3月15日、米FRB(連邦準備制度理事会)はFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げを決定した。2015年12月、2016年12月に続く、リーマンショック後で3度目の利上げだ。

FOMCの決定に対して、市場は、株高、金利低下(債券価格は上昇)、米ドル安で反応した。もともと0.25%の利上げが確実視されていたことがその理由の一つ。いわゆる「材料出尽くし」である。もう一つの理由は、FRBがアグレッシブな利上げを示唆するとの一部の予想が実現しなかったことだ。

確かに、FOMC直後の会見で、イエレン議長は「緩やかな」利上げを続ける意向を改めて表明した。利上げに慎重な「ハト派」的なスタンスに大きな変化はないことが示された格好だ。

ただし、FOMCの材料を仔細に検証すると、やや違った見方も可能だ。FOMCがインフレを警戒している兆候が散見される。まず、声明文では、冒頭で「ここ数四半期、インフレは高まっており、2%の長期目標に接近している」との判断が示された。前回までは「インフレは高まっているが、依然として2%の長期目標を下回っている」だった。

そして、今後の政策方針に関して、今回の声明文には「対称性の(symmetric)物価目標と比較して物価動向を監視する」とあった。1月の声明文では「物価目標に向けての進捗を監視する」だった。

この2つの文章には大きな違いがある。1月の声明文には、「現在の低いインフレが2%の目標に向けて上昇するのを見守る」との意味合いがあった。完全雇用がほぼ達成されているなかで、従来はインフレの低さが利上げを慎重に進める根拠となってきた。しかし、今回は「対称性の」が入ったことで、「インフレが2%を超える可能性もあり、その場合は(利上げによって)2%に下げる」との含意がある。

FOMCに参加する個々人の政策金利見通し、いわゆる「ドット」について、その中央値(17人のうち上からも下からも9番目の見通し)は2017年中に3回(残り2回)、2018年中にさらに3回の利上げを想定している。昨年12月の前回の見通しと同じだ。ただし、両年とも中央値のドットが増えて、それらより下のドットが減った。中央値より少ない回数の利上げを想定する参加者が減ったことを示している。政策金利に対するFOMC内の平均的な目線が以前より上がっていると解釈できる。

FOMC後のFFレート(政策金利)先物に基づけば、市場は今年6月と12月に追加利上げを予想している。ただ、いずれも確率は5割をわずかに超える程度だ。自信を持って予想しているとは言い難い。

今回の利上げが3週間前にはわずか3割の確率でしか予想されていなかったように、市場の予想は今後も状況に応じて大きく変化しうるだろう。インフレが加速するようであれば、市場はFOMCのアグレッシブな利上げを急速に織り込むかもしれない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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