「マツダ地獄」という言われ方があった。それは、マツダ車を買うとその後に値が下がり、次に買い替えをする際には再びマツダ車にしないと下取り価格が大幅に下がってしまうことを言った。だが昨今では、マツダ車の価値が下がりにくくなり、かえって下取りの際の値打ちが他車比較を上回るという。背景に、近年のマツダ車の商品性が上がり、魅力が高まっている状況があるが、それだけではない営業やアフターサービスの改革があった。

マツダ車の商品性が急激に向上

マツダは、2012年に発売された「CX-5」から、新世代商品群と銘打ち、マツダのスカイアクティブ技術(SKYACTIV TECHNOLOGY)を搭載し、魂動(こどう)デザインを取り入れた新車を相次いで発売してきた。それら新車は、環境の時代に適合したガソリンとディーゼルエンジンなど、環境負荷の低減と走りの良さを両立した安心と満足に加え、格好よさや上質さが高く評価され、マツダ車の存在感を巷に溢れさせている。

新世代商品群の先陣を切り、先頃フルモデルチェンジを受けた「CX-5」

なぜ、急速にマツダ車の商品性が上がったかといえば、年間生産台数120万台規模(2016年は158万台強)の自動車メーカーとして、身の丈に合った市場分析を徹底し、そこに最適な新車を投入する技術開発とデザインの方向性を明らかにしたことが大きい。

技術面でいえば排気ガスの規制や燃費数値など目前の目標に対して、単に触媒やモーターなどのデバイスを追加する手段を講じるのでなく、「ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHV)などを含め、近い将来はなおエンジン搭載車が大半を占める」という分析と、「気候変動(地球温暖化≒CO2排出量)抑制」を大義とし、「エンジン効率を徹底的に高める」との原理原則に則ったエンジン開発思想を打ち立てた。

その手法は、エンジンだけでなく、トランスミッション(変速機)やシャシー、車体など、クルマ全体の技術開発に及ぶ。それが大義を実現するための技術――SKYACTIVであり、エンジン開発の責任者であるマツダ常務執行役員の人見光夫氏は、「空に向かって無限の可能性を追求していくこと」だと語った。

デザインでは、「クルマは美しい道具でありたい」との理想から、人が手で生み出す美しいフォルムをまとい、命あるアートでありたいとの理想を追求する。その理想とは動物の動きであり、そこから魂をゆさぶる魂動デザインが生まれてくる。

「ロードスターRF」も魂動デザインを体現する1台だ

どちらにも通じるのは、数値や技法ではなく、人の思いであり、志という形のないものを開発者たちの心に刻み込むことにある。

一括企画の採用がカギに

そのうえで、一括企画という開発手法をマツダは採った。これは、何年か先までの新車開発を視野に、車種の違いに関わらず、各機能について共通の基本概念を定め、新車開発において高めるべき機能を明確にすることである。これを実現する技術をコモンアーキテクチャーといい、基本となる技術を共通化し、同じ機能を車種を問わず実現していく。これは、一般的に言われる部品の共通化とは異なり、機能を共通化することを目的とし、場合によっては、部品自体は異なる場合も考えられる。

これら一括企画とコモンアーキテクチャーを導入することにより、SKYACTIV技術と魂動デザインを新車に導入するだけでなく、モデルチェンジ前であっても最新の機能を搭載できる体制を整えた。つまり、同じモデルであっても、年月が経過しても商品性を落としにくくなったということだ。

実際、2016年の7月から11月までの4カ月間で、「アクセラ」、「アテンザ」、「デミオ」、「CX-3」の計4車種で商品改良を実施している。マツダの企業規模で短期間に実現できたことが、一括企画の成果の証になっている。

こうしたマツダの新車開発やものづくりの革新を得て、販売の仕方も改革された。