「あごが張っているよりも、細面の方がいいじゃないか」と思う人もいるかもしれない。だが、あごが小さくなると歯がきれいに並ぶスペースがなくなり、歯並びが悪くなるという弊害もある。

「歯並びが悪くなると、歯みがきで歯ブラシが届かない範囲が増え、虫歯につながることに……。そして、虫歯が咀嚼する力を弱め、消化不良を引き起こすという悪循環に陥ってしまいます」

あごを動かす筋肉群は三叉神経(脳神経の一つ)によって支配されている。この三叉神経がうまく機能しないと、表情がなくなったりうつ症状が出たりするなど、神経症にも影響するとの説もあるとのこと。子どもの発育においても、よく噛む子と噛まない子では、判断力や集中力、記憶力などで差が出るとも言われており、咀嚼が与える影響は広範囲に及ぶようだ。

もう一つの咀嚼の効用としてよく知られるのはダイエット。噛むことで時間をかけて食べ物が取り込まれるため、満腹中枢が刺激される十分な時間ができ、量をたくさん食べなくても満足感が得られると考えられている。

子どもの発育において、よく噛むことは大切だ

では、「よく噛む」とは具体的にどれくらいの回数を指すのだろうか。「一口30回」が理想の回数と一般的に言われがちではあるが、実際に30回も噛むと、食べ物の形が全くなくなり気持ち悪さを感じることもあるのではないだろうか。特定非営利活動法人 日本咀嚼学会の研究によると、30回というのは生のにんじんやナッツ類などの固形物を噛む際、消化不良を起こさない理想の回数だそうだ。

「30回はあくまでも基準の数。まずは、意識的に噛む回数を増やそうという心がけが大事です。よく噛む習慣ができると、食べ物が喉を通ったとき、小さな固形であっても『飲み込んだ』という感覚を抱くようになります。そばやうどんなど、のどごしを味わうとされているものであっても、噛む習慣をつけることが大切です」

食事時間以外の「噛み過ぎ」には注意

一方で、ガムをずっと噛んでいるなど、咀嚼筋を過剰に動かして顎関節痛や咀嚼筋痛を引き起こすこともあるという。中川先生のもとに「歯が痛い」と訪れる患者の中には、歯には全く問題がないのに「筋肉疲労」から痛みが生じているケースもあるのだとか。

「食べ物をしっかり噛むことはもちろん大切ですが、食事以外の場面で緊張やストレスのあまり、食いしばりを起こす方も一定数いらっしゃいます。虫歯じゃないのに歯科医に神経を抜かれてしまって、それでも痛みが治まらず、よく調べたらあごの関節の痛みだったという患者さんもいらっしゃいました。また、噛むときには左右均等に筋肉を使うことはほとんどなく、どちらかを偏って使っています。『咀嚼筋を鍛えよう』と過剰に動かしすぎると、噛むクセのある側の筋肉が張ってきてしまうなどの弊害もありますので、食事での咀嚼を意識的に行うだけで十分だと考えてください」

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