伊藤美来

"21歳の伊藤美来"の、希望に満ちた幕開け――。10月14日、東京・Zepp DiverCityにて開催された「伊藤美来 Birthday Live Miku's Adventures 2017 "Island of aquaveil"」は、このひと言に集約されるような、これからの1年への高い期待を抱かせるステージだった。本稿では、そのうち夜の部の模様をお届けする。

みっくとの大掛かりなお散歩、スタート

定刻になると、1stアルバム『水彩 ~aquaveil~』のリード曲「ワタシイロ」のMV冒頭部分がプロローグとして上映。ステージに伊藤が登場すると、逆光の中でまず「ミラクル」を披露。大掛かりな振付はないものの細部まで見せ所がよく整理されており、なおかつ端々までその動きはピッとキレのあるもの。それがキュートさを阻害しない、彼女ならではのステージを1曲目から見せる。続く「Morning Coffee」では、イントロと同時にセットのライトは虹色に、続いて黄色に変わり朝日差し込む部屋を連想させる。伊藤も頭サビの歌唱後は跳ねながらかわいらしく観客を煽ったかと思えば、笑顔でお立ち台に登ってその観客へと手を振ってもみせる。2サビ明け間奏ではツイストっぽい動きでポンポン跳ねて、キュートにリズムにも乗る。その一方で落ちサビでの澄んで美しい彼女のファルセットは、聴かせどころのひとつ。

曲明けのMCでは、前々日・12日に21歳の誕生日を迎えたことを改めて報告。イヤモニをはずして観客からの「おめでとう!」の大歓声を受け止めに行く。続けてその前々日の、伊藤家でのエピソードも披露。スタジオでのリハからの帰りをハンバーグを作った母と末弟が待ってくれていたのにもかかわらず、疲れから漫然と食べてしまったところ、翌朝それを弟が作ってくれていたことを知り、薄いリアクションだったことを懺悔していた。

さて、「ワタシイロ」のMVになぞらえ"お散歩"と表されたライブは、「No Color」から再開。淡いピンクの光に包まれ歌うミドルナンバーに乗せて、客席からは自然とクラップが起こる。伊藤自身も2サビ明けにはゆるりとクラップをしたかと思えば、腕で客席をさらってその空気をそっと抱きしめてみせる。その姿やサビの締めで甘く甘くクセをつけた歌声、さらに小首をかしげた曲の締めくくりなど、彼女の愛らしさも堪能できる1曲となった。 続く「ルージュバック」も、同じくミドルナンバー。少し歌声が強めなものに変わったのは、そこにさらに切なさを付加したからだろうか。彼女独特の歌声のクセも、この曲ではその切ない心情にピタリとハマる。また、曲の締めくくりでスッと切った目線も、その感情をより強いものに感じさせる。そしてスタンドマイクを用いて歌った「Moonlight」は、振付がほぼなかった分その歌声の見せ場が充実。それぞれの節回しに乗る感情は幅広く深いものとなり、特に押しよりも引き方向の魅せ方が実に巧みで、グッと引き込まれてしまった。それが1曲の中の感情の流れにもしっかり沿うものとなっており、サビ頭で強く打ち出される感情をより引き立たせてもいた。

ここまで3曲はラブソングくくり。「ドキドキした? ハラハラした? 私もした!」と笑顔で振り返ると、かわいらしくてオトナな余裕のある「No Color」に、バーに入ってマスターの前で泣きながら歌っているイメージの「ルージュバック」、そしてCD音源では大人っぽくも第三者目線から淡々と歌いながらも、ここではライブならではの感情を込めたという自身初のバラード「Moonlight」と、3曲それぞれの色の違いが語られていた。

特ソンカバーで感じた、広がる彼女の可能性

続いての楽曲は、初めて作詞を手がけた「あお信号」。作詞の難しさを実感しながらも、「応援してくれている皆さん、私を支えてくれているスタッフの皆さんや家族に向けて書きました」とテーマを伝え、歌い始める。そんな今の自身の気持ちがたっぷりたっぷり乗った大事な1曲は、そのテーマに沿うように会場のファンをゆっくり見回しながら歌い始められる。かと思えば2コーラス目に入ると歌声には強めに感情が乗り、その想いが自ら描いた歌詞の世界のなかで膨らんでいくさまを感じさせる。また、大事なメッセージの込められた落ちサビは、昼の部では感極まって声を詰まらせてしまったのだが、ここでは優しい表情とともに、その想いを温かく伝えてくれていた。

幕間映像を挟み、今度はステージが一気に赤に染まる。そこに流れるイントロと特撮作品風のナレーションは、2年前のバースデーイベントで誕生した伊藤最初のオリジナル曲「妄想Realize」のもの。特ソン風の楽曲にのせて、キレあるダンスとともに登場した彼女の歌声は先ほどまでと一変。力強さと鋭さが、さらに付加されたものになる。ブーツを履きながらもサビ頭のターンをきれいに決め、ラストも逆光のなか見栄を切って締めくくるなど、かっこよく1曲の世界を作り上げていた。

その「妄想Realize」を手掛けたYOFFYが所属するサイキックラバーの「特捜戦隊デカレンジャー」から、伊藤のワンマン恒例の特撮ソングカバーコーナーがスタート。伊藤の歌声はただの強さとは一線を画した少年っぽささえ感じさせるものとなり、カバー曲ならではの普段聴けないテイストの歌声を楽しむことができたのと同時に、その声質の活きる芝居もアニメで本格的に観てみたいと思わされた。また、サビではステージ上のLEDの柱が青・ピンク・赤・黄・緑の5色に変わるという心にくい演出がなされ、それを背に客席へマイクを向けるなどこの曲を楽しみきっていく伊藤。さらに続けて「みんな! ひとっ走り付き合えよ!」と『仮面ライダードライブ』の主人公・泊進ノ介のキメゼリフを発し、その主題歌「SURPRISE-DRIVE」をこちらも力強い成分多めの歌声で熱唱。再び赤に染まった会場で、力いっぱい長く長くロングトーンを歌い上げる。こうして、夜の部の2曲のカバー曲ゾーンはただの"趣味"で終わらない、芝居の幅にさえさらなる可能性を感じさせる、いい意味での思わぬ収穫のあるブロックだった。

そして客席は、次曲「Shocking Blue」のイントロが流れた瞬間に一気に青へと色を変える。この曲もブラスの音色に象徴されるようにスタイリッシュなナンバーではあるが、歌声のアウトプットは直前2曲とはまったくの別物。要所は決めつつも、女性的な強さの出た歌声になっていた。また、2サビ明けでの笑顔ながらも少々上から目線のような表情からは、曲への没入具合をとりわけ強く感じられ、思わずゾクリとさせられた。