値を有していることになる。

個食のニーズは確かに、コンビニで満たすことが可能だが、コンビニだけで個食の需要を全て充足することは困難だ。その供給を補完する1つのアイテムが「アツアツの鍋」なのではないだろうか。

単価アップより困難な客数アップに再挑戦

来店客が少なければ売り上げは伸びない。そのためにも、来店数をいかに上げるかは重要な課題だ。そこで、吉野家は来店動機を創出する取り組みを2017年9月に開始した。「おろし牛カルビ定食」などの「夕食限定商品」だ。コンビニなどの「中食」対策も肝要だが、やはり来店客の増加は必要だ。そのための取り組みが、「吉野家で夕食を」という戦略だ。

吉野家が夕食需要を取り込もうとしている

2015年から夜間帯の集客増を目論み「よし呑み」をスタートさせた吉野家。帰宅前に一杯となると、やはり男性客の数は増えたが、一方で女性客は減少し、他社に流出するという結果を招いた。消費者から見た吉野家のイメージは、“カウンター席と中年男性”なのではないだろうか。残念ながら、女性客とファミリー層の集客に後れを取っている感は否めない。

そこで、新しい戦略として「吉野家で晩御飯」が考え出されたわけだ。“呑み”を前面に出さず、温かい夕食を提供する場所として来店機会の創出を狙った戦略だ。「牛すき鍋膳」への注力具合もこの文脈で説明できる。

ただし、想定通りの顧客が来店しなければ、売り上げは向上しない。要するに来店客の増加は、顧客に来店してもらえる「価値を創出できているか」にかかってくる。

コンビニも、店内消費を狙ってイートインスペースを確保するチェーンが増えている。消費者の選択肢が多様になる中で「牛すき鍋膳」も進化しているが、当然、他社も商品開発に力を込め、自慢の鍋で仕掛けてくることだろう。