あんかけスパゲティの元祖「スパゲッティハウス・ヨコイ」が開発したレトルトソース、「ヨコイのソース」をご存知だろうか。名古屋周辺の主要スーパーでは定番商品として定着していて、地元の人にとっては、家にいながらにして名店の味が楽しめる、親しみ深い一品だ。

その「ヨコイのソース」が昨年9月、「ヨコイのソース 現在の味」としておよそ30年ぶりにリニューアルされた。しかし一方で、ロングセラーとなっている既存品も「ヨコイのソース 創業時の味」と名前を変え、パッケージのみマイナーチェンジし、店頭に並び続けている。

ここで気になることが……。名古屋っ子が食べ続けてきた既存の「ヨコイのソース」は、店の味とは違っていたということなのだろうか。それとも、半世紀以上愛されてきた店の味は、少しずつ変化していたということなのか……??

店の見解を伺うと共に、名古屋在住の"ヨコイファン" 5人が集結し、「創業時の味」「現在の味」「店内調理の味」3つを食べ比べてみた。

名古屋在住の"ヨコイファン"が集結! 「創業時の味」「現在の味」「店内調理の味」3つを食べ比べてみた

30年ぶりのリニューアル、何が変わった?

名古屋名物「あんかけスパゲティ」は、中華料理や和食の"あん"のような、とろみのあるソースが特徴的なご当地スパ。名古屋市内には専門店が何十軒とあるほど、名古屋メシの一角として浸透している。こってりしていてピリリと辛いソースと、ラードで炒めた極太麺の組み合わせは、ヘビーで食べ応え十分! おかげでスパゲティなのに、女性よりも男性……しかも、圧倒的におじさん世代からの支持があつい。

その元祖と言われているのが、昭和38年創業の「スパゲッティハウス・ヨコイ」(以下「ヨコイ」)。初代がイタリアの家庭料理にヒントを得て、日本人の口に合うように開発したのが"ヨコイのソース"、通称"あんかけソース"である。”あんかけ”という呼び名から、他府県の人は全く味のイメージがつかないと思うが、その正体は「ミートソース」。肉や野菜の形状が無くなるまで徹底的にこし、さらにでんぷんでとろみを、スパイスで辛味を加えて、オリジナルな味わいに進化させている。

ヨコイの代名詞・あんかけスパゲティの「ミラカン」(950円)。ハム主体のミラネーズ&野菜中心のカントリーのトッピング

あんかけスパの生みの親であるヨコイだが、チェーン化はせず、直営店は、長らく市内に2店舗のみ(昨年、およそ半世紀ぶりに直営店を名古屋駅の新ビル「KITTE 名古屋」内にオープン)。しかし地元では、店に行けない人でも、レトルト商品である「ヨコイのソース」で、その味に親しんできた。

その「ヨコイのソース」をリニューアルし、店舗で出している本物の味により近づけたのが、昨年9月に発売された「ヨコイのソース 現在の味」(希望小売価格: 756円)なのだという。そうすると、これまで販売されていた「ヨコイのソース」は、店の味とは違っていたということなのだろうか。

左から「ヨコイのソース 創業時の味」「ヨコイのソース 現在の味」(共に希望小売価格: 756円)

この点について、ヨコイの3代目・横井慎也さんは、「店で出している味を、特に変えてきたわけではありません」と語る。「生の野菜や肉を使って職人が手をかけて作るので、微妙にブレが出ることがあるのですが、そのブレを可能な限り減らすために、長年工夫を重ねてきた結果、今の味があります」とのこと。

また「既存のレトルトソースは、30年以上前に開発したものであるため、技術的に本物の味に近づききれない部分もありました」と横井さん。現代の技術・開発力で、あらためて今出している店の味を再現した結果、リニューアルが実現したのだ。

左から、3代目の横井慎也さんと、レトルトソースの製造・販売元である日本製麻名古屋支店長の宮窪浩一さん

5人の名古屋人が3つの味を実食調査!

では、「創業時の味」と「現在の味」、2つのレトルトソースはどれくらい違うのか。そして「現在の味」は、どれだけ"店の味"に忠実なのか。筆者を含む、"ヨコイファン"の名古屋在住者5人で実食・比較してみることにした。参加者は、以下の方々だ。

左手前から時計回りに、菅原佳己さん、筆者・大竹敏之、福原大介さん、肉厚アイドルぴーこさん、田口絵未花さん

福原大介さん(地元代表)
常連歴15年以上。少なくとも週1回は店に通い、オーダーしなくても、"いつもの"が出てくるヘビーユーザー。
菅原佳己さん(外様代表)
ご当地スーパー研究家。東京生まれのため、最初はあんかけスパが苦手だったが、何度かトライしているうちに、やみつきに。
大竹敏之(地元代表)
当記事の筆者。他の専門店や家庭用レトルト商品を含め、月2~3回はあんかけスパを食す。
肉厚アイドルぴーこさん(女子代表)
地元の小牧市にお気に入りの専門店あり。ヨコイのソースは、レトルトを時々購入。
田口絵未花さん(ビギナー代表)
ZIP-FMナビゲーター。三重県出身で、大学から名古屋へ。あんかけスパ体験は、他店で1回だけ。

実食は、ヨコイ住吉本店の協力を得て、店で調理したスパゲティに、レトルトの2種類のソース、そして店内調理のソースをかけ、あわせて3種類を順番に食す、という方法を採用した。

講評1: 「ヨコイのソース 創業時の味」(レトルトソース)

「ヨコイのソース 創業時の味」。「現在の味」と店で出しているソースには、黒っぽい粒子が混じっているが、「創業時の味」は粒々がない

福原: 酸味が強め。辛さが後から来る。


菅原: トマトがベースになっているのがよく分かる。


トマトベースの味わいを堪能した菅原さん

大竹: 家でよく作るので、慣れ親しんだ味。


ぴーこ: スパイス以上に野菜の味がする。ソースだけなめていたら、他との違いが分からなくなりました。


創業時の味に「Sっ気を感じた」という田口さん

田口: トマトの酸味・風味が後の方にふわっとくる。コショウのアクセントが効いていて、「どうだ? どうだ?? ちょっと辛いだろ???」とSっ気で迫ってくる味。


講評2:「ヨコイのソース 現在の味」(レトルトソース)

「ヨコイのソース 現在の味」

福原: まろやかで、クセがない感じ。


菅原: 辛みの中に深いコク、甘み。甘・辛・甘。バランスよいソース。好きかも。


大竹: コクとまろやかさがある。ピリっと感もしっかり。


「”味が濃い”って感じの辛さ」と評したぴーこさん

ぴーこ: "味が濃い"って感じの辛さがある。水が欲しくなります。


田口: まろやかで、柔軟性と包容力があって、男性で言えば俳優のディーン・フジオカさん、スケート選手の羽生結弦くんのよう……♪


講評3:「ヨコイ住吉本店の店内調理」

「ヨコイ住吉本店の店内調理」

福原: これこれ!! 昨日も食べた。一番キリっとしていて、とろみもちょうどよく、バランスよくまとまっている。


常連客ならではの感想を語ってくれた福原さん

菅原: とろみもコショウの辛さも一番強い。でも、スッと爽やかな風が吹くような後味でした。


大竹: ピリ辛感がさらにダイレクトで、パンチがある。麺との一体感がある。


ぴーこ: スパイスがかなりガツンと来ます。辛い! でも、酸味もあって、またもう少し食べたくなります。ソースと麺が一番よくからんでいる気がします。


田口: 辛さも甘さも酸味も一気に来る! 最近のUSJみたいに、キャラクターが全員大集合して、パワーいっぱいな味!!


名古屋人にとって「ヨコイのソース」とは

というわけで、「これからの私とあんかけ」をテーマに、最後に総評をいただいた。

福原: 自宅では、麺をラードで炒めるのが難しいので、やっぱりお店で食べるのが一番!


菅原: そりゃぁお店の味が一番かもしれませんが、私にとってはどれも名古屋の味。全部おいしかった。


大竹: 3つ並べて食べ比べると、確かに少しずつ味が違うが、1皿だけ出されたら、どれか分からないかも。レトルトのクオリティーの高さ、再現力はスゴイ!


ぴーこ: どれもおいしかった。麺やラードにもこだわっているので、この味は家では食べられないなぁと思いました。


田口: 甘酸っぱいイメージがあったけれど、食べたら辛くて驚きました。私は「創業時の味」を選びたい。Mなので、攻めてくる感じがコーフンするから♪


ヘビーユーザーからビギナーまで、五者五様の反応となった食べ比べ。店で調理したものが一番うまいのは当たり前だが、レトルトも遜色がないくらい、レベルが高いのには驚かされる。また、常連は当然店の味を選ぶが、古くからレトルトを販売しているスーパー関係者からは、「新しいレトルトソースの方がおいしいけれど、私は既存の『創業時の味』のソースが好き」という声が、少なからず聞こえたとか。食べ慣れている味が自分にとって一番、というわけなのだ。

レトルトの「ヨコイのソース 創業時の味」と「ヨコイのソース 現在の味」は、店頭で購入できるほか、名古屋市内をはじめ東海地方のスーパーなどでも取り扱い有り。実際に店に足を運んで本物の味を堪能してから、家でもレトルトソース2種類を食べ比べしてみることをオススメしたい。

●information
スパゲッティハウス・ヨコイ住吉本店
住所: 愛知県名古屋市中区栄3-10-11 サントウビル2階
営業時間: 11時~14時45分、17時~20時35分(日・祝は昼のみ)
定休日: 無休

※価格は税込

筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)

名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信。Webガイドサイト「オールアバウト」では名古屋ガイドを務める。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『続・名古屋の喫茶店』(リベラル社)は自腹リサーチをコンセプトにしてご当地ロングセラーに。10月上旬にはご当地グルメコミックエッセイ『まんぷく名古屋』(KADOKAWA、森下えみこ著)に案内人として登場。