4月24日、2週間の春休みを終えて米議会が再開する。議会の前には課題が山積している。

まずは、4月28日に期限切れとなる2017年度予算に対応することだ。現在の継続予算の期限が切れると、翌29日から年度が終了する9月30日まで予算が付かない状態となる。そのため政府機関が一部閉鎖される事態も想定される。

議会は春休み前に年度終了までの新たな予算を準備しつつあった。ただ、トランプ政権は国防費の増額や非国防費の削減を求めており、新たな予算がスムーズに成立するかどうかは不透明だ。議会が短期の継続予算を繋げて交渉を続ける可能性もありそうだ。

2017年度予算が決着すると、10月1日に始まる2018年度予算の審議が控えている。そこでは、トランプノミクス(トランプ大統領の経済政策)の柱である減税やインフラ投資が焦点となろう。ただ、トランプ大統領の指導力の欠如や求心力の低下が浮き彫りとなったことで、それらの先行きにも暗雲が垂れ込めていると言わざるを得ない。

トランプ政権は3月16日に予算案を公表した。それは、従来の予算教書には程遠い内容で、歳出の一部についての概要に過ぎなかった。トランプ政権は減税やインフラ投資を含む包括的な予算案を5月に発表し、議会審議の後に8月ごろの成立を目指していた。しかし、それはすでに非現実的な目標となっている。

トランプ政権から正式な減税案が出ているわけではないので、詳細は不明だ。ただ、トランプ候補が選挙戦で公約していた減税案は、所得税や法人税の税率引き下げ、資産税の廃止などを組み合わせたものだ。そして、いくつかのシンクタンクによれば、それらは10年間で約6兆ドルの税収減につながるという。対外競争力を高めるために、輸入に課税して輸出を非課税とする「国境調整税」も俎上に載るかもしれない。

さて、減税案にかかわる最大の問題は財源に乏しいことだ。トランプ政権は経済成長の高まりによる自然増収をアテにしているかもしれない。しかし、前出のシンクタンクのひとつによると、減税コストの3分の1程度しかカバーできないようだ。歳出の削減は国防費の増額に向けられるので、財源にはなりえない。

さらに、トランプ大統領は、最大の歳出項目である社会保障には手を付けないと公言している。そのうえ、1兆ドルとされるインフラ投資が加わるのだから、帳尻が合うはずもない。

ここへきて、トランプ大統領は、一度棚上げしたオバマケア(医療保険制度改革)の改廃法案の成立を優先する意向を示している。オバマケア改廃によって一段の歳出削減が見込めるからだ。ただ、一度は共和党内の保守強硬派や穏健派の一部からも批判が噴出したオバマケアの改廃を進めることができるのか、こちらも見通し良好とは言い難い。

仮に減税やインフラ投資によって財政赤字拡大が見込まれるのであれば、共和党内の保守強硬派はそれらにも強く反発しそうだ。また、減税が企業や富裕層を優遇するとみなされれば、民主党から支持を取り付けるのも難しかろう。減税がトランプ大統領自身の利益に資するものかどうかをチェックするため、民主党は大統領の納税記録の公開を要求しており、それなしでは審議に応じない構えをみせている。一方で、トランプ大統領は公開拒否の姿勢を貫いている。

かかる状況下で、ムニューシン財務長官は、年内の減税成立は「可能」だとしているが、市場では懐疑的な見方が強まっている。

歴代の大統領は、就任直後は自身の公約やイデオロギーを強引に実現しようとして数多くの失敗をした。そして、その苦い経験を活かして、野党に歩み寄ることで政策を実現してきた。

果たして、トランプ大統領にそうした学習効果は働くのか。就任から100日間の「ハネムーン期間」が終わろうとしている今、トランプ大統領に少しでもその兆候が現れるのか興味深いところだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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