最後に治療法方についても触れておこう。脳リンパ腫の治療は、化学療法を実施してから放射線療法を行うのが近年のスタンダードとなっている。

通常、腫瘍は摘出量の多寡が予後に反映されると言われている。だが、リンパ腫に関しては腫瘍を仮にすべて取り除いたからといって予後が良好になるわけではない。また、脳の深部に腫瘍があるケースも少なくないため、原則として無理な摘出手術はしない。それでも、7~8割の症例では「化学療法を経てからの放射線療法で腫瘍が縮小します」と福島医師は解説する。

脳リンパ腫の化学療法に有効とされている「メトトレキサート(MTX)」を大量投与する「MTX大量療法」や、MTXに複数の抗がん剤を組み合わせた「多剤併用療法 」が化学療法ではよく用いられる。この後、脳への放射線照射を行う。脳リンパ腫は多発性のケースが多いため、腫瘍部位だけではなく、すべての脳部分をくまなく照射する「全脳照射」が一般的だ。ただ、高齢者はこの限りではない。

「高齢者患者に全脳照射を行うと、放射線障害による高次脳機能障害を招きやすいです。場合によっては全脳照射を控え、放射線治療専用の装置であるガンマナイフやサイバーナイフなどで定位的放射線照射(腫瘍に対し、多方向から放射線を集中させる方法)を行い、正常脳への被爆量を抑える治療法をとるという選択肢もあると思います」

この化学療法と放射線療法のセットは、確かに一定以上の治療効果を患者にもたらしてくれる。それでも、脳リンパ腫が体にもたらすダメージは、その治療効果を上回ることが往々にしてある。

「悪性の脳リンパ腫を発病すると、化学療法と放射線療法を行っても平均余命は3年ぐらいと言われています。5年生存率は30~40%ほどではないでしょうか。全身にできる他の悪性リンパ腫よりも、脳リンパ腫は予後が悪いです」

今後の日本で脳リンパ腫患者が増える可能性

総務省が2016年6月に発表した「平成27年国勢調査」は、日本の総人口の4分の1にあたる26・7%は65歳以上であることを示している。また、厚生労働省が発表した「平成27年簡易生命表」によると、日本人男性の平均寿命は80.79歳、同じく女性の平均寿命は87.05歳となっている。脳リンパ腫は50~70歳の高齢者に罹患するケースが多い。超高齢社会に突入している日本では、患者増加への"基盤"が日々、つくられていると言っても過言ではないだろう。

脳リンパ腫の症状には言語障害や認知機能低下など、周囲の人間が気づけるものもある。ただでさえ予後の悪い脳リンパ腫は初動が肝要。自分の身近な人に明らかにこういった兆候が見られたら、一度きちんとした検査をするよう勧めたいものだ。


記事監修: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。