エンパイアが提供するバリューで、現在までに分かっていることは、①店舗で熟成するアンガスビーフと、②熟成肉を引き立てるワインの品ぞろえだ。店舗の内装については、今回は紹介がなかった。つまり、ソフトの面である「熟成肉」については先行発表されたが、ハードとしての店舗(内装、空間の使い方、環境の構成など)については、オープン時のレセプションまで待つことになる。

価格と体験のバランスは

さて、問題は価格だが、看板メニューとなる「ポーターハウスステーキ」は2人前で1万6000円。NYエンパイアステーキハウスのオリジナル商品である「エンペラーステーキ」については、2~3人前で2万4000円だ。やはり、普段使いの金額を上回っている印象だが、普段使いではない店舗だというのであれば、どのような場面で利用するのかという「提供される店舗体験(エクスペリエンス)」が、消費者目線で見た場合に、エンパイアを選ぶかどうかのポイントとなるのではないだろうか。

エンパイアにはシーフードメニューもある(画像はニューヨーク店舗のメニュー)

体験という意味で、エンペラーステーキは注目すべきメニューと言える。これは450グラムのTボーンステーキなのだが、なんとサーロインとシャトーブリアンの両方を楽しむことのできる超ゴージャスなステーキなのだ。3人であれば1人あたり8000円で、大きさだけでなく品質も最高級の肉の食べ比べという異次元体験ができるのであれば、これも大きな魅力の1つになるだろう。

六本木は老舗ステーキハウス代理戦争の様相

1人あたり8000円という価格は、実は六本木ステーキ戦争において驚くべき設定ではない。ウルフギャングもベンジャミンも、2人前1万6000円という価格設定になっているので、エンパイアは競合店と横並びの価格を提示していることになる。

むしろ驚くべきは、ウルフギャング、ベンジャミン、エンパイアの3店が、ルーツをたどれば「ピータールーガー」に行きつくこと。偶然ではないかもしれないが、ピータールーガーで腕を磨き競いあった職人たちが、ここ六本木で相まみえることになるとは、誰が想像できたであろう。

相応の金額を払えば、おいしい熟成肉を食べられるステーキハウスが、六本木にまた1つ増えることは消費者にとって喜ばしいことである。ただし、普通に考えると月に何度も訪問できる価格帯の店ではないので、これからは、例えば年に一度の記念日などに選ばれるための情報発信が不可欠になるだろう。すでに知名度ではウルフギャングが頭1つ抜け出している印象だが、エンパイアはキャッチアップできるだろうか。まずは早耳の肉好きが同店を訪れるだろうが、そこから口コミで評判が広がるかどうかが鍵となる。