5月23日、トランプ大統領がようやく2018年度予算教書を発表した。「アメリカの偉大さのための新たな土台」との副題が付けられている。8年前、就任したばかりのオバマ大統領が「新しい時代の責任」とする予算教書を発表したのが2月26日だった。今回はずい分とゆっくりだったことになる。しかも、「新しい時代の責任」は正味134ページあったが、「アメリカの偉大さ・・」は47ページに過ぎない。ページ数が全てではないものの、内容も「推して知るべし」か。

出所:米OMB(行政管理予算局)

「アメリカの偉大さ・・」の注目ポイントは以下の通り。

注目ポイント

  • 財政収支を10年間で均衡させる(=財政赤字の解消)
  • 国防支出を増やす一方で、非国防支出を大幅に削減
  • 社会保障以外の福祉関連給付を大幅に削減
  • インフラ投資を10年間で2,000億ドル実行
  • 所得税や法人税の減税を含む税制改革を実行
  • 所得税や法人税の税収は税制改革がない場合とほぼ同じ
  • 経済成長の高まりを想定して、10年間で2兆ドルの財政赤字削減効果を見込む

トランプ予算案は、議会内外から「DOA(デッド・オン・アライバル)」とみられているようだ。「DOA」とは直訳すれば、「(病院に)到着時にすでに死亡していた」という意味だが、転じて法案や計画が最初から成立する見込みがないことを意味する。

トランプ予算案に対する批判は以下の通り。

まず、10年間(注)での財政赤字削減の総額の4割近くを、楽観的な経済見通し、いわゆる「ロージー(バラ色の)シナリオ」に頼っている。残りのほとんどが福祉関連給付や非国防支出の削減分だ。国防支出が微増となる一方で、非国防支出は30%近く削減される。

(注) 予算教書は原則として年度ごとだが、税制や給付制度などの変更によって将来の歳出入が一部影響を受けるため、5年間ないし10年間の効果が考慮される。

さらに、減税を実施するものの、経済成長によって税収にほとんど変化がないとの想定だ。1981年に就任したレーガン大統領は、税率を下げれば税収が増えるという、「ラッファー効果」に期待して大規模減税を断行したが、そうした効果はほとんどみられなかった。トランプ大統領も同じ轍(てつ)を踏もうとしているのか。

大統領は予算を「提案」することはできるが、作ることはできない。予算を実際に作るのは議会だ(議会が作った予算法案に大統領が署名して成立する)。議会では、共和党が上院でも下院でも議席の過半数を占めているものの、全ての共和党議員が大統領提案を受け入れる保証はない。むしろ、大統領提案に諸手を挙げて賛成するのはごく少数だろう。

議会では、トランプ予算案と全く異なる、独自の予算案が審議されるかもしれない。予算審議は、2018年度が始まる10月1日ギリギリまで、あるいはそれを越えても続く可能性がある。市場は、固唾を飲んで予算審議の行方を見守ることになりそうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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