名古屋名物、あんかけスパゲティ。名前の通り、とろみのある"あん"のようなソースが一番の特徴だ。ゆでた後にラードで炒めた極太麺はピリ辛味で、こってりずっしりとした食べ応えがある。今回は、このあんかけスパゲティの呼び名の生みの親とされる「からめ亭」をご紹介しよう。

からめ亭の「ミラカンスパ」(1,080円~)

ユニークなネーミングが名古屋名物に押し上げた!?

今では名古屋市内に「あんかけスパ専門店」とうたう店が少なくないが、この呼び名の生みの親は「からめ亭」(当時の店名は「ソール本山」)と言われている。昭和53年(1978)の創業からまもなく、マスターの志智均さんが名古屋のうどん店で浸透しているあんかけうどんからヒントを得てネーミング。その後、この名称はテレビの取材をきっかけに一気に広まることとなった。

ソースの見た目の特徴を見事に言い表し、それでいて中華料理のイメージが強い"あん"とスパゲティを組み合わせた意外性あふれる名前。このユニークさが、名古屋メシとして普及するのに一役買ったといっても過言ではないだろう。ちなみに、あんかけスパの料理そのものを作り出した「ヨコイ」の創業者は当初この呼び方がお気に召さなかったそうだが、今では堂々「あんかけスパ」とうたっている。

黒っぽいソースの秘密

「ソース自体の味を強くしたいと思い、試行錯誤を繰り返して作り上げたソースです」と志智栄児さん

からめ亭が生んだもうひとつのオリジナルが独特のソース。あんかけ用ソースは主材料がトマトのため、大体どの店でも赤っぽい。ところが、からめ亭のそれは赤というより焦げ茶、いやむしろ"黒っぽい"というほど色が濃いのだ。

この色の秘密は調理法にある。「具材を煮込むだけでなく、そこからさらにオーブンで焼き込むのです」と語るのは、丸の内店店長の志智栄児さん。煮込むのに半日、焼き込むのにひと晩。ペースト状になったソースの元はまるでみそのようだ。

焦げないように鍋につきっきりで作業する必要があるため、時間も根気も必要。「水分をしっかり飛ばすので大量の具材からわずかなソースしかできない」という。同店では定番のミラカンSサイズが1,080円と価格がやや高めだが、時間も手間も原価も十分にかかっていると考えれば納得だ。

さて、気になる味わいはどうだろう。麺にしっかりソースをからめて口へ運ぶと広がる深いコク、焦げが入る寸前の絶妙な香ばしさは、洋食の基本であるデミグラスソースに相通ずるものがある。ソースの強さに負けないよう辛みの元にはブラックペッパー。ガツンとパンチがきいていて、奥深さもある。ヤミツキ必至のインパクトは、あんかけスパ・シーン随一だ。

焼きこんだソースの元。まるで名古屋メシの肝である豆みそのよう

新名物となるか? 新作メニューの台湾まぜスパ

また、丸の内店では半年ほど前に考案したオリジナルメニュー、台湾まぜスパも食べられる。これは新・名古屋メシとしてここ数年で急速に普及している台湾まぜそばとあんかけスパのコラボメニュー。赤唐辛子が入った台湾まぜそばのピリピリした辛さと、あんかけスパのこってり濃い口の辛さが適度なバランスでからみ合っている。何でもかんでも足し算してしまう名古屋メシらしさも楽しめる1品だ。

丸の内店オリジナルの新作メニュー「台湾まぜスパ」(972円~)

見た目も味わいも他にはない個性がある、からめ亭のあんかけスパ。あんかけスパの元祖とされる「ヨコイ」や、幅広く支持を集める「チャオ」、カレーのココイチの系列で親しみやすい「パスタ・デ・ココ」などと食べ比べると、よりその際立ったオリジナリティーを楽しめるはずだ。

丸の内店はオフィス街の一角にある。地下鉄丸の内駅から徒歩5分ほど

●information
からめ亭 丸の内店
住所: 愛知県名古屋市中区丸の内2-14-4エグゼ丸の内1階
営業時間: 11時~20時30分(土・祝日は19時まで)
定休日: 日曜日

※記事中の情報・価格は2016年4月取材時のもの。価格は税込

筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)

名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信。Webガイドサイト「オールアバウト」では名古屋ガイドを務める。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『続・名古屋の喫茶店』(リベラル社)は自腹リサーチをコンセプトにしてご当地ロングセラーに。10月上旬にはご当地グルメコミックエッセイ『まんぷく名古屋』(KADOKAWA、森下えみこ著)に案内人として登場。