うまい、やすい、ごゆっくり?

2013年に米国産牛肉の輸入規制が緩和されたことにより、吉野家としては、同社が目指す味わいを持つ月齢の素材が手に入れやすくなった。牛丼の価格を値下げした年と記憶される年であるが、「うまい、やすい、ごゆっくり」をコンセプトとした「牛すき鍋膳」はこの年に産声を上げた。「うまい、やすい、はやい」が企業文化であったところに、あえて「ごゆっくり」を掲げて新商品を誕生させたわけだ。

2013年には並行して新たな実験も行われていた。素材をすべて生から調理する鍋を提供する、1人鍋に特化した吉野家の新業態「いちなべ家」である。IHコンロで1人鍋を十分に堪能する機会を提供する仕組みでスタートしたが、やはり、生からの調理には時間がかかることなどを理由に、現在は実験が終了している。本格的な「鍋料理」の味を追求したものの、提供方法や調理時間、店舗の形態など、やはり限界があったと想像できる。ただ、実験の結果として、吉野家の「鍋」は、半調理の具材を詰め合わせて調理時間の短縮と味の再現性を高める現在の形にたどりついたとも言えるだろう。

「牛すき鍋膳」は「ごゆっくり」というコンセプトで登場した

吉野家が目指す「テイクアウトの充実」

吉野家が最も重要視する指標の1つは集客だろう。景気回復と言われながらも、コンビニなどで弁当や食材を購入し自宅で食べる「中食」はブームを超えて定着している。その実情は、コンビニの弁当売り場の品ぞろえが物語っている。外食が対抗策として戦略を練ったのは、まず、店内消費であるイートインの強化と持ち帰りのテイクアウトだ。

「中食」に対抗するテイクアウトだが、スーパーやコンビニの商品と差別化できなければ選ばれる存在とはなりえない。今年の戦略の目玉に「テイクアウト」を掲げる吉野家では、社長自らが力を込め、店頭ポスターだけでなくCMの最後にも、「テイクアウト可能」ということを意識させるシーンを入れたほどだという。

ポスターにもテイクアウト可能である旨が目立つよう明示されている

では、「牛すき鍋膳」の持ち帰りはどのような感じなのだろうか。早速、テイクアウトを試そうと店舗に足を運んだ。準備を待つ「鍋」が山のように重なり、中にはセットされた野菜が詰められている。牛肉は調理を済ませ別のトレイに並べられて出番を待っている。店内消費と異なり、テイクアウトの場合は煮込んで「完成品」としてから顧客に手渡される。そのため、注文時に「お時間をいただきます」と説明を受けた。

半調理の商品に店舗で熱を入れて仕上げた「アツアツ鍋」。注文から待ち時間は少々あるものの、手に取った時の温かさは心地よい。レンジではなく、実際に火床で完成された「鍋」は期待値を盛り上げる。テイクアウトにこだわった専用容器の効果もあるのだろうが、自宅までの10分強は比較的、温かさを保持した状態で持ち帰ることができた。